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ニッケルオデオン【青】感想


ニッケルオデオン 青 (IKKI COMIX)

 

 8ページの超短編スタイルと、独特過ぎる発想で振り回してくれた『ニッケルオデオン』もこの3冊目の【青】で最終巻となりました。

 

多種多様な物語とニッチな題材の「ヴンダーカンマー」

 この短編集に収録されている物語はSF、ファンタジー、ホラーといった括りでも、喜劇、悲劇、活劇といった風な分け方でも、きれいにまとめることができません。

 やたらとニッチなテーマを主題で使ってくることもあれば、あくまでも主題は別にあり、アクセントとしてだけ使われていることもあり。

 ニッチな題材は使われてなくとも、独特過ぎる発想でエキセントリックな仕上がりになっていて、十分に変な話なんてこともあり。

 そう思わせておいて、珍しいものも、変わったこともなく、淡々と物語が進んで、どこかもの悲しい余韻を残しながら終わってしまうなんてこともありました。

 何か適切な表現はないものか、見落としていることはないかと、もう一度『ニッケルオデオン【青】』を読み直していたところ、目に留まったのは、第5話「魅惑のヴンダーカンマー」。

 「ああこれだ」と思いました。

 作中でも出てきましたが、驚異の部屋(ヴンダーカンマー)とはつまり珍品を集めた博物陳列室。骨格標本があれば、希少な本の初版もあり、有名人が実際に使った道具なんかも一緒に置いてあったりします。

 このとりとめもなく、物珍しく、かつ貴重なものが並べられている様は、『ニッケルオデオン』の混沌とした作品たちにぴったりな表現ではないかと、すっきりすることができました。

 

魅惑のヴンダーガンマー

 悪童たちにそそのかされた少年が、森に棲む魔女の家の物を盗みに行く話。事前に電話してコレクションの見学に託けますが、自分のコレクションを見に来てもらえて、喜ぶ魔女さんがかわいいです。

 「森の魔女」のはずが、住んでいるのは「森ビル」というビル。魔女なのに、ドアロック越しに応対と突っ込みどころが用意されていますが、そんなことはどうでも良くなる笑顔です。

 少年の成長と、魔女の懐の深さがいい余韻を残す話ですが、しっかりオチも付きました。

 過去の作品たちとのつながりもありましたが、それにしても「かわずカース」で出てきた姉妹の姉の方、こんな優しい魔女に呪われるなんて何をしたのか少し気になります。

 この話自体は非常に好きな話なのですが、漫画の内容とは別の部分でダメージを受けました。

 おまけのカットで出てきた「エド・ゲイン」の意味が分からず、ネットで調べてしまいました。意味が分からない方は、調べない方がいいです。ブラウザや表示の設定にもよるのでしょうが、いきなりグロテスクな画像とかが出てきます。

 

とある家族の飲尿

 「かわずカース」のその後の話。やたらとインパクトのある前半と急に雰囲気の変わる後半の温度差に騙されましたが、落ち着いて見たら後半も十分コメディですね。

 シリアスな部分だけを見てシリアスもあったと見るか、シリアスとコメディの温度差がコメディをきわだたせていると見て、全部コメディとみるかで少し迷いました。

 少しおかしなことを言っていても、人の生き死にかかわる場面だからシリアスと見るか、逆にそんな場面で、おかしなことを言っているからこそコメディと見るか。改めて考えると難しいですね。この作品はその難しさすらもネタにしています。

 

OKEYA

 「風が吹けば桶屋が儲かる」ということで、物事の意外な関連性のお話。 しかしこれだけあっちへこっちへと話が転がって、最後に宇宙人まで出てきてこのオチとは、道満晴明先生ならではでないでしょうか。

 「コロンバインで給食を」で登場した男の娘が、友達と仲良くしているのは喜ばしいのですが、さりげなくネタも挟んでありました。「脚立とか重くて運べないよ」と男の娘が言っていました。

 本当にさりげなかったので流しそうになりましたが、こういうネタに気付けると楽しい気分になりますね。「にやり」とした気分とでも言いますか、「よく気付いた自分」とでも言いますか。※この男の娘は過去に登場した際、とある理由で学校に私物の脚立を持ち込んでいます。

 

 

 最終話の「うたかたの日々」で【赤】の第1話の動物園が再び登場します。

今までの話にも少しふれ、おとぎ話としての『ニッケルオデオン』を否定した矢先に、おとぎ話が現実を侵食してくる演出は最終話に相応しいと思います。

 ところが、きれいに終わらせるはずの最終話でも、さりげなくシリアスをぶち壊してきました。  最終話の冒頭で、ファミレスで別れ話をしているシーンに「とある家族の飲尿法」の回のおじいさんが座っています。しかも手に黄色い液体の入ったコップを持っています。このおじいさん、ファミレスで何を飲んでいたのでしょうか。

 最後まで油断のならない、遊び心にあふれた短編集でした。