原作小説・『虚構推理』に該当する「鋼人七瀬編」からさらに続く、琴子と九郎の物語。虚構推理7巻の感想です。なお、今回の見出しのタイトルは、漫画の各話のものをそのまま使っています。
よく行く店
琴子と九郎、2人の通う大学の近くの喫茶店のマスターの視点で送る日常回。
琴子が何故カレーの隠し味に気付いたかという要素が、マスターの視点ではミステリーと言えなくはないかもしれませんが、あっさりとした日常のエピソードという印象でした。
第三者視点で改めて見ると、この2人はとにかく目立つという事が改めてわかりました。
琴子は賢く、礼儀正しい一方で、腹黒く、ただ庶民的と表現するにはいささか変な趣味の持ち主ですが、これらの部分のちぐはぐさが面白いです。
いろいろと個性的な部分が見え隠れしていますが、取って付けたようなちぐはぐさを感じるのはなく、1人の人物として調和がとれた状態で1つ1つの要素にちぐはぐさを感じるのが面白くて好きです。つまりは見ていて面白い変人という事ですが。
この漫画の人物描写がしっかりしているからこそ感じ取れる魅力だと思います。
それにしても、琴子が何故あそこまで秘宝館に夢を持っていたのかが気になります。
主の大蛇は聞いていた
この話は7巻の3つのエピソードの中では1番のお気に入りです。
とある山奥に住む大蛇のお悩み相談に、出張することになった琴子。夜の山で大蛇と会うのに、危機感や備えが足りないと指摘する九郎。
心配するならついて来てくれと言う琴子に、九郎は「昼に作った豚汁をゆっくり食べたいからひとりで行ってくれ」と突き放します。相変わらずの2人です。
鋼人七瀬編の事件解決後の九郎と紗季さんのやりとりや、最後の場面での九郎の様子を見る限りでは、九郎が琴子のことを大切に思っていることは疑いようがないです。
今回も同伴しなかったのは、身の危険に無頓着な琴子に、危機感を持たせる意図があったようですが、そもそも琴子が害されるようなことがあれば元も子もないわけで、やはりいろいろ腑に落ちません。
琴子が腹黒い性格で、弁が立ち、なおかつグイグイと迫ってくるので、九郎の方で距離感を調節している様にも見えますが、付き合いだした頃から現在の関係に落ち着くまでの部分をぜひ見てみたいものです。
さて、琴子が1人で向かった先は隣県の山奥にある沼。古木の根が張り出し、様々な植物が雑多に生えながらも、不思議と調和の取れている沼地の景色は趣があります。
依頼人の「ヌシ様」は人間を一飲みにできそうなサイズの大蛇なわけですが、その顔は爬虫類ながら表情豊か。
デフォルメされたり、汗などのエフェクトが入っていたり、目元だけ人間の目のような特徴を出して書かれているコマもありますが、そういったものの無い、完全に「蛇」として描かれている絵も表現力が凄かったです。
視線や口の開き方などから感情を感じ取ることも出来て、本当に表現が多彩です。
景色から感じる趣といい、大蛇でありながら表情豊かなヌシさまといい、漫画担当の片瀬茶柴先生のセンスの良さを感じる回でした。
沼で起こった死体遺棄事件を目撃してしまったヌシ様。
その際に、犯人が呟いていた不可解な一言の意味が気になって、夜も眠れないというヌシ様のお悩み解決のために、琴子が知恵を絞るというのが事の経緯です。
たった1つの真相を暴くのではなく、こういった考え方も出来る、こういった見方もできるといった風に理屈をこね回しながら、いかに「説得力のある解決案をひねり出すか」という部分に注力するのは鋼人七瀬編を彷彿とさせます。
推理で持ち出される理屈が二転三転しますが、最後に行きついた答えは完全に予想外のもので、作中のヌシ様と一緒に衝撃を受けていたら、実は琴子の口からの出任せで、真相は最初の推理通り・犯人の供述通りというオチ。
琴子の語り口に飲まれ、口八丁に転がされながら、コロコロと表情が変わるヌシ様がかわいかったです。
うなぎ屋の幸運日
うなぎ屋で1人特上うな重に舌鼓を打つ琴子を目撃した2人の男たちの視点で、琴子の正体と、その男たちの身近で起きた「ある事件」についての考察が行われる回。
やはり、琴子はその場にいるだけで、周囲に謎を呼ぶ存在の様です。
「ある事件」に関する展開の方は正直予想外でした。というよりも、犯人が人でなし過ぎて想定外。
一方で、琴子がうなぎ屋にて、1人でうな重を食べていた理由はおおむね予想通りでした。
琴子の年齢や、良家のお嬢様であることや、その性格を知っている読者にとっては出オチのような気もしますが。
しかしそれでも、琴子がうなぎ屋にいた理由を巡る犯人と琴子のやり取りは非常に面白かったです。
琴子がうなぎ屋にいた理由がどうしても気になって仕方がない犯人に、琴子が告げた理由は「今夜、恋人の部屋に泊まるので、精をつけておこうとふと思い立ちまして」でした。
琴子に抱いていたミステリアスで神秘的なイメージがあっという間に崩壊していく犯人と、やたらと可愛いポーズ・表情付きで追い打ちをかける琴子に笑いをこらえきれませんでした。
最後は渾身の決め顔で「今夜は張り切ります」と決意表明する琴子に大笑い。何故この人は見ず知らずの犯人にハッスル宣言しているのでしょうか。
シリアスパートからのギャグパート、さらにギャグパートなのにシリアスパート顔負けの決め顔という流れに、腹筋が完全にやられました。
原作小説・『虚構推理』の続編ともいえる今回の物語は、小説として書き下ろしながらも、漫画になることをある程度意識して作っているということが、あとがきにて語られていました。
原作の小説と漫画の絵の強みが、お互いを活かしあっているからこそ、ここまで面白い漫画になったのだと思います。