コミックコーナーのモニュメント

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セントールの悩み10巻 感想


セントールの悩み(10)【特典ペーパー付き】 (RYU COMICS)

 

 「日常」モノのはずが、非日常の世界に放り出されてしまった姫乃と紫乃ちゃんの運命やいかに。というわけでセントールの悩み10巻の感想です。

 

続姫乃の異世界無双

 姫乃は元の世界へと戻るために現地の魔法技術を検証中。

 異世界に通じる魔術儀式を試してみますが、唱えられている呪文が何やらまずいもののような気がします。

 案の定、魔法で開いた穴からは怪物が出てくるわけですが、怪物にひるまずに冷静に対処をする度胸といい、あらかじめ火炎放射器などの開発・準備をしておく抜け目のなさといい、姫乃の才知はとどまることを知りません。

 元々姫乃は天才肌の印象がありましたが、非常時や戦乱の時代だからこそ輝く種類の才能も多く持っていたようです。

 先の見えない状況の中でも、帰還の方法を探すために打てる手を1つ1つ打っていく姿勢もまさに傑物といった感じですが、姫乃はともかく紫乃ちゃんが限界です。

 幼稚園児がいきなり親元から離されたらまいって当たり前ですよね。今まで持ったのは姫乃がいたからでしょう。

 姫乃の存在とその影響力を現地の権力者たちも苦々しく思っているようですが、既に毒まで盛られていた上に効かなかったというのには驚きです。

 政敵の懐でも情報収集をしているようなので、飲むふりをして効かないように装ったのでしょうか。

 内務省騎士団という秘密警察を自在に操り、武力に訴えた政敵を逆に罠にかけたり、世話係の女性を一人前の密偵にしていたりと、姫乃の異世界無双が止まりません。

 そして、捕らえた政敵を人柱として利用し、再び異世界に通じる魔術儀式へチャレンジ。

 「あんまり人は殺したくないし」という理由から政敵を処刑せずに生かしておいたわけですが、「必ず死ぬわけじゃないし」という理由で実験に利用するなど、人望を失わない程度にドライで効率的な感性も、戦乱の世に適合する才能な気がします。そもそも人柱を準備しておくのも、部下の人たちの安全確保のためであるわけですから。優先順位をきっちりとつけているだけで、無駄に殺したいわけではないわけです。

 再び開いた穴から現れたのは、南極人。

 8巻の52話で、スーちゃんの話の中で1コマだけ登場していた「特殊な役職の南極人」です。

 南極人が手に持った銃のようなものから発せられた光を浴びた姫乃と紫乃ちゃんは、元の流鏑馬の練習場に戻っていました。2人とも何があったか覚えておらず、時間も2人が穴に吸い込まれてから、わずかしかたっていない様子。

 母にねだったハンバーグにご機嫌の紫乃ちゃんに、母の腰に持たれて眠る姫乃と、日常への帰還を遂げてめでたしめでたしとなりましたが、読者視点では謎が謎を呼びます。

 エイリアンや南極人は、異世界に通じる道を開いたり、時間に干渉したりといった技術を持っているのでしょうか。

 「夢と見せかけて実は…」といった終わり方の話は、あいまいな終わり方のまま、完全に終わってしまうことがほとんどですが、この漫画の場合は後でしっかりと説明してくれるのではないかと期待しています。

 

スーちゃんの妹 ニルちゃん来日

 64話では姫乃たちがスーちゃんの妹を出迎えるため空港に集合。

 「かなり」を「かなーり」と表現するなど、スーちゃんも順調に現代日本の文化に馴染んでいる様です。

 南極人自体が日本では珍しいので、到着した南極人の一団は遠めに見ても一目瞭然です。

 スーちゃんの妹のニルちゃんも、ゲートを出た直後にスーちゃんに気付きましたが、走り寄って来たと思ったら、そのままダイビングハグ。

 服装も、姫乃に「え、コスプレ?」といったリアクションをされる程のフリフリしたものを、日本につく前から着込んで来るなど、南極人とは思えない自由人ぶり。

 お説教をしようとした矢先にアフリカ式の挨拶で出端をくじかれるなど、スーちゃんの振り回され方が可笑しいです。

 姫乃たちと上司のやり取りの間もきょろきょろと周りを見ているニルちゃんと、やはり姫乃たちの方そっちのけでニルちゃんを監視するスーちゃんの1コマもあり、2人の関係が窺えます。

