ゴブリンスレイヤー 6巻 (デジタル版ビッグガンガンコミックス)
ゴブリンたちの住処とつながる門である「転移の鏡」。それを守っていた「大目玉(ベム)」を倒した一行ですが、粉塵爆発の音を聞きつけたゴブリンたちが集まってきます。その中には小鬼英雄(ゴブリンチャンピオン)の姿も。
水の街編もクライマックスのゴブリンスレイヤー6巻の感想です。
臨場感・ド迫力・アクセント・そしてオチ
ゴブリンの動線を誘導するバリケードに、ゴブリンスレイヤーが拾って使うための武器も配置して迎え撃つ一行。
相変わらず見応えのある戦闘シーンでした。
一番好きなのは矢筒リレーの一幕でしょうか。
小鬼英雄の攻撃にゴブリンを巻き込みつつ回避し、さらに自分でもゴブリンを殺しながらその矢筒を拾ったゴブリンスレイヤーが、祭壇の上に陣取る仲間にパス。
僅かに届かなかった矢筒を空中キャッチ&パスをした鉱人道士はそのまま落っこちますが、下駄キックや、ドワーフパンチでゴブリンを倒しつつ戻ってきます。
ドワーフのパスを必死な顔で受け取った女神官は「矢です!」と差し出し。
弓を片手に持ったまま短剣でがんばっていた妖精弓手は、振り返りもせずに女神官の手の矢筒から矢を引き抜くと素早く射撃。
一行のチームワークと、戦いの臨場感が感じられました。
最後は遺跡ごと崩落させ、生き埋めにするわけですが、「転移の鏡」の鏡面を盾にして瓦礫をやり過ごすという相変わらずの斜め上の発想。超重量の転移の鏡を持ち上げる蜥蜴僧侶の迫力が凄いです。
目つぶしの≪聖光(ホーリーライト)≫の光で満たされた、色調の変わった世界もいいアクセントになっていました。こういった描写や構成の「見せ方」のセンスは本当に凄いと思います。
全てが終わった後に、作戦の内容を知らなかった妖精弓手に、不用意な一言を言って、瓦礫の山から蹴り落されるゴブリンスレイヤー。
大真面目に、むしろ胸を張って言った本人と、思わず蹴り落してしまった妖精弓手の温度差が面白い一幕。妖精弓手の蹴りの動きと、結構な高さから転げ落ちるゴブリンスレイヤーが一目でわかる一枚絵で、綺麗にオチているのも楽しかったです。
ゴブリンスレイヤーと剣の乙女
一連の騒動が終わった後、剣の乙女の元を訪れたゴブリンスレイヤー。
「全部知っていたのだろう」という彼の問いに、剣の乙女は事件に関する情報の隠蔽を認めます。
彼女が知っていて黙っていたのは、ゴブリンの巣の規模、ゴブリンが現れた原因、一連の事件の黒幕などの情報。
剣の乙女が情報を隠した理由は「ゴブリンの怖さをわかってもらいたかった」からです。そのことが情報を隠蔽する程の事かと、最初に読んだときはピンと来ませんでしたが、少し読み直して納得できました。
まず大前提として、ゴブリンに対してトラウマを抱えている彼女は「ゴブリンを退治に行け」と言われることが怖くてたまらないわけです。5巻のオマケ小説でも、彼女が退治に行くべきだと言われることを恐れていること、さらに、かつて「剣の乙女」として名を上げる前の暗澹とした日々に戻ることを恐れている描写もありました。
事件の背後に大物がいる・相手の戦力が大規模となれば、金等級冒険者である自分に白羽の矢が立つかもしれないので言い出せません。
さらに、ここに彼女の言う「わかってもらいたかった」理由が加わります。
毎晩毎晩ゴブリンの影に怯え苦しむ彼女は、「自分の苦しみを理解してほしい」と思っていますが、ここに「剣の乙女がゴブリンを怖いなど言えない」という事情が絡んで「ゴブリンの怖さをみんなに知ってほしい・怯えてほしい」という所に落ち着くわけですね。
自分で納得のいく答えにたどり着くのに少し時間がかかってしまいましたが、噛みしめると理解が追いつきました。この作品の心理描写は相変わらず味があります。
遺跡の奥にあった「転移の鏡」を引き合いに出し、「貴重で高価な物を上げるから私の気持ちをわかってほしい」といった様な、本当の共感とは程遠いことを言い出す程に追い詰められている剣の乙女。
彼女の痛々しい様子がしっかりと描写されているからこそ、この後の展開が熱かったです。
剣の乙女とゴブリンスレイヤー
剣の乙女とゴブリンスレイヤー、2人の視点の違いが印象的で、ゴブリンスレイヤーがひたすらにかっこいいエピローグでした。
