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兎が二匹1巻 感想


兎が二匹 1巻 (バンチコミックス)

  

 つらい記憶と共に、長い時間を生き続ける不老不死のすずと、そんなすずを愛する咲朗。その2人の物語の感想です。

 

この二人にハッピーエンドはありうるのか?

 物語が始まっていきなりの絞殺シーン。泣きながらすずの首を絞める咲朗。焦点の合わない目から流れ落ちる涙、舌が飛び出てこぼれる唾液、そして絶叫……からの復活。不死者を題材にした作品ではありがちなシーンですが、咲朗の号泣ぶりがすごい。

 すずを絞殺して号泣。すずが生き返っても号泣。でも改めて考えてみると泣いて当然ではないでしょうか。

 大切な人が毎日のように死をせがんでくるわけです。仮に生き返ってくることがわかっていたとしても毎日のように殺すわけです。普通は発狂するのではないでしょうか。驚愕すべきは咲朗の精神力です。そしてポジティブな咲朗は復活後に自分と生きるように説得。たぶんここまでが2人の日課ということでしょうか。

 さて、そんな風に自殺を日課としているすずですが、その理由が語られているのが、動物園のデートのシーン。ふとした会話からもすずは過去の記憶に苛まれます。

 飢饉での口減らし、化け物扱い、がれきの山になった町。これらのコマの外側に描かれた真っ黒な闇とそこで蠢く無数の影の手が、日向を歩く2人のうち、すずの影だけを捕まえてしまいます。

 断片的ながらも異様な迫力があり、すずが死を望むことへの十分な説得力がありました。

 ページの端に小さく描かれた2人と、あまりに大きな闇の対比。すずの体は平然と歩いているのに、影だけが捕まり捕らわれてしまうという表現も、外界とすずの内面の隔たりを感じさせます。

 そして、すずは国を巻き込んで、とんでもない方法で自殺しようとするわけですが、自殺は失敗。

 1年の時間をかけて再生、復活の後、咲朗のその後を知るわけです。

 残した者と残されたものが逆転する形。厳しい言い方をするのならば因果応報と言えますが、あんまりと言えばあんまりな結末。ここで1話目が終わり、ここからは回想の形で物語が進むわけですが、すでにどうしようもないバッドエンド。

 大逆転のハッピーエンドを願わずにはいられません。

 

なれそめと成長

 すずと咲朗の馴初め、咲朗の父親との決別、すずの対人恐怖の問題と話が進んで行きます。それまで長い時間を生きながらも、周囲と隔絶した生き方をしていたすずが、少しずつ周囲と関わろうとしていく様子がいいですね。

 少しずつ手探りで前進していく感じが、いい味を出しています。びくつきながらもコミュニケーションを取ろうとするすずににやにやしました。生首に啖呵を切る大家の葉さんもかっこ良かったです。

 そして、野球の中継が気になって、慌てて風呂から飛び出し、裸でテレビの前ににじり寄るすず394歳、カープファン。それを後ろから抱きしめようとして空振り、気づいてももらえない咲朗15歳。笑いました。

 

対比にこだわりを感じさせる光と影

 1話のすずの抱える闇を感じさせる演出もそうですが、2話以降を読んでいても気になったのは、明暗のコントラストを強調した演出です。

 雨の日の街並みを黒く描き、人を白で表現した場面や、親に捨てられた咲朗が閉じこもった押し入れの闇の黒と、その押入れを開けたすずによってもたらされる光の白。

 単純に視覚的な黒と白の表現もあれば、心情的な描写を表現するための黒と白もありますが、何気ない1コマ1コマにも光と影がしっかりと書き込まれており、そこが強く印象に残りました。

 咲朗がすずの体の秘密を知るきっかけになったシーンでは、祭囃子と静まり返った室内という対比のシーンもありました。

 対比の表現にこだわりを感じますね。幸福と不幸、生と死というのも究極の対比かもしれません。

 

 

 2人が広島についたところで第1巻が終わりましたが、過去の回想という形で話が進んでいて、咲朗と出会う前のすずについてもまだほとんど語られていないので、物語としてはまだまだこれからです。

 しかし、つらいのは話の先で咲朗が死んでしまっていること。

 咲朗がすずと同じ不老不死になって復活するぐらいの展開がないと、ハッピーエンドになりようがないです。

 咲朗とすずの幼少期には共通点がないとも言えないので、幼少期の条件が似ているなら似たような体質にならないか、あるいは、すずを追いかけていた研究者(ストーカー)によって、不死の研究が完成していたら、もしくは仮説だけでも出来上がっていれば等、わずかなフラグに祈らずにはいられません。