コミックコーナーのモニュメント

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この愛は、異端。2巻 感想


この愛は、異端。【電子限定おまけ付き】 2 (ヤングアニマルコミックス)

 

 人間である淑乃と悪魔であるバアル。この2人の関係は相変わらず徹底的に拗れています。その拗れ方が焦れったく、面倒くさく、そして切ない。『この愛は、異端。』2巻の感想です。

 

サタン来日

 9話では淑乃とバアルのアパートに、バアルの上司である悪魔・サタンと、後輩の悪魔・セーレが訪ねて来ました。

 遊びに来た風を装っていたサタンの目的は、淑乃に入れ込んでいるバアルへの牽制だったのですが、ここで疑問が生じました。

 以前話に出ていた人間と結婚したという悪魔・アスモデウスに対して、何がしかのお咎めがあったという話も聞きませんし、人間に感化されている例として挙げられたセーレも、そのことを注意されている様子はありません。

 何故バアルだけが危険視されるのでしょうか。

 他の悪魔と違い、バアルだけが堕天した後も天使の姿を保っているという話が今回出てきましたが、その辺りが伏線な気がして、気になります。

 サタンは、悪魔としての本性が漏れ出ている恐ろしい顔でバアルに警告したかと思えば、悪魔としての仕事の癖で、人間を誑かすための「悪魔の誘惑」を同じ悪魔に使ったことを指摘され、素になって謝るといった場面も見られました。

 善人か悪人かあいまいな描かれ方をするのではなく、悪魔の恐ろしい本性がしっかりと描かれた上で、そんな悪魔にもうっかり毒が抜け落ちてしまう場面があるという描き方がされているのがとても魅力的でした。

 「人間味」といっていいのかわかりませんが、完全に理解不可能な怪物ではなく、人間とスケールの違う怪物にも一部共感できてしまうような部分があるという点が、面白かったです。人間味があり過ぎても怪物としてのクォリティ―が落ちますからね。匙加減が絶妙です。

 

バアルの素顔は…

 サタンによって、今までの悪魔の姿が単なる演出で、実は本性が別にあるということをばらされてしまったバアル。

 目をキラキラさせて興味を示す淑乃の「お願い」で本当の姿を見せることになりました。

 ワイルドな悪魔の姿とも、さわやかメガネな人間態とも違う、中性的な美貌がさらされますが、淑乃の感想は「神話っぽい」、「女顔」というもので、好みではないとのこと。

 今まで隠してきた本当の姿を見せるという一大イベントのはずが、大ゴマで本当の姿を見せた次のページで、既にコメディパートになってしまっている所に何とも言えない可笑しさがあります。

 神話っぽい写真を取ろうとする淑乃に対して、ベッドの上に片膝立ちになってスマホを取り上げるバアルと、豹変したバアルの様子に慌てる淑乃の様子がコミカルです。

 いつもとは違う中性的な美貌に何処か拗ねた表情を浮かべるバアルがまず面白く、「女顔」と言われたことを根に持ってか「対価」の内容が「見せつける」といういつもとは別の方向性。それこそ神話的な外見と、下ネタ行為のギャップが笑えました。

 バアル自身が何度も「女顔で」と強調していたり、淑乃の肉体と魂に触れることが出来る「対価」の機会を棒に振ってまで淑乃への嫌がらせに走っていたりと、「女顔」と言われたことを思いのほかバアルが気にしているのが面白かったです。

 

本当に痛々しいすれ違い

 悪魔・バアルに夜な夜な耳元で囁かれ、日に日に弱っていく旭君。ついにその異常に気が付いた淑乃ですが、旭君は自分自身のことよりも淑乃を慮ります。

 自身の苦しみそっちのけで淑乃を気遣う旭君の献身は、正しく淑乃の求めていた無償の愛。

 感涙を零す淑乃を抱きしめ、その唇を奪う旭君ですが、淑乃は彼を自分の事情に巻き込むまいと突き放し、自分とバアルの本当の関係を打ち明けます。

 悪魔関連のこと以外は全部事実をぶちまけた形です。

 旭君に惹かれていたのも、本命のバアルが与えてくれなかった愛を代わりに与えてくれるのではないかという「打算」があったと打ち明け、たとえ自分を愛してくれないのだとしても、バアルのことを愛していると告白します。徹底的に突き放す淑乃に打ちのめされる旭君が痛々しいです。

 その夜、バアルは問い詰める淑乃に向けて、旭君を文字通り「地獄へ連れていく」と呟きます。  最初は薄ら笑いを浮かべていたのに、話が進むにつれて表情が抜け落ちて真顔になっていくバアルには異様な迫力がありました。

