コミックコーナーのモニュメント

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ダンジョン飯8巻 感想


ダンジョン飯 8巻 (HARTA COMIX)

 

 センシの心の閊えも取れて心機一転のはずが、その輪に踏み込んだ者を「少しだけ変えてしまう」キノコ、チェンジリングの輪に踏み込んでしまったライオス一行。

 ダンジョン飯8巻の感想です。

 

チェンジリングパニック

 ライオスはドワーフに、マルシルはハーフフットに、センシはエルフに、チルチャックはトールマンに、イヅツミはコボルトに、種族が変われば外見も体質も変わり、サイズの関係で衣装も取り換えっこです。

 エルフになったセンシが背景に花を背負っている等、あからさまなギャグ要素を盛られている中で、ただトールマンになっただけのチルチャックが一番インパクトありました。青髭が。

 1つずつ数え上げたら切りがないくらいに、面白い絵面の多い回でした。

 自分たちの体がチェンジリングの苗床になっている=自分たちの身体で作る輪にはチェンジリングと同じ効果があると気づいた一行。

 空を飛び回るガーゴイルを倒すために、どうやって輪に通すか悩む中、体重が軽いハーフフット・マルシルに目が留まったライオスとチルチャック。「いけそうだ」、「やるか」と2人が納得する中で、最後まで何をさせられようとしているのかわからなかったマルシル。

 みんなで手をつないで輪を作り、そのまま「いちに、いちに」と走る中、ただ1人状況について行けず、両手を掴まれて、勢い良く前後に振り回された挙句、突っ込んで来たガーゴイルを無理やり飛び越えさせられた時の表情が秀逸。

 両手で体を支え、足を全開、必死に体を水平にして力んだ表情は、その状況への不満も同時に表現していて最高でした。

 1巻表紙のセルフパロディー(種族変化バージョン)や、各メンバーのトールマン、エルフ、ハーフフット、ドワーフ、ノーム姿の似顔絵が並んだ扉絵も良かったです。トールマンバージョンのセンシがかっこ良すぎて驚きました。

 いろいろおもしろかったものの、7巻で言っていたみたいにトロールになったりはしなかったなと思っていたら、オマケページのモンスターよもやま話で、この世界におけるトロールの正体が判明。ちゃんとトロールになっていたのですね。

 

ファリン救出の糸口?

 センシが気付いた事実。それはボンレスハムになった竜の肉ですら、血肉に戻りファリンと合流したにも関わらず、自分たちが食べて体に取り込んだ竜の肉は、そのままだったということ。

 つまり、「ファリンの竜の部位を全て食べてしまえば、竜の魂のみを追い払うことができるのでは?」ということでした。

 漫画のタイトル的にも、発想のとんでもなさでも、実にこのダンジョン飯らしい方法です。

 「竜の部分を食べる……し、しかしそれは……」と戦慄するライオスでしたが、それに続いてきたのは「いったい何食分なんだ……?」という反応。流石ライオス。どうやら妹のキメラボディを食べることには抵抗はないようです。

 いつも通り周囲から突っ込まれますが、珍しく怒鳴り返します。この時のイヅツミの顔が面白かったです。他の2人と一緒に本気で引いて怯えている顔でした。

 イヅツミと言えば、ファリンのことを思って泣き出してしまったマルシルに対する彼女の反応。物凄く嫌そうにではあるものの、慰めようとしている所に彼女の成長が感じられます。

 ライオスが、ナマリや、シュローにもファリンを食べさせる気満々なことにも笑いました。

 ただ、今の時点でここまで明確な解決手段が判明したからには、逆に何かが起こりそうな気もします。ファリン(ドラゴン部分のみ)がメインディッシュのパーティーと言うだけでも相当な絵面ですが、さらに面白くなりそうな予感がします。

 

迷宮対策部隊カナリア(俗称)

 かつて、故郷が迷宮によって滅びた経験を持つカブルー。彼の記憶をなぞる形で状況が急激に悪化していく島の迷宮。

 カブルーは出来るだけ穏便な方法での解決を図りますが、“島の裏の顔役”はカブルーとエルフたちを殺そうとします。

 人間観察が趣味で、分析も得意なカブルーが、相手の出方を読み違えたのかと思えば、どうやら迷宮の影響力が強すぎた様です。単に迷宮資源に目がくらんだという以上の何がしかがある様子です。「迷宮に心を食われていた」とはエルフの言。

