コミックコーナーのモニュメント

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ダンジョン飯1巻 感想


ダンジョン飯 1巻 (HARTA COMIX)

 

 ドラゴンに敗れ、魔法でダンジョンから逃れたライオス一行。しかしドラゴンに食べられたライオスの妹、ファリンが取り残されてしまいました。蘇生魔法には死体が必要。迫りくる消化のタイムリミットの中、再びダンジョンに挑もうにも食料を買う金もない状況。

 そんな中で取れる方法はただ1つ。魔物を食べながらのダンジョンアタックのみ。

 そんなお話の感想です。

 

ダンジョン飯ができるまで

 基本的にこの漫画は、いわゆる料理漫画ではないわけです。

 毎回モンスターを調理して食べる、もしくはなにがしかのモンスターやダンジョンの要素が料理にかかわってくるわけですが、ライオスたちはそもそもファリンを助けることが目的でダンジョンを攻略しているわけです。

 ストーリーとしてはそっちが主目的であり、ダンジョン飯というのはあくまでもダンジョン攻略のための手段でしかなく、金も時間もない状況ゆえの苦肉の策のはずでした。

 それが、元々モンスターを食べることに興味津々だったライオスと、魔物食の研究家であるセンシの存在で雲行きが怪しくなります。

 なんだかんだで、事態が進み、そのオチ、あるいはお約束としてダンジョン飯に行きつくわけです。

 いい話で終わることもあれば、さらにギャグが上乗せされることもありますが、やはりそこに行くまでの、過程こそがこの作品の面白いところだと思うのです。

 モンスターが好きすぎるライオスのうんちくと凶行。

 センシから繰り出されるずれたツッコミ。

 マルシルやチルチャックといった常識勢の阿鼻叫喚。常識勢も、毎回嫌そうなマルシルと、わりと柔軟なチルチャックの間に微妙に温度差があるのが面白いです。

 どこかで見たことのある、しかし、独特かつ細かいところまで考えられたモンスターの生態や、ダンジョンゆえの環境、冒険者としての常識・非常識。

 ファンタジーでの「お約束」の出来事をどう解釈するか、そしてそれをどう調理するのか、九井諒子先生の回答には毎回うならされました。

 

ライオスのキャラクターが面白い

 ライオスは一行の中心で、彼の魔物知識が活路になったこともあれば、正体不明の相手にも冷静に対応するなど、冒険者としての実力もあります。

 メタ的な見方をしても、物語を進めるうえで魔物に詳しい登場人物は必要なわけですが、このライオスはただ知識が豊富なだけのキャラクターではないわけです。

 魔物の姿や鳴き声が好きで、生態にも興味を持ち、そのうち味も知りたくなってしまったほどの魔物マニア。その有様は仲間にサイコパス扱いされるほどです。

 毎回魔物の生態について楽しげに説明し、うんちくを語るわけですが、やはりどこか常識の範疇からは逸脱しています。

 まるでザリガニでも取るかのように、大サソリを捕らえるのは序の口。

 人食い植物に襲われ九死に一生を得た仲間に「蔦の締め付け具合はどうだった?」と質問し、逃がさず殺さずの絶妙な締め付け具合について語りだします。

 果ては、とてもキラキラした目で、動く鎧はどんな味がするのだろうと、同じ非常識陣営のセンシに話を振り、鎧が食えるわけがないだろうと返されて、しょんぼりとします。

 そして、動く鎧の親玉との戦闘中に、相手が生き物であるということを確信するライオス。「だったらいくらでも倒し方がある」と考えるわけですが、ここまでだったら、ただの恰好がいい主人公。ライオスの場合はこう続くわけです。「そして食える」と。

爆笑しました。

 ライオスが敵をにらんだまま、確信に満ちた目で思っているところがポイントです。

 

モンスターの生態:動く鎧

 中身が空なのに動く鎧と言えば、ファンタジーではわりと定番です。

 作品によって解釈は異なり、魔法で仮の生命を与えられた魔法生物というカテゴリーであったり、死者の怨念が動かしているアンデットモンスターであったりと、空の鎧が動く仕組みは様々です。

 しかしこの作品ほど、動く鎧の仕組みについてユニークな答えを出した作品は他にはないでしょう。

 作中の世界では、動く鎧は正体不明の化け物で、魔法で遠隔操作されている説などがありました。

 しかし、動く鎧の正体は貝に似た群生の軟体生物で、兜、籠手、胴体部分とそれぞれ別の個体が、触手のようなもので連結して動いていたというわけです。

 普通に鎧の中にうねうねした部分がいたのなら、作中世界でももっと早くに正体が割れていたでしょう。人が入る部分は空洞で、装甲の外側と内側の隙間に「身」があります。

 兜が飛んだり、籠手が落とされたりすると、触手の部分は殻の中に引っ込むので、中身のない鎧が勝手に動いているように見えるわけです。

 一個体に見える体、その部品のそれぞれが別々の個体というロジックは、他の作品でも見かけたことがありますが、ここまで細かく、生態面や今までバレなかった理由がきれいに説明されている作品も珍しいです。

 ここだけでも十分に独創的な発想だと思うのですが、おまけページの「モンスターよもやま話」では、この鎧の産卵、孵化、成長からの繁殖までの各段階の仮説が載っていました。

 いざ、実食の段になったとき、ライオスがごくごく自然に毒見役をやらされていたのも面白かったです。

 

 

 ファンタジーを題材にした作品は、ファンタジー(幻想)だからこそ、その架空の世界を感じさせる設定を積み上げ、話を膨らませ、夢を膨らませ、それが読者の想像を膨らませ、妄想が膨らむ、捗る。それがファンタジー作品のもっとも楽しい部分だと思っています。

 この作品のダンジョン飯は単なる見たままのインパクトだけでなく、そういった背景、モンスターの生態などが細かく描かれている点が、面白さの隠し味になっているのだと思います。