コミックコーナーのモニュメント

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クミカのミカク4巻 感想


クミカのミカク(4)【電子限定特典ペーパー付き】 (RYU COMICS)

 

 ラーメンを食べた帰り道、ハルニさんのイズル社長への想いを打ち明けられたクミカさん。

 「あなたにもそんな方はいますの」というハルニさんの問いに、チヒロさんの顔が浮かんでしまいました。クミカのミカク4巻の感想です。

 

恋煩い?のクミカさん

 先日のハルニさんとの一件以来、「私がチヒロさんのことを好き…?」という疑問が頭を離れないクミカさん。

 気もそぞろで仕事にも身が入らず、チヒロさんが近くに来るだけで意識してしまいます。

 触手を使った「あっちょんぶりけ」や、至近距離のチヒロさんから逃れるために空中に緊急退避して、そのままパタパタとお茶を入れに行く様子は面白かったです。もちろん、赤面した時もいい表情をしていました。

 ついにはチヒロさんとの食事の最中に席を立ち、雨の中しばらく歩いてから、ようやく自分が傘を忘れてきたことに気付くほどの重症ぶりです。

 この辺りを読みながら、小野中先生は毎回必ず新しい表情を描いたり、新しい表現を取り入れることを己に課していたのではないかと、今さらながらに思ったりもしました。

 登場人物が毎回新しい顔を見せてくれるのが、この漫画の面白い所ですが、表情だけでなく、漫画的な表現や演出、技法の部分でも意識して新しいものをどんどん使っています。その点に明確な意図があるような印象を受けました。

 さて、雨の中ずぶ濡れのクミカさんに声をかけたのは、チヒロさんやイズル社長とは旧知の仲であるヒダカさん。

 彼のお店でお風呂を頂いたクミカさんは、チヒロさんが「血濡れのチヒロ」と呼ばれていた頃の話を聞くことになります。

 

血濡れのチヒロ

 強面の外星人ヤンキーを一睨みで撃退する血濡れのチヒロ。彼の捕食シーンには笑いました。

 そう捕食シーンです。いえ正確には「捕って」はいませんが、絵面は完全に捕食シーンでした。膝をつき、両手で掴んだ大きな虫の様な生物を食いちぎるチヒロ少年。赤い液体が足元の弁当箱の中に滴り落ちます。

 捕食シーンの様で、微妙に捕食シーンではなくて、それでいて絶妙に捕食シーンに見える何かです。

 その場面を目撃して、思わず叫んでしまった高校生時代・当時リーゼントのイズル社長と一緒に、私も心の中で叫びました。

 彼が食いちぎっていた物体は、宇宙で働く彼の両親が送ってくる外星の食材。食べても食べても送られてくるそれを何とか消費しようとするチヒロ少年。不憫です。

 「キミはどうやったって味が染み込まない食べ物を知らないんだよ…ちなみにそれは半日カレーで煮込んでるから」とのことですが、カレーで味が付かないとは一体。それ以前に半日煮込んだにもかかわらず、鮮血の様なものが滴り落ちています。外星の食材とは一体。

 見た目がグロテスクな未知の食材というネタは、他の漫画でも割と頻繁に見るネタですが、味が染みないとか、煮込んだにもかかわらず血のような液体が滴り落ちるとか、妙に具体的で、ユニークな設定でした。生々しいからこそ笑えました。

 そんな不憫なチヒロ少年が、笑顔を取り戻すまでの経緯が語られたわけですが、ヤンキーエピソードや、シリアスな話は出てきませんでした。クミカさんもポカンとしています。

 ちなみに血濡れの2つ名は、昼休みのたびに両手が食材の血で濡れていたことで、誤解を招いた様です。元ヤンだろうとなかろうと、チヒロさんが時々ぶっ飛んだことをやらかすのは今も昔も変わらない様ですが。

 ヒダカさんの話に大笑いした後で、クミカさんの心の整理はついたようですが、結局、どのような答えを出したのかは明確には語られていません。

 自覚があるのかないのか、その点が気になります。

 

喧嘩するほど仲がいい職場で行く焼肉

 お昼に何を食べるかでも、目玉焼きに何をかけるかという雑談でも、ことごとく意見の一致しない出流原デザインの面々。1つにまとまらないどころか、全員別々の答えになるという不一致ぶりです。

 皆が大好きな料理、大人も子供も好きな料理はないのかという話題になり、クライアントの無茶ぶりからのお昼抜きだった一同は、仕事明けに炭火焼肉店に繰り出します。

 炭火の熱量や、肉の焼ける音に驚き、カルビ、ロース、タンそれぞれの味わい、焼き肉の楽しさを味わい、確かにこれはみんなが大好きな料理だと納得するクミカさん。

 チヒロさんとも楽しさを共有し、「それにこれなら…皆で気の合った食事が…!」と言いかけたところで、そのページが終わります。私にはページをめくった後の展開が予想できました。