 エルフたちは強硬策に出ますが、そのメンバーも割と性格面で個性があります。

 何を考えているかよくわからず、苛烈な性格かと思えばボケを連発し、周辺被害の大きい傍迷惑な戦い方をする隊長。

 任務優先で現地の犠牲は必要経費(コラテラルダメージ)だと割り切っていそうな人もいれば、それ以前に始めから知ったことかといった感じの享楽的な印象を受ける人もいて、一方で、戸惑いを感じている風な人もいます。

 部隊の半数は「古代魔術に関わった犯罪者」らしいので、癖がある人物が多いの点にも、全体のまとまりがないことにも納得がいきます。

 それにつけても、この人たち、全体的に性別がわかりにくいです。この漫画の作画は素晴らしいのですが、エルフは顔も体つきも性別不詳。わかりやすく胸が突き出ている人や、話し方で判別できる人もいますが、あまりセリフがない人もいます。隊長は恐らく男性でしょうか。

 彼らの背景が今後掘り下げられるかどうかも気になりますね。

 ナマリといい、シュロー一行といい、カブルーたちといい、登場人物のそれぞれの背景が気になるのも、この漫画の人物描写が魅力的だからです。

 

カブルーの意地

 手馴れた様子で迷宮災害に対応するエルフ達。まさかここまであっさりと狂乱の魔術師を追い詰めるとは思いませんでした。

 このタイミングで動いたのがカブルー。隊長を羽交い絞めにして、エルフたちへの不満をぶちまけます。

 カブルーは狂乱の魔術師たちを逃走させようという算段で時間稼ぎをしたわけですが、この時に言っていたことも本音ですね。

 自分の家族を迷宮によって失い、それがなぜそうなったのかという情報さえ秘匿され、エルフたちに不満を持っていたカブルー。「一部の人種だけが力を持つ今の構造はどちらにとっても不健全だ」というのは、7巻45話でのカブルーのセリフでした。

 自分には迷宮を攻略できる実力はないことを痛感しており、色々と不安ではあるものの、トールマンの中で迷宮攻略に最も近づいているライオスに注目。

 エルフにその邪魔をさせたくなかったものの、迫る迷宮災害。

 迷宮による被害の抑止。トールマンの手による迷宮の攻略。どちらもカブルーの目的でした。

 計算高いカブルーが、確実な算段よりも、意地というべき感情で不確実な道を選ぶ決断をする展開が熱かったです。

 崩落する迷宮。隊長と共に落ちていくカブルーの「後は頼んだぞライオス」という独白。しかし、カブルーの足に刺さったままの歩き茸がシュールです。

 その頃、ライオスたちは2回目のチェンジリングで、前以上に凄いことになっていました。筋肉ムキムキで角まで生えているオーガマルシルの圧力に笑いました。

 隊長の転移術の影響で、カブルーの足に歩き茸が刺さっている時点でクスリとくるものがありましたが、ここまで露骨にギャグにつないでくるとは。カブルーは絶対に生きていますね。

 

バイコーンとチルチャックの過去

 清廉や純潔を好むユニコーンに対して、善良を嫌い堕落や不義を好むというバイコーン。

 その捕獲を目論むライオスたち。

 「(ユニコーンが純潔の処女ならば)バイコーンの捕獲には堕落した成人男性が必要なはず」というライオスの閃き。

 一度バイコーンに逃げられた後に大真面目に「これはもう……堕落するしかない」等と宣うライオス。

 暴食を表現するために、サンドイッチをがっつきながら、バイコーンににじり寄っていく一行。

 飽きたので寝るというイヅツミを抱え上げながら、「“怠惰”か!!いいぞいいぞやる気だなイヅツミ!」というライオスとセンシ。突然捕獲され悲鳴を上げるイヅツミ。やる気のある怠惰という矛盾に満ちた言葉。

 “強欲”という名のいつも通り、ただ抑え無しの全開というだけのライオス。

 パワーワードと、面白い絵面と、いつも通りのライオス。テンポの良い楽しさのある回でした。

 「自分の浮気が原因で奥さんと別れた」という嘘をついたために、“不貞”を任されたものの、実は善良な夫であったためにバイコーンに襲われてしまったチルチャック。

 この回は気になっていたチルチャックの過去が明らかになって、すっきりした回でもありました。

 彼自身でさえも理由がわからなかった奥さんの家出の真相を解き明かすマルシルですが、マルシル自身の恋愛経験ではなく、物語や井戸端会議が情報元の様です。趣味人の勝利といった所でしょうか。

 ただ、ライオスたちにさらりと全24巻の長編小説を押し付けようとするのはいかがなものかと思います。

 

 

 エルフの迷宮対策部隊よりも先に押し掛けるという歩き茸同好会。チェンジリングの話に綺麗なオチを付けたトロールの話。オマケページのモンスターよもやま話も相変わらずの面白さでした。