コミックコーナーのモニュメント

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ライドンキング2巻 感想


ライドンキング(2) (シリウスコミックス)

 

 魔獣使いの一味から、子供たちと魔狼(ガルム)達を解放したプルチノフ大統領。そんな大統領を追うのは地方領主の娘であり、ケンタウロス達を狙うジェラリエ。ライドンキング2巻の感想です。

 

異世界の景色と大統領

 大統領が助けた子供達は、大部分が元居た場所から人減らしで追い出された子供達でした。子供たちをどうするべきか悩む大統領でしたが、魔獣使いに攫われてきた娘が住んでいた村が近くにあることが判明。

 村に向かった一行ですが、僅かな生き残りの老人たちを残し廃村も同然の状態でした。若い男たちは賦役に取られ帰らず、女たちは山賊に攫われ、さらに魔獣に襲われた模様です。

 「お伽の国に迷い込んだと思っていたが…これではいつかの我が国に戻った思いだ…」とは大統領の独白。この感想も主人公が現代日本の若者だったらありえないものですね。

 村の老人たちの信仰を集めた魔狼の女王が山神になって村の守り神になったり、大統領が従えた皇帝魔熊(ベイダーベア)のおかげであっという間に村の周りに空堀が掘られたり、大統領の知識をベルの外道魔法でカーニャに転写し、カーニャの木工魔法であっという間に子供でも扱えるピストルクロスボウが量産されて村の防衛戦力が整う等、ストレスフリーかつ、ご都合主義でもない高速展開が素晴らしかったです。

 人の視点の高さで見上げた山の風景が映るコマや、皇帝魔熊の掘削で上がる巨大な土煙、空堀で覆われた村の全景を俯瞰した絵などは、単なる状況説明としてのそれに留まらず、世界の広大さが感じられて素敵でした。

 

シリアスな笑い?ダンジョンの闇と輝く頭蓋骨

 村の近くにできたダンジョンの調査に乗り出した大統領一行。

 この世界のダンジョンとは、太陽神と敵対する混沌勢力が、この世に侵攻を図るために開けた世界と世界を繋げる穴だということです。ちなみにこのダンジョンは、中に亡者がひしめくアンデッドダンジョンでした。

 骸骨戦士(スケルトン)を拳打で打ち砕いていく大統領ですが、そこに物理攻撃の効かない幽鬼(レイス)が登場。

 幽鬼が陽の光に弱いと聞いた大統領は、近くに落ちていた骸骨戦士の頭を持ち上げ、その内部にある魔石を光らせることでこれを撃破します。

 この場面、何もギャグらしい描写はないのですが、笑わせに来ています。絵面が面白過ぎます。シリアスな笑いと言うやつでしょうか。いえ、これは確信犯ですね。

 1巻で大統領が魔石を発光させていましたし、骸骨戦士の頭の中には魔石がある事、幽鬼は陽の光に弱いこと等の情報提示がスムーズに行われていった後の自然な流れでの行動でした。大統領は終始真面目な顔をしていますし、誰も面白いことを言ったりもしていません。

 しかし、大統領がむんずと持ち上げた頭蓋骨を手に持ったまま、空手の構えを取ります。すると、大統領の手の動きに合わせて1つのコマの中で無数に分身する頭蓋骨。

 そして、「光れ!!」と大統領が頭蓋骨を前に突き出すと、激しい光を発します。眼孔からも光がほとばしっています。ベタフラッシュの中心にある頭蓋骨がシュールです。

 真面目な顔をしたまま、絵面で完全に笑わせに来ています。私はだめでした。耐えられずに笑ってしまいました。

 

ゾンビドラゴン・リッチ戦。「大地よ。我に力を!」

 迷宮の最下層に転移させられた大統領一行。そこで待ち受けていたのは、巨大な骸竜(ゾンビドラゴン)と、迷宮の主である魔霊王(リッチ)でした。

 骸竜と魔霊王のクリーチャーデザインも、絵のクオリティーも素晴らしく、だからこそ、大統領と魔霊王の噛み合わないやり取りが笑いを誘います。他の漫画ならばジャブ程度のボケでも、絵のクオリティーがヘビー級なせいで、結構な破壊力になっています。

