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魔女の下僕と魔王のツノ8巻 感想


魔女の下僕と魔王のツノ 8巻 (デジタル版ガンガンコミックス)

 

 7巻の続きが物凄く気になる終わり方、さらに今回の表紙はニョニョで、読む前から高まる期待。読んでみたら想像のはるか斜め上でした。魔女の下僕と魔王のツノ8巻の感想です。

 

ニョニョ再登場までの経緯

 魔王城の戦いの後、瀕死のサウロの前にニョニョ(女性になったアルセニオ)が姿を現すまでの経緯が語られますが、この時点で既に面白いことになっています。

 水晶を使った透視の魔法で、サウロが死にかけていることを知った一行。レイは「僕がやりました……」、「殺す気はなかったんです…」と顔を伏せ、ロイドは「でかした!!」とサムズアップ、エリックは一拍間をおいてから「トドメを刺そう」となんだかんだでサウロを亡き者にしようとするヒュペルボレア勢。三者三様の反応が面白いです。

 一番ひどい目に遭ったアルセニオがみんなを説得しますが、この時のアルセニオの言葉に対するみんなの反応も、それぞれの性格がよく出ていて味があります。

 そして、年齢不相応の包容力のある笑みを見せるベティ。アルセニオの話の最中も、自分や魔女が悪者扱いという所ではなく、サウロとアルセニオが仲良くできないという部分でしょんぼりする辺り、本当に優しい子です。

 しかし、ここで問題が発生。ベティの薬をサウロに届けようにも、既に全員の顔が割れているという事。イスパニア兵は魔女や魔物の関係者だという時点で殺しに来そうですからね。

 結局、エリックの発案でサムに協力を頼むことになりますが、アルセニオはサムに薬を届けてもらうつもりで、エリックはアルセニオに対して女性化の魔法を使ってもらうつもりでした。

 土壇場で自分とエリックの考えの齟齬に気付いたアルセニオ。無言になる3人。アルセニオを見つめるエリックとサムの視線。笑いを誘うなんとも言えない間の取り方が、相変わらず素敵です。

 

ニョニョ→アルマ、命と貞操が危機一髪

 斯くして、ニョニョがサウロに薬を届けることになった訳ですが、ニョニョは名前を聞かれて、うっかりアルセニオと答えそうになり、既の所で「アルマ」と名乗ります。朦朧とした意識の中、アルマに笑顔を見せるサウロに驚きの表情を見せるサウロの仲間たち。

 しかし、そのすぐ後で、この漫画を読んでいる私の方が驚くことになりました。

 てっきりサウロはアルマの正体に気が付かないまま、かつての友の雰囲気を持つアルマに惹かれていく展開になるのだと思っていたら、いきなり正体がバレるという展開。しかもアルマの側はバレたことに気付いていません。

 「悪魔の力を使えば性別を変えることもできるか」とアルマ=アルセニオの構図に納得しながらも、自分を助けた理由に納得がいかないサウロ。

 アルセニオがかつてのアルセニオならば、危険を冒してでも、自分を助けに来るだろうと思いつつも、トノコ信教の教義では「悪魔は人間の体に残る記憶を利用し、親しかった人を悪の道へと誘惑する」と教えられています。

 アルセニオがかつてのアルセニオなのか、アルセニオの体を奪った悪魔なのか判断がつかないサウロは訝し気な視線をアルマへと向けます。

 一方、アルマは自分の正体がバレたのではなく、女好きのサウロがかわいい自分に見とれていると判断。

 中身がアルセニオなら自分を誘惑してくるはずがないから、誘惑してきたら殺そうと思っているサウロと、デートぐらいならしてやろうかなと思っているアルマ。温度差が凄いことになっています。

 正体を見極めるために「抱きたい」と端的に告げるサウロに、そのサウロの言葉に混乱するアルマ。混乱の様子が、ごく普通の少女を装って、誘惑しているように見えなくもありません。

 アルマの様子に殺意を募らせ、ベッドに押し倒しながら、枕元からナイフを取り出すサウロ。

 サウロの押しの強さにそのまま流され、自分のチョロさと身体の反応に赤面するアルマ。

 アルマ視点では貞操の危機。読者視点ではアルマの命の危機。さらに土壇場でアルマのことをかわいいと思ってしまうサウロ。何なのでしょうか、このカオスな状況は。

 土壇場で枕を叩きつけたことで、アルマは危機回避。その反応からサウロはアルマの中身が悪魔ではなく、自分の親友であることに気付くのでした。

 結局、アルマは自分の正体がアルセニオだとバレていることも、サウロの中で悪魔疑惑が払しょくされて、再び親友だと思われていることにも気づいていません。そして、この状態のままサウロとアルマの交流は続いて行きます。

 完全に予想の斜め上を行かれた展開に、凄まじいまでにカオスな状況。その上でしっかり面白い。

 もち先生がやらかしてくれることを期待して、ニョニョの活躍を楽しみに待っていましたが、期待のさらに上をいかれました。

 

TSカオス劇場 開幕。

 命と貞操の危機の後も、正体にとっくに気付いているサウロが、正体バレにつながりかねないうっかりを連発するアルマをフォローするために立ち回ったり、女の姿で無自覚に魅力を振りまくアルマに動揺したり、敬虔なトノコ教徒なのに神様にクレームを入れたりと状況がカオス。

