ゴブリンスレイヤー 8巻 (デジタル版ビッグガンガンコミックス)
人気のない夜の冒険者ギルドで、受付嬢ともども襲撃を受けたゴブリンスレイヤー。
街のみんなが思い思いに過ごす祭りの時間を守るため、ゴブリンスレイヤーは仲間たちと夜を走ります。ゴブリンスレイヤー8巻の感想です。
笑顔の見送り、祭りの夜・受付嬢
ゴブリンスレイヤーを侮り、返り討ちにあった圃人(レーア)の刺客ですが、そもそも、ゴブリンスレイヤーを見ていたり、街中でこそこそしていたりしたのもバレていました。
ゴブリンスレイヤーを雑魚狩り専門と侮り続けた彼には、思いもよらないことでしょうが、ゴブリンスレイヤーは街中にいようとも、常にゴブリンの襲撃に備え、食事時でも兜を取らない程、徹底的に周囲を警戒しています。
その視界内でこそこそしていたら、それはバレますよね。
ただの怨恨だけでは説明がつかない刺客の扮装、実はギルドの屋上・見張り塔から見えていた街の四方の影から、「ゴブリンどもが動いているのやもしれん」と動き出すゴブリンスレイヤー。
そんな彼を送り出す受付嬢の笑顔にも趣があります。
「後始末を頼む」と言われた時の口元だけの笑顔が映った1つ目のコマ。次の「がんばってください!」の笑顔の2つ目のコマ。そして、「任せろ」と返したゴブリンスレイヤーを見送る笑顔の3つ目のコマ。「がんばってください!」のコマに比べて、その前後のコマは色調が暗くなっています。
演出に、笑顔に、色々な意味が感じられるのですよね。
1つ目の笑顔の色調が暗かったのはゴブリンスレイヤーに見えていない、つまり、取り繕っていない受付嬢の本当の表情を示唆し、3つ目の笑顔の色調が暗かったのは、逆に受付嬢が押し隠している感情がある事を示唆している様に感じました。
いつでもみんなのために一生懸命なゴブリンスレイヤーへの想いが感じられ、祭りの夜の特別な時間が終わってしまうことを惜しむ自分を押し隠している様でもあり、クエストに赴くゴブリンスレイヤーとそれを見送る自分といういつもの構図に何やら思うことがある様にも見えます。
収穫祭編が始まってから、ここまでの間にいろいろと受付嬢の内面が描かれてきた上でのこの表情。受付嬢の複雑な胸中について、いろいろと想像が膨らみます。
「過去の格言に曰く、罠はハマって踏み潰すものと」※漢探知・漢解除とも言います
仲間と合流し、街の四方から迫るゴブリン達を迎え撃つゴブリンスレイヤー。
収穫祭の前から彼が準備していた罠を使い、手際よくゴブリン達を仕留めていきますが、その仕掛けがまた相変わらず容赦がないです。
四方の内、北、西、東のゴブリンを片づけた一行は、街の南側で、牛飼娘の住む牧場を背に、今回の騒動の首魁との決戦に挑みます。
タイトルのセリフは敵の第一撃目を凌ぎ、これから本格的に戦闘開始というおりに蜥蜴神官が言ったセリフですが、これもいわゆるTRPGあるあるネタですね。
敵の手際が悪すぎて、逆に何らかの意図・罠を疑ってしまうという状況下で言われたセリフなのですが、現実のTRPGあるあるネタと思しきことが「格言」等として出てきたことに笑ってしまいました。
『ゴブリンスレイヤー』はその世界からして神様の盤上遊戯であるという世界観なので、らしいといえばらしいのですが。普段落ち着いているものの勇ましい性格の蜥蜴神官が言った所もポイントですね。似合いすぎます。面白かったです。
「罠」という言葉のニュアンスが少し違いますが、ここまで散々ゴブリンスレイヤーの凶悪で悪辣な罠が披露された後だったのも笑いを誘いました。
闇人(ダークエルフ)
ゴブリン達や、圃人の刺客の背後にいた闇人(ダークエルフ)。
威力にも射程にも優れている《分解(ディスティングレート)》の呪文を使い、魔法の突剣で剣技も繰り出します。さらに本職は召喚士(サモナー)らしく、呪物を触媒にして自分の背中に百手巨人(ヘカトンケイル)の腕を生やしたりもします。そんな「高位階の使い手」とのことですが、人食い鬼(オーガ)や、小鬼の王(ゴブリンロード)の時ほど化け物感がありません。
ちなみに、闇人は混沌の勢力側の「言葉持つもの(プレイヤー)」であり、長い耳と浅黒い肌を持ち、邪悪なものが多いとのことです。
そう考えると、化け物というよりも、敵側の人間的なポジションなので、化け物感がないのは当たり前かもしれません。
しかし、それにしても、実力の割に小物臭が凄いです。これは策士気取りであるにもかかわらず、策でことごとく失敗しているからですね。ゴブリン達の用兵についても、ゴブリンスレイヤーに「素人」呼ばわりされています。
何よりこの人、ゴブリンスレイヤーのことを知らなかったみたいです。大物ぶった態度で、「貴様何者だ?この街にいるのは銀等級止まりと聞いたが…第三位が小鬼の棍棒を使うとは思えん」等と言っていました。
計画的犯行なのに、事前調査の時点で躓いています。配下がゴブリンばかりなのに、街の名物冒険者たるゴブリン退治の専門家がノーマーク。
おそらくこの人の情報源は、ゴブリンスレイヤーのことを侮っていたあの圃人と思われるので、仕方ないと言えなくもないかもしれませんが。
祭りでにぎわう街を襲撃しようとしたわけですが、街につく前にゴブリン達は全滅。
圃人の刺客に街中で混乱を起こさせることにも失敗。
自分が手に入れた呪物を使って百手巨人(ヘカトンケイル)を復活させることが目的だったようですが、ゴブリンに集めさせた生贄の女たちも救助されてしまっています。
はい、全部ゴブリンスレイヤーの仕業でした。この人の敗因はゴブリンスレイヤーのことを知らなかったことですね。
敵側の小物感も際立っていますが、ゴブリンスレイヤーの日々の努力と、心がけによって、祭りの夜が守られたという構図が好きです。
笑顔の見送り、いつもの日常・牛飼娘
戦いが終わって再びいつもの日常へ。牧場でゴブリンスレイヤーへ膝枕+耳掃除をする牛飼娘。
「…何故こんなことをされているのかがわからん」と言うゴブリンスレイヤーへ、しれっと「したかったからだけど?」と真顔で返します。もう普段の彼女です。
祭りの日のいろいろと意識してしまっていた牛飼娘も新鮮でかわいかったのですが、この余裕を感じさせる独特の風格もやっぱりいいです。
祭りの日にゴブリンスレイヤーを見送った受付嬢の笑顔も趣深いものでしたが、自然体で大らかな笑顔での見送りもいいものです。
街の四方の影に気付いてもその場ですぐに駆け出さなかったことや、各々の時間を過ごす街の冒険者たちを気遣って自分たちだけで決着をつけたことに、ゴブリンスレイヤーの人間的な成長を感じます。
ゴブリンの迎撃に使った事前の備えにしても、一見病的な様でありながら、その実、ゴブリンの生態や、近隣の情勢から読み解ける明確な理由があったことが、しっかりと描写されています。
こういう部分に味わい深いキャラクターの魅力があります。