 大統領は仲間を守るために地面を踏みつけ、石を隆起させ壁にします。ファンタジーバトル漫画であることを考えるとそこまで変な絵ではありません。

 ただ、大統領が現代の地球出身であること、異世界に来る前から同じことができていたことを思い出してしまうと笑えてきます。

 何だかんだ戦闘開始。骸竜の攻撃を釣込腰で投げようとする大統領でしたが、圧倒的な体格差の前に技ごと潰されてしまいます。

 窮地の大統領の頭をよぎったのは、武術の師の教えである「大地の力を借りる」でした。これは巨大な相手には正面からぶつからずに、体を低く保ち、下方から斜め45度の角度でぶつかる武術のテクニックをさす言葉でした。

 師の教えを思い出した大統領は構えを直し念じます「大地よ。我に力を!」すると、大地から大量のマナが大統領に流れ込み、大地の精霊が大統領の体に入り込みます。骸竜の爪を受け止めた大統領は、今度こそその巨体を投げ飛ばすのでした。

 はい。途中から何かがおかしいです。武術のテクニックがファンタジーな何かと入れ替わっています。もしかしたら入れ替わりではなく併用という線もありますが、とにかく何かがおかしい。

 不思議な光を纏いながら、残心を取る大統領。魔法や精霊に詳しい仲間による解説モノローグも、配下を投げ飛ばされた魔霊王のリアクションも大真面目に進行してゆきます。

 この後もシリアスな絵面でバトルが続きます。

 骸竜の叩きつけた尾を受け止め「大統領流!!逆転竜尾竜巻(リバースドラゴンスクリュー)」を繰り出した大統領の力んだ顔の迫力と、そのあまりの破壊力。

 倒れ伏した骸竜の頭に飛び乗った大統領のポーズと、どこか悲しげな眼。

 ドラゴンを呪い殺し、自分の配下として使役する程の実力者だったにもかかわらず、いい所無しでやられてしまった魔霊王の散りざま。

 全てシリアスな絵面で書かれているにも拘らず、シリアスな絵面の中にどこかパロディーを連想させる構図が含まれていたり、散り際のポーズと悲鳴がひどかったり、もはやシリアスであることそれ自体が笑えたり、笑いとシリアスがゲシュタルト崩壊していました。

 

村の窮地と魔法名

 無事ダンジョンから帰還した大統領一行。しかし、村に合流したケンタウロス達を狙うジェラリエたちと、村の守り神になった魔狼の女王を狙う従軍魔術師・カーヴィンによって襲撃を受けている所でした。

 魔術兵器(マジックウェポン)等というものまで持ち出されています。名前通り、武器ではなく兵器と呼ぶべき代物です。

 合流前に一方的に殺されていったケンタウロス達。村を守るために血だらけになりながら戦う女王。村の防護壁ごと吹き飛ばされて宙を舞う子供達。それを見て嘗ての戦場の光景を思い出す大統領。

 シリアスに凄惨さも加わり、笑うに笑えないはずの場面ですが、そんなところにもいろいろとギャグやパロディーを盛り込んでくる所が酷いです。

 特に、村の窮地に自分たちの秘密と奥の手を打ち明ける際にベルの使った魔法。「完全密室(ルームオブコナン)」という魔法のルビには突っ込まずにいられませんでした。

 

 

 ダンジョンの戦いの後に、本来の墓所の主である獣王ヤムドゥアから、「八王国の冠・十二亜八冠」と「雷神の隠刀(ライゲルソード)」を受け取り、新たな加護ももらったプルチノフ大統領。

 この場面は、無双の膂力も、万軍を滅す魔法力も、不老も、使いきれないほどの大金もいらぬと言う大統領が、ただ死に別れた奥さんとの思い出を求め、それに獣王が応えるというとても良い場面です。

 写真もスマホもない世界で、自分の中の記憶が朧げになってしまいそうで怖いという大統領の気持ちにも共感できます。

 しかし、奥さんの顔が鮮明になって浮かんだ場面で、妙に漢前なその表情に笑ってしまいました。奥さんは美人で、男前なだけで、別に変顔をしていたわけでもありません。

 普段ならこの程度で笑うはずはないのですが、もうシリアスと笑いが入り乱れて飽和状態になっていたと言いますか、ゲシュタルト崩壊していたと言いますか、普段笑わないはずの所で笑ってしまいました。この漫画の「シリアスと笑い」は少し怖いです。