 ニルちゃんのリクエストで姫乃たちはコスプレショップへ。華やかな雰囲気の中でニルちゃんから不穏な発言が出ます。

 より正確にいうのならば、ニルちゃんは「夕霞基地」に行きたいと言っただけですが、何故軍事基地に行きたがるのかといった理由が不穏なわけです。

 スーちゃんが即座に反応してインターセプトします。

 ニルちゃんは某国の内紛を収めるのに日本の軍事力を利用できないかと考えていたようです。スーちゃんの発言から見るに、ニルちゃんの海外での動向はしっかりと伝わっている様でした。

 ニルちゃんの考え方は南極人のものとしては明らかに異質ですが、その動向に関する情報が伝わっていても海外派遣員の仕事を続けられているのは、暴走はしないと思われる根拠があるのでしょうか。

 南極人は1人前になる前に精神検査をパスしないと、特殊な役職に回されるという話だったので、自分たちの「規格」に絶対の自信を持っているということかもしれません。

 なんにせよ、スーちゃんのファインプレーで、不穏な流れも姫乃たちに気付かれることなく立ち消えとなりました。

 姫乃たちとは別行動をしていたスーちゃんの上司ファルシュシュの口からは、南極人が今まで暗躍してきた目的がついに語られました。

 南極人は「世界の管理者」として今までも、これからも世界を管理していくということが暗躍の目的の様です。

 圧倒的な技術力を持っていても表立っての行動が消極的なのは、あくまでも自分たちは管理者であって、統治者ではないというスタンスなのでしょうか。

 1つ謎が明かされると別の疑問が追加されるのは、面白いながらももどかしいです。

 

南極人に対しての町の人たちの反応

 64話は脇役の人たちの南極人に対するリアクションも面白い回でした。

 姫乃たちに文句を言った瞬間に南極人戦闘種の顔のアップを見て、掌返しをして、見知らぬ子供に差別はいけないよと語りかけるおじさん。

 コスプレショップの前で棒立ちする戦闘種にびっくりする通行人のお姉さん方。

 社交辞令ではなく、本心から感動した様子の熱い視線で、コスプレする南極人を見つめる店員さん等々、脇役の人たちの南極人に対する反応もいい味わいが出ていました。

 それにしても、日本の街中で見ると南極人戦闘種が本当に大きい。以前も登場していましたが、比較対象が見慣れたものだと大きさがより伝わります。

 電車に乗っている時は体を折りたたんでいましたが、飛行機の中ではどうなっていたのかも気になります。

 暗躍していない時は、南極人を神と崇めるアステカ諸邦のチャーター機で移動するようなので、専用の搭乗スペースでもあるのかもしれませんが。

 漫画を読む際、物語上で明かされない部分は、自分の想像力で穴埋めをするわけですが、設定が異様に細かいこの漫画の場合は「正解」が気になって仕方ありません。

 

ニルニスニルニーフ?ニルニシュニルニーフ?

 さて、このスーちゃんの妹の名前なのですが、スーちゃんの紹介ではニルニスニルニーフですが、本人の申告ではニル「ニシュ」ニルニーフ。合理性と正確さを重視する南極人らしくない食い違いです。

 2人の上司であるファルシュシュもニルニスニルニーフと呼んでいますが、この食い違いは何かの伏線に思えてなりません。

 もっとも、ニルちゃんは南極人としては破格のフリーダムな性格の持ち主のようなので、「そのほうがかわいいから」といった理由も考えられそうです。

 

 

 記憶を失うことで、姫乃たちは日常へと戻っていきましたが、南極人の技術力がますます底知れないものになってきました。

 オカルト科学部の部室で、さりげなく御霊神社の神様の物騒な話が語られたり、おまけページ:日本の妖怪で語られていた玉藻の前は、復活していそうだったりと、オカルト関係、ファンタジー方面も伏線が多そうです。

 優秀で模範的だけど小心者の姉と、自由人でトラブルメーカーの妹というスーちゃんとニルちゃんの関係も面白いので、今後の展開がますます楽しみです。