 展開は予想出来ていましたが、まさか見開きで来るとは思っていませんでした。

 見開きで、さらにはその次の1ページでまで喧々囂々。

 ハラミはタレか塩か。焼けた肉の隣に生肉を置くな。細かいことをいうな。エトセトラエトセトラ。

 喧々囂々のみんなの前に、思わず触手の光も治まってしまったクミカさんと、やるせない顔のチヒロさんが絶妙に笑いを誘います。

 新しいミカクへのクミカさんのリアクションをひっくり返す展開、感動を台無しにする残念な空気。暗いトーンで、それでいて暗すぎない背景と、巧みな影の当て方。何よりも2人の表情が最高でした。

 

その後のイズル社長とハルニさん

 政略結婚でのお見合いは破談となったものの、イズル社長に惚れこんで地球に残ったハルニさん。

 クミカさんとチヒロさんを自分の船に招き、イズル社長は最近自分のことを話したりしていなかったかと尋ねます。

 しかし、チヒロさんによると、イズル社長はハルニさんの名前も覚えておらず、「あの人まだ地球にいんの?」等と言っていた模様です。「最低だあの人最低だ」というクミカさんのコメントには同意します。ただ、ハルニさんも21話でばったり会った以降、特にアクションを起こしていなかった様ですね。

 イズル社長のつれない態度にもキュンとする等、へこたれないハルニさん。楽しそうですね。

 初登場時の彼女と比較すると、イズル社長は本当に彼女の心の中の雨雲を吹き飛ばしたんだなあと思います。本人はハルニさんの名前すら憶えていなかったようですが。

 クミカさんが手料理を振舞ったらどうですかと提案。材料を買いそろえて、レシピ本を片手にしたクミカさんの指示のもとに、テキパキと手料理を作り始めるメギアさん。ハルニさんはお茶を一服。

 イラっとするクミカさんの言いたいことを正しく理解しながらも、「私めはハルニ様が幼き頃よりずっと…おそばで使えさせて頂いております…!つまり私めとハルニ様は一心同体!!そうは思われませぬか!!」とボケ倒すメギアさん。

 やっぱりこの人も面白いですね。言葉だけでなく動作までもが一々うるさいくらいなのに、気合一辺倒ではなく冷静な所もありますし、読めそうで読めないと言いますか、こちらの予想を外してくる言動が面白いです。

 クミカさんの言葉に自分の心得違いに気付き、はっとなるハルニさん。自分の言葉で思いを伝えられるクミカさんと、それを受け止められるハルニさん。2人ともいい表情をしています。

 メギアさんが母星にいた頃との違いに驚いていましたが、この回の扉絵でお見合い前と思われるハルニさんが描かれています。

 今の彼女との表情の違いは一目瞭然。というよりも、表情の違いでお見合い前なのだと確信できます。やはり、この辺りの表情描写の表現力が素晴らしいです。

 無事、肉じゃがも完成。ストレートに好意をぶつけられて、呆けたり、不器用な照れ方をしたりするイズル社長もいい感じです。後、最後のコマのクミカさんグッジョブです。

 

夏祭りとりんご飴

 クミカさんの浴衣姿が素敵な夏祭り。いや本当に素敵でした。過度な演出はせずとも、絵だけでその素敵さが伝わる表現力が素晴らしい。

 神社の境内で、りんご飴を食べるクミカさんが発した光を目印に、逸れていたチヒロさんが彼女を見つける展開も素敵ですが、見つけた後の演出はもっと素敵でした。

 チヒロさんが駆けつけたことで、りんご飴で出ていた光がいったん止まり、暗くなった中見つめ合う1コマを挟んで、チヒロさんに見つけてもらったことに対する感情が光になってあふれ出します。

 この場面、クミカさんの表情変化があえて少な目で、かつ光り方ではこれでもかというくらい一目瞭然な感情表現になっているのが、とても素晴らしかったです。いったん暗くなってから改めて明るくなる画面の色合いの緩急のつけ方も含めて、とても趣がありますね。

 花火が打ち上げられる瞬間と、クミカさんの笑顔を切り取った見開きの場面といい、光と影の使い方がとても巧妙で本当に素敵でした。

 

 

 今巻の季節は夏ですが、クミカさんってワンピースとか、浴衣とか、夏っぽい服装が似合いますね。

 25話の夏の一日は、外の明るさと、部屋の中にできる影のコントラストで、絶妙に夏の空の広さと、日差しの強さが表現されていました。

 絵の表現力や、漫画としての演出の仕方がとても魅力的な一方で、地球が現代と変わらな過ぎて、これまで、地球外の暮らしや、SFチックな部分がいまいち想像できていませんでした。

 しかし、よく考えれば、ある日、突然、地球外から星間航行の技術がもたらされた可能性もあるわけです。

 多くの星々で交流があるわけですから、そこに後から地球が加わったという風にも考えられます。いえ、その方が自然な気がします。

 この漫画の外星人がいるのに、現代とあまり変わらない社会という部分にSFとしての引っ掛かりを感じていたのですが、上の点に気が付いたら、SFとしても自然と受け入れられるようになりました。