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ゴブリンスレイヤー外伝:イヤーワン2巻 感想


ゴブリンスレイヤー外伝:イヤーワン 2巻 (デジタル版ヤングガンガンコミックス)

 

 ゴブリンスレイヤーだけではなく、諸々の登場人物の過去が語られる『ゴブリンスレイヤー外伝:イヤーワン』2巻の感想です。

 

注意

 この記事は、『ゴブリンスレイヤー外伝:イヤーワン』だけではなく、『ゴブリンスレイヤー』本編のネタバレも含みます。ご注意ください。

 

新人受付嬢とゴブリンスレイヤー

 ギルドに持ち込まれる大量のゴブリン関係の依頼。依頼に対する報酬は少額です。

 国は他に注力するべきことがあったり、貧しい村にはお金がなかったり、国の役所である冒険者ギルドにもできることと出来ないことがあったりと、何処か1カ所が悪いわけではないのですが、新人冒険者や、貧しい民にしわ寄せがきているのは間違いありません。

 冒険者ギルドが随分としっかりした組織であるので忘れそうになりますが、命の値段が安い世界観なのですよね。口減らしに加担している気になって、気が滅入る感性を持つ受付嬢はむしろ少数派みたいです。

 鉱山で起きた事件で冒険者が出払い、ゴブリン退治がおろそかになっていることに静かに怒るゴブリンスレイヤー。彼は他の事件や脅威への対処でゴブリン被害を見過ごす世間には怒りを覚えている様子。彼の過去を考えれば無理もありません。

 本編で受付嬢は、ゴブリンスレイヤーに好意を持ち、ほとんど彼の担当者といった印象でしたが、この2人、もし出会わなかったらどうなっていたのだろうという様なことを読んでいて思いました。

 ゴブリンスレイヤーは、色々と誤解されがちな彼を理解できて、細やかな配慮ができる受付嬢がいなかったら、危なっかしい新人時代を乗り越えられたかわかりません。

 受付嬢も、彼がいなかったら自分の仕事に嫌気がさしていたでしょうし、少なくとも自分の仕事に胸を張れるようにはならなかったのではないでしょうか。

 

岩喰怪虫(ロックイーター)の襲撃

 ゴブリンスレイヤーと同じ日に冒険者登録をした新人戦士が率いる一党は、粘液塊(ブロブ)退治の依頼中に、岩食怪虫(ロックイーター)と遭遇してしまいます。

 この岩喰怪虫は巨大なムカデのような怪物ですが、頭部が独特で、上下の鋭い牙の生えた大咢の内側に、さらに円周状かつ多層的に牙の生えた口を持ち、この口で岩でもなんでも食らいながら地面の中を掘り進むという化け物。

 外見も生態もいかにも怪物的でインパクトがありますが、登場シーンのインパクトはそれ以上でした。

 一党の半森人(ハーフエルフ)の少女が、頭上から粘液塊に襲われそうになり、新人戦士の少年がそれをフォロー。しかし、粘液塊を切り伏せた彼が振り返ると、少女がいたはずの場所には彼女の持っていた弓だけが落ちています。

 突然消えてしまった少女を探していると、頭上から彼女の履いていたブーツが落ちてきて、上を見上げると、声も出せないままジタバタもがく少女の足と、何かをガリゴリと砕く音。

 岩喰怪虫が松明の明かりの下に現れると、その口内には全身を噛み砕かれ絶命した少女の顔が見えます。

 この場面、様々な意味合いで衝撃のある場面でした。

 いきなり音もなく人一人が消えてしまい、気付いた時はすでに手遅れということも衝撃的です。

 つい先ほどまで、コロコロと表情を変えながら会話をしていた少女が、いきなり凄惨な死に方をするという点も衝撃があります。

 更にそれに加えて、もう1つ衝撃の出どころがありました。

 この少女は冒険者としてかなり才能に恵まれていた様で、直前の仲間との会話でもそのことが窺えます。才能豊かな若者が、その才能を開かせることもなく、本人的に訳も分からない内に死んでしまう構図に、物語としての残酷さを感じ、そのことにも衝撃を受けました。

 この少女が脇役なりに、ここまでの物語で何度か登場していたことも、私が衝撃を受けるに至ったポイントだったと思います。

 視覚的な描写による直接的な残酷さの表現だけではなく、1人の人間の存在の重みが描かれた上で、それがいとも軽く損なわれてしまうということの残酷さがしっかりと表現されていました。

 

牛飼娘とゴブリンスレイヤーの関係が尊い

 やはり、本編とのギャップが凄い牛飼娘。

 ゴブリンスレイヤーにとっての牛飼娘は、1人でゴブリンと戦う日々を過ごしていた彼の人間性をつなぎとめていた存在であり、本編の時点では彼の大切な「帰る場所」になっていました。

 一方で、牛飼娘にとってのゴブリンスレイヤーというのは、内向きに閉じこもっていた彼女が再び「外」に目を向けるきっかけであったと同時に、彼女が前を向いて生きていくうえでの心の支えだったのでした。

 本編の彼女は、ゴブリンスレイヤーのために意図的に明るく振る舞っている様子でしたが、その全てが演技だったとも思えません。

 イヤーワン2巻でのゴブリンスレイヤーの使っている納屋を掃除しながら彼への不満を呟く場面からは、彼との再会で、ふさぎ込む前のかつての性格が戻ってきたという面もあると感じました。

 彼女はゴブリンスレイヤーに依存しているとも言えるのですが、「タガが外れた」彼を受け入れ、自分にできる事を精一杯探し、実際に体を動かす様子は、単なる依存と言い切ってしまうには健気すぎて、彼女の強さも感じました。

 「人の心は複雑な様で単純でやっぱり複雑」とは、掃除中の牛飼娘の独白ですが、まさにこれです。

 ゴブリンスレイヤーと牛飼娘の関係性と、時間の流れによって成長し変化していっただろうそれを想像させる絶妙な描写に、リアリティーと趣を感じました。

 引きこもりだったのに一念発起し街に行き、本編の彼女からは考えられないくらい真っ赤になりながら頑張る様子も微笑ましいです。

 本編でのゴブリンスレイヤーと牛飼娘から感じられる、幸福ともの悲しさの二律背反然とした魅力が、よりいっそう尊いものに感じられました。

 

 

 ゴブリンスレイヤーは単身で、大きなゴブリンの群れの討伐に向かい、街の冒険者たちは集って岩喰怪虫という並外れた化け物に挑む展開となりました。

 イヤーワンの物語が進めば進むほど、本編でのゴブリンスレイヤーと牛飼娘の自然体に見える距離感が、とても尊いものに思えてきます。

 あの関係に落ち着くまでに、いったいどれ程の努力と、どれだけの涙があったのかと想像せずにはいられません。