5巻のオマケ小説で語られていましたが、剣の乙女が冒険者になった動機は、神が彼女に奇跡を授けたのならば、それに答える責任があると思ったからです。
英雄たらんとする彼女は「世界の正義が守られる」や「多くの人々にとっての平和が守られる」ならばともかく、「小鬼に怯える哀れな娘一人助けたところで何が変わるでしょう…?」と呟きます。
助けてほしくてたまらないのに、そのことに意義がないと言い切ってしまう辺り、英雄を拗らせています。
これにゴブリンスレイヤーは「それで良いと俺は思っている」と返します。
ゴブリンスレイヤーはゴブリンを殺すために戦っているわけですが、大事の前の小事と見逃される「ゴブリン被害を減らすこと=かつての自分たちのような人々を救う」ことに注力している様にも思えます。効率主義で現実的な割り切りもしますが、長いスパンでの効率的なゴブリン退治のために、今襲われている人々を見捨てたりはしません。
「英雄」の視点で物を見ている剣の乙女とは対照的です。
さらに対照的なのが、「自分の気持ちをわかってほしい」と思っている剣の乙女に対して、自分の感情は自分だけのものであると割り切って考えている点です。
剣の乙女の体験したことを自分の姉に降りかかったことに置き換え、「俺はそれを見ていた最初から最後まで」と言いながら、「だから、お前の気持ちはわからない」と続けます。
同じゴブリン被害者でも、彼女の感じた「恐怖」と、彼の感じた「怒り」は全くの別物。
「助けてほしい=理解してほしい」と縋る剣の乙女に、「助けられない=理解できない」と返すのは彼の不器用さであり、誠実さでしょう。絶望する剣の乙女ですが、去り際にゴブリンスレイヤーは言葉を続けます。
「だが、ゴブリンが出たなら俺を呼べ。ゴブリンは俺が殺してやる」。先ほどまでの不器用な応対があった分だけ、このセリフの重みが凄いです。
今まで英雄として人々を守る側の立場で、内心では怯え続けてきた彼女に、ゴブリンから守ってやるという発言。現実的な実績も、言葉の誠実さも折り紙付きです。「夢の中……でも?」という彼女の問いにすら「ああ」と答えている所に彼の優しさも感じます。
「俺はゴブリンスレイヤーだからな」と当然のことの様に言いきるのが格好良すぎます。
弱視である彼女の視界から消えたゴブリンスレイヤーの背中に、涙ながらに告白の言葉をこぼす剣の乙女。これは惚れても仕方がないという説得力がありました。
勇者参上
ゴブリンスレイヤー一行が小鬼英雄の率いる群れを生き埋めにしていた頃、一連の事件の黒幕を勇者一行が追い詰めていました。
実際に登場するのは初めてですが、何というか、この一行だけ世界観が違います。
熟練の冒険者でも、不運や油断でゴブリン相手に命を落とす物語の中で、「たまたま」黒幕の潜伏場所を見つけ、巨大な化け物を剣の一振りで真っ二つにする勇者。
僅か数ページの登場なのに、理不尽な存在感が凄いです。
受付嬢の一刺し(スティング)
酒の席で、蜥蜴神官と魔女に恋の話題を振られ、自分とゴブリンスレイヤーの関係に思い悩んでいた受付嬢。
そこに通りかかった仕事帰りのゴブリンスレイヤー。
受付嬢は、自分の隣の席を進め、そのままゴブリントーク。そして、話の終わりに「収穫祭」当日の予定を尋ね、勝負に出ます。
予定を聞かれ大真面目な雰囲気で、「ゴブリン―」と言おうとするゴブリンスレイヤーと、それに食い気味で「あゴブリン以外です」と突っ込む受付嬢。
食い気味にゴブリン発言をキャンセルしたと思えば、少し引きつった笑顔で勇気を振り絞ってデートの申し込みをし、返事を聞く前に「ほ、ほらお祭りのときっていろいろ物騒ですし…?」と逃げてしまったりもする受付嬢が、面白いやら、いじらしいやら。
何はともあれ、デート当日の展開が楽しみです。
水の街編も終わり、新章突入ということで日常パートが挟まれましたが、牛飼娘と牧場の組み合わせは、読者目線でも「帰ってきた」という感じがします。
牛乳を使った氷菓子の話に興奮し、馬車の床に尻尾を叩きつけてしまう蜥蜴僧侶。
ゴブリンスレイヤーへの不満を連ねながら、そのモノマネや、かわいいふくれっ面を披露する妖精弓手。
ゴブリンスレイヤーに褒められて顔を真っ赤にする女神官など、今回は日常パートでの各キャラクターの魅力も盛りだくさんでした。※通常のゴブリン退治はゴブリンスレイヤーの日常に含まれます。