人間の剣士ライオス、エルフの魔法使いマルシル、ハーフフットの鍵師チルチャック、ドワーフの料理人センシ。4人のメンバーは魔物を調理した「ダンジョン飯」を食べながら、ダンジョンの最深部を目指す。
そんな『ダンジョン飯』2巻の感想です。
オークとの確執
この作品は、毎回の「ダンジョン飯」ことモンスター実食がギャグめいていることが多く、シリアスシーンとギャグシーンの境目が曖昧というか、シリアスシーンにまでシュールな光景が混ざっているせいか、全体的にコミカルな印象を強く感じます。
しかし、シリアスな部分はちゃんとあるわけです。
今回は人とオークの対立の場面が登場します。
片方が絶対的な正義でもう片方が悪、あるいは、単に討伐対象のモンスターというわけではなく、どちらにもそれぞれの主張があるのがいいですね。そして、シリアスとコミカルを行ったり来たりする空気がまたなんとも。
マルシアがオークのお頭と、人間・エルフとオークの歴史認識で口論。何故かパン生地をこねている間だけ口論する形式になります。発酵のタイミングで作業が止まると、ラウンド終了のゴングが鳴ったみたいに中断されます。養鶏のためのものと思われる柵がプロレスのリングのロープに見えますね。その場合、センシがレフェリーでしょうか。
結局、純粋な子供のまなざしとマルシア、センシの機転で丸く収まりました。
ドワーフのセンシは元々、オークと対立していなかったようですが、人間とエルフはオークと対立している模様。ハーフフットについては特に言及されませんでした。この辺の勢力関係や、歴史については今後明かされることを期待しています。
絵の中での出来事
食べ物の少ない地下3階。ライオスは近づく人間を取り込む、「生ける絵画」の中に入って、絵の中に描かれた食べ物を食べようと考えます。
こちらを取り込もうとする相手に、わざわざ命綱まで用意して飛びこむ構図はかなりシュールです。
そして絵の中で繰り広げられるのは、ダンジョンの元になった「黄金城」の過去の光景。断片的な情報ながら、過去に黄金城で何があったのか、ダンジョンの秘密が語られる。という展開になりそうなものの、食べ物だけが目的のライオスは意味ありげな情報もことごとく流します。
1つ目の絵で、食べ物が食べられなかった理由を「そういう雰囲気じゃなかった」と語ったライオスですが、場の空気を読んでも、シリアスな空気は読みません。この微妙にずれている部分が面白いのですが、出てくる情報も断片的過ぎてやきもきします。
3つ目の絵の中で、凄まじい形相で敵意をむき出しにして、襲い掛かってきた正体不明のエルフ。これまでの絵の中の人たちと違い、明らかにライオスを敵視しています。
絵画ごと焼き尽くされそうになり、命からがらの脱出。のはずが、仲間にした説明は「外部の人間だとばれて、すごく怒られた」。ライオスフィルターのせいで、仲間にもシリアスな空気は伝わりません。
読者の目線では明らかに重要人物が現れて、ライオスもあわや焼き殺されそうになったわけですが、そのことごとくが流されます。
ライオスが実際に焼き殺されそうになった場面での相手の表情と、ライオスが仲間に説明をしている時に思い出している相手の表情では、後者の方がより憎々し気な表情をしていることが、なおのこと笑いを誘います。
モンスター生態:ミミック
1巻の動く鎧は、ファンタジー作品ではお約束であるものの、登場作品によって空の鎧が動くことに関する解釈は異なりました。『ダンジョン飯』の世界では正体不明で、群体生物としての生態をライオスが発見したというもの。
同じく定番のミミックは「こう来たか」という感じです。
正体のはっきりしなかった動く鎧の時とは違い、ライオスたちは魔物の正体、生態を知っているものの、読者には伏せたままの状態で話が進み、チルチャックが襲われる段になって正体判明。
いきなり襲われたチルチャックのドキドキ感と、正体不明だった魔物の正体がわかったときの読者のドキドキ感を重ねるかのような演出。
孤立して、静まり返った状況で、意識の外から静かに鋏が伸びてくる様子はなかなかに怖いです。
宝箱に潜むモンスターと、ヤドカリの組み合わせは、動く鎧の時ほどの意外性はありませんでしたが、見た目のインパクトがすごいですね。待ち伏せして襲い掛かってくる巨大甲殻類と考えるとそれだけで脅威です。
このミミックの調理時に気付いたのですが、1巻では料理の完成時のお約束だった「うへ~」等といった効果音が消えていました。ゴーレムの回や、オークの回はメニューが普通だったので気にならなかったのですが、気になって読み返してみると、宝虫の回や、幽霊を利用してソルベを作った回などでもありませんでした。
マルシル達常識陣が順応してしまったということなのでしょうか。
なんにしても、ミミックに襲われるわ、怪我をするわ、仕事道具のピッキングツールを蟹甲殻類大腿部歩脚身取出器具の代わりに使われるわ、理不尽に子供扱いされるわ、チルチャックには踏んだり蹴ったりの回でした。
最後の種族ごとの寿命差の話は、ファンタジーあるあるの中では割と好きなネタです。
ケルピーの回では、ライオスが妙に警戒心むき出しでした。魔物が大好きでも、無暗に近寄っていくのではなく、魔物は危険なものとして、しっかり線引きをした上で愛でている、良識ある魔物マニアなのかと感心したら、次のコマを読んで脱力。どうやら過去の失敗に基づく警戒だったようです。
センシの髭と髪がふわっふわっになったところで、本編は終了。最後の「モンスターよもやま話」も楽しめました。