 淑乃が旭君に言ったバアルを愛しているという言葉は、バアルには旭君に身を引かせるための嘘に聞こえていたようです。

 実際のところ、淑乃が旭君にそのことを打ち明けたのは突き放して身を引かせるため。ただ、淑乃がバアルを愛しているというのは本当の話。この食い違いが切ないです。

 人間離れした異様な迫力で殺意表明するバアルですが、その殺意の出どころは悪魔としての獲物への独占欲というよりも、男としての嫉妬が感じられます。

 涙ながらの懇願にも耳を貸さないバアルに、淑乃は「自分の貞操」という切り札を使います。

 バアルは淑乃が「愛する」旭君を助けるために自分に体を捧げようとしているとしていると思い、衝撃を受けますが、実際は「優しい」旭君を助けようとしているだけです。

 自分のことを救おうとしてくれた人間が、自分のせいで死ぬということに耐えられないからこその願いであるわけです。

 泣き笑いの淑乃に、笑顔のまま打ちのめされるバアルと双方とも痛々しい。

 淑乃にとっての理想の恋人像を体現しているけれど、決して愛してはいない旭君と、決して好きになってはいけないのに、愛してしまった悪魔のバアル。

 バアルが想像する淑乃の心の内と、バアルを愛する淑乃の本心。

 これらの食い違いと対比が何とも残酷です。

 結局、バアルは淑乃の涙を前に貞操には手を付けず、「二度と旭蒼也と関わらないこと」を契約の対価としました。

 

淑乃の矛盾・愛を探すバアル

 友人が挙げた結婚式が切っ掛けで、淑乃は家族がほしいという自分の願いを改めて自覚し、バアルと口論になります。そして、口論の中、話題は旭君の一件の夜にバアルが淑乃を抱かなかった理由に行きつきます。

 バアルが淑乃を抱かなかったのは、淑乃の涙を拒絶の涙だと思ったから。しかし、実際は「感極まって」泣いてしまったことが淑乃の口から語られました。

 淑乃の言葉に激しく動揺しながらも、淑乃を宥め、その本心を問い質そうとするバアルですが、淑乃は自分の本心を隠し、誤魔化します。

 読者にとってもひどい肩透かしです。

 ついに2人の気持ちが通じるのかと思って見ていれば、驚くぐらい適当かつ酷い誤魔化し方をする淑乃に、あっさりそれを信じて引き下がってしまうバアル。

 2人の関係がここまで拗れている理由の1つとして、淑乃自身がバアルに自分の気持ちを気付かれないようにしているということがあります。

 バアルのことを愛していても、バアルのことを最低の男、愛のない悪魔だと思っているため、自分の恋心に気付かれればそれを利用され、魂を奪われると本気で思っているわけです。

 さらに、淑乃自身の中で抱え込んでいる矛盾もあります。

 愛する人と想い合って家族を築く「淑乃の願い」と、愛のない悪魔であるバアルを愛する「淑乃の恋」が食い違っているわけです。

 一方、バアルも自分が淑乃の魂と身体だけではなく、「心」を求めていることに気が付いているのかいないのか、魂や肉体だけを奪うことが出来ません。

 自分の中にないはずの愛を探すように、愛を学ぼうとするかのように、行動が純愛路線にシフトしていくバアル。

 淑乃は淑乃で、そんなバアルの態度を悪魔の策略と思い込み、徹底して自分の本心を隠し通します。疑心暗鬼と空回りのスパイラルが加速する一方です。

 本当に徹底的で、面倒くさい拗れ方をしているわけですが、淑乃がバアルを信じられなくなった18歳の誕生日の一件や、元天使のバアルが自分は愛を持たない存在として神に作られたと思っていること、バアルが人間とは根本的に違う悪魔であるというしっかりした理由が背景にあります。

 それを考えると、バアルのことを信じられない淑乃も、まるで愛を探すかのように振る舞うバアルの行動にも説得力があり、切なさだけでなく、悲哀のようなものも感じます。

 そして、クリスマスも近いある日、獲物をラブホテルに連れ込もうとしていたバアルとばったりとあった淑乃は、自分の覚悟をバアルに突き付けることになるのですが、この場面がとても良かったです。

 ラブホテルの前での面白いやり取りから急転直下。

 どこか寂し気に笑いながらも淡々と話を進める淑乃の微妙な「寂しさ」の表情表現。突然の展開に感情が追いつかないバアル。

 モノローグでの心情描写と、画力での表情描写の組み合わせが最高でした。

 

 

 大まかなストーリーはお約束と言いますか、定番中の定番の流れだと思います。それなのに物凄くドキドキしながら読めました。

 単にモノローグで全てが説明されるわけではなく、繊細な表情描写も合わせて、登場人物の内面が、微妙な心情が、いろいろな角度から照らされるこの漫画の演出が凄く好きです。