コミックコーナーのモニュメント

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ライドンキング5巻 感想


ライドンキング(5) (シリウスコミックス)

 

 ダンジョン突入時に3つに分断されてしまったプルチノフ大統領一行。それぞれの戦いが始まります。ライドンキング5巻の感想です。

 

魔霊王(リッチ)改め魔霊大王(エルダーリッチ)戦

 迷宮内の雪原エリアにて、大統領たちの前に現れたのは、王幽鬼(ハーリィ)を引き連れた魔霊大王(エルダーリッチ)でした。しかもこの魔霊大王、2巻で大統領たちに倒された魔霊王(リッチ)と同一人物の様です。

 海底迷宮の心核(コア)によって進化して復活したそうです。外見の変化ですぐにわかるのは、頭に装飾品が追加されている点でしょうか。

 この漫画は元々画力が高いのですが、この魔霊王のデザインは特にセンスと作画技量の高さを感じさせますね。王道でありながらありきたりにならない質の高いデザイン。骨ばったアンデットの質感の表現。そして、躯の体なのにとても表情豊かです。それも、漫画的表現を多用して表情表現をするのではなく、純粋な画力で書き切っています。

 そして、その画力の高さで笑わせに来るのがこの漫画。

 自己陶酔を感じさせる登場時のポーズ、自分を救ってくれた心核に対する感謝を表現する真心のこもったジェスチャー、悪辣な心核のやり口を知っている大統領たちに、騙されていることを指摘されても全く信じずに騙され続ける道化