4巻末の思わせぶりな黒ページ増量。巻頭からの急展開。ダンジョン飯5巻の感想です。
狂乱の魔術師と亡霊たち。黄金城の過去が気になる
いなくなったファリンを追いかけてきたライオスたちの前に、ダンジョンの主、狂乱の魔術師本人がついに登場。「生ける絵画」の回で出てきたエルフが、狂乱の魔術師本人でした。
ファリンは血肉として取り込んだ竜と意識が混ざっているのか、マルシルが復活させるために使った魔法の影響が悪い形で出ているのか、狂乱の魔術師に支配されているようです。
ダンジョンと魔術的につながっているという解釈をすれば、謎のパワーアップにもファンタジー的な説明はつきそうです。
緊迫した状況の中、敵意をむき出しにする狂乱の魔術師と戦いになります。
しかし、ライオスは錯乱したファリンに殴られて気絶。センシもライオスの介抱をしながら防戦一方。チルチャックは正面からの戦いでは戦力外。マルシルがほぼ単独で迎え撃つ形になりました。
立ち振る舞いや詠唱から、狂乱の魔術師の異常さと脅威にいち早く気付き、古代魔術を書き換えて解除するなど善戦しますが、手数と速さに圧されてゆきます。
埒外の強敵との遭遇戦、絶体絶命のシリアスなシーンのはずなのですが、センシが加工したドラゴンボンレスハムが転がって、本体に合流していたのには笑いました。
マルシルが鼻血を出しながら杖を振り回し、狂乱の魔術師の魔法を解除しているすぐ後ろで、ころころ転がっているあたり温度差がひどいです。転がっていくボンレスハムにレシピまで表示されていて、必死に戦っているマルシルが少し不憫に思えました。
ライオス一行を一蹴した狂乱の魔術師ですが、その様子がいろいろとおかしいところも気になります。
ファリンのことも特に意識して操っている様子ではなく、従って当たり前の配下のドラゴンとして認識していたり、何かを言いたげな幽霊たちとのやり取りがまったくかみ合っていなかったりと、言葉は通じるのに話は通じないといった感じの狂い方でしょうか。
伝承が正しいのなら、彼が探し続ける王はとっくの昔に迷宮からいなくなっているわけですし、迷宮の発生からは1000年以上たっているにもかかわらず、同族のマルシルが狂乱の魔術師を子供と思ったところからも、不自然さを感じます。
ファンタジーのお約束にのっとって考えるなら、候補として真っ先に思いつくのは、不死化の秘術の副作用で精神に異常を来したようなケースです。
ただ、今までの話の断片的な情報からは、まず心が壊れるような出来事があり、その結果として、恐ろしい魔法に手を出して、その結果どんどん狂っていったような印象を受けました。
なんにせよ過去の黄金城に何があったのかは今回も語られず。どういう経緯で何が起きたのかすごく気になります。
何やら物騒な冒険者カブルーとそのパーティー
シーサーペントの回では、宝虫の回以降何度か話に出てきた冒険者パーティー、カブルー一行が再登場。
ただ今回の登場で印象ががらりと変わりました。
今までの登場では、宝虫や魚人相手にあっさり全滅していて、冒険者としてはライオス一行より格下といった印象でした。
しかし、幻術を使って奇襲してきた死体回収屋を返り討ちにするなど、人間相手の戦闘にはずいぶん手慣れている様子。
このカブルーですが、ライオスの対極のキャラクターだという印象を受けました。
魔物についての生態や急所などの知識が豊富な一方、人間相手の社交術は苦手で、一般的な感性がわからない魔物好きのライオス。
魔物相手に全滅や苦戦をしている一方、人間相手には不利な状況からあっさり逆転勝利をして見せ、限られた少ない情報から、ライオス一行の事情を正確に推理する人間観察趣味のカブルー。
ただ、ライオスの魔物好きに比べると、カブルーの趣味は闇が深くドロドロとしています。
そわそわと楽しそうにしながら、ライオスたちの化けの皮が剥がれる瞬間を待っていたと仲間に語り、その報われない過去をさわやかな笑顔で話すカブルー。
「彼らは善人なわけじゃない。人間に興味がないだけだ」とはライオス兄妹を指したカブルーのセリフですが、「彼は善人なわけじゃない。人間に興味があるだけだ」と言い直すとそのままカブルー本人に当てはまる気がします。
カブルー一行の会話から、彼らが島の現状を憂いて、迷宮の呪いを解くためにダンジョンに挑んでいることが窺えますが、善人というには垣間見える闇が深すぎます。
何やらこの一行は、ライオス一行を陥れる気満々。一応ライオス一行には助けてもらった形だったわけですが、戸惑ったりする様子もなし。
単にライオス一行のことを窃盗犯だと思っているというよりも、もっと陰湿なものを感じました。
さらに今回自分たちを援護してくれたシュローのパーティーも巻き込む気満々。おまけに自分たちがやっていることの正しさを疑っている様子もなし。
宝虫に混ざっていた本物の宝石を捨ててしまったり、拾った食料をライオスが使ってしまったりとライオス一行にも冒険者のルール的な弱みがあるのが苦しいところです。
コミカルなシーンは相変わらず多めですが、物語自体はシリアスな方向に進んでいるので、ライオスたちとどうかかわってくるのか楽しみです。
学校はじまって以来の才女マルシル
コカトリスの回では、治療魔法を使う際の被術者との距離感といったデリケートな問題や、冒険者のリーダーに求められる資質など、ファンタジー世界の生々しい部分が描かれているのが興味深いです。
マルシルが研究し、黄金城の迷宮にも使われている古代魔法の説明、ライオスの魔法の才能の開花など、いろいろと新情報や気になる要素が多い回でした。
しかし、後半のインパクトのせいで、全部吹き飛びました。
噛まれると石化するというコカトリスとの遭遇戦で、コカトリスと同様の性質を持つバジリスクと戦った時の戦法を使うことになります。
1つの体に鶏と蛇の2つの頭部を持つコカトリスに対して、それぞれの頭部へ別々の方向からプレッシャーをかけ、2つの脳からの相反する命令に体が硬直したところを仕留めるという戦法です。
おとり役となったマルシルですが、バジリスク戦のライオスの真似ができる自信は全くなく、自分は自分のやり方でと覚悟を決めます。
蟹股で大きく足を開き、右手は杖を持ったまま掲げ、左手は掌を相手に向けて突き出し、目が座っているような、それでいてやけくそにも見える凄まじい形相で相手を見据えながら、自身の背後に爆発魔法を放ち、迫力満点の演出をします。これがマルシル式です。
迫力満点の爆発演出を背後にポージングを決めるマルシルの周りに「学校はじまって以来の才女 マルシル」と文字が出ていて、腹筋への衝撃が凄まじいことになりました。
結果、反対方向から気を引こうとしたセンシは完全に無視され、鶏の頭も蛇の頭もマルシルに向かって来ました。
センシが斧で蛇の首を切り付けても無視された辺りに、コカトリスの必死さが窺えます。怖かったのですね。マルシルのことが。
コカトリスを倒したものの、マルシルが負傷。ライオスがコカトリスに噛まれたときの対処法を伝授しますが、それは石化した後に壊れにくい体勢を取るというもの。
「石化しないための対処法じゃないんかい!!」と思わず突っ込んでしまったマルシルはその瞬間の面白おかしい表情と体勢のまま石化してしまいました。
コカトリスには噛まれるわ、変なポーズで石化してしまうわ、石化中漬物石の代わりに使われるわ、踏んだり蹴ったりのマルシルでした。
出口のない部屋に閉じ込められ、壁が迫ってくる場面はドラゴンとの闘いとはまた別の緊迫感がありました。
シュローたちと合流したものの、明らかにやつれているシュローに、ライオスたちを陥れる気満々のカブルーパーティー。加えてシュローの部下にも問題がありそうな人物が混ざっていて、不安は尽きません。
ライオスの才能開花がどのような形になってゆくのか、ファリンがあの後どうなってしまったのか、物語の続きが気になります。