 シリアスシーンでも容赦なくギャグが投下されるのはいつも通りなのですが、ギャグを放り込むというよりは、さっきまでシリアスシーンだったのに、そのシリアスな流れがいつの間にかギャグにすり替わっているという感じで、いつも以上にギャグにキレと破壊力がありました。

 そして、アルマが矢鱈と可愛い。照れたり、動揺したり、特に何かを意図することなく爆弾発言をしてみたり。本人が意識してぶりっ子したときは全然可愛くないのも、それが逆に可愛いです。

 セリフのキレもいつも以上。無防備でかわいいアルマに動揺したサウロの「神、神よ、神ってば!!」と、「なんだコレ、試練?褒美?啓示が足りない。俺に伝わってない」に特に笑いました。啓示の分かり辛さに、神様の連絡不備を責めだす敬虔な信徒の姿が、何ともシュール。

 サウロがイケメンであるか否かを巡り、アルマ(普段男、一時的に女)と、レイ(元男、現女)が口論する場面もありました。この2人は恋仲で、ばっちりお互いの気持ちを確認済みの両想いのはずなのに、何をやっているのでしょうか。

 シリアスからギャグ、ギャグからシリアスに自然な流れで話が繋がり、次のページの展開を予想しながら、ドキドキしながらページをめくると、予想の斜め上でカオスな状況になっています。

 最初から最後まで、隙間なく、全部通して楽しめました。アルセニオはもうずっとアルマのままでいいと思います。

 

朝チュンとプロポーズ

 サウロが会議を終え、自室に戻るとベッドの上には酔いつぶれたアルマが寝ていました。アルマの寝顔がかわいくて、だからこそ、サウロの心情が手に取るように想像できます。

 完全に前後不覚で、うっかりどころか、アルセニオであることを全然隠せていないにも拘らず、女の姿で際どいアクション・発言を連発するアルマ。サウロの「もうめんどくさいから一回抱いてから考えようかな」には大笑い。

 ところが、深夜にうなされているアルマの声でサウロは目を覚まします。

 元々、アルセニオは安眠のための魔導具を常用しています。そういうものが必要になるくらいのトラウマを持っているわけです。

 本編では詳細は語られていないものの、断片的な情報だけでも、拷問されて、火あぶりにされて、魔物として追い立てられて、恐らく両親も殺されているのではないでしょうか。

 悪夢の中ではサウロも一緒になって、アルセニオを攻め立てます。

 サウロに起こされ、目を覚ました瞬間に、サウロを焼きそうになるもギリギリ踏みとどまるアルマ。

 深読みのし過ぎかもしれませんが、心に宿っている精霊の「サラ」が宿主を守ろうとしたようにも見えました。ヒュペルボレアでの一件で、アルセニオとの絆が強くなっていたからギリギリ暴走せずにすんだのではないかと。

 サウロを認識したものの、夢うつつのまま「助けて」と涙を流すアルマ。そんなアルマを見つめるサウロの辛そうでやるせなさそうな表情、そしてその後に続くモノローグがもの凄く意味深です。

 サウロはアルマの正体がアルセニオであると気づいてから、トノコ信教の教義に当てはめて、自分とアルセニオの過去を清算しようとしていました。

 そもそもの話、サウロがトノコ信教の教義にのめり込んでいったのは、アルセニオが悪魔に乗っ取られたと思っていたからではないかと。

 しかし、実際は、アルセニオは悪魔ではなく、アルセニオ本人であったわけで、サウロもトノコ信教も追い立てた側。サウロの表情とモノローグにはその辺りの葛藤が感じられました。

 信仰を捨てたわけでなくとも、サウロの中で教義よりもアルマの存在が上になったのだと思います。

 翌朝、完全に開き直り、アルセニオの本来の性別の問題も、魔物である事情もご都合解釈してアルマに迫るサウロ。

 昨晩の記憶がなくて、朝チュンそのものの状況に混乱するアルマ、完全に開き直ったサウロ。昨晩とは完全に攻守逆転です。

 一気にプロポーズまで畳み掛けるサウロと、水晶玉ごしにその場面を目撃してしまったエリックの「どうしよう」。二段オチに笑いました。

 

アルマとアルセニオ

 肉体的な性別の変化が、心の性別にまで影響するのかについての答えは、この漫画ではまだ語られていません。

 ただ、今回アルセニオがアルマになるのに使った魔法は、普段エリックが使っている魔法よりも強い効果のある魔法であることが、7巻のおまけページで語られていました。具体的には女性としての生殖機能があるのだとか。

 45話でレイがしたアピールに対するリアクションや、描き下ろし漫画の内容、何よりもサウロに告白されたり、プロポーズされたりしている時の顔が、女の子にしか見えず、今アルマの頭の中がどのような状態になっているのかとても興味を惹かれます。

 

 

 サウロのプロポーズという急展開に、一計を講じるエリック。しかし、エリックの作戦はアルマの正体をサウロが知らないという誤った前提によるもの。さらに作戦にはサウロにとって恋敵のレイと、魔女であり、アルセニオのご主人様でもあるベティも同行。次回さらなるカオスの予感。

 未だ正体がバレていることに気付いていないアルマ。

 7巻の魔王城にて、決意して道を分かつた友が、本来の性別や、魔物であるという事情を全部放り投げてプロポーズしてきているということに気付いた時のリアクションが、今からとても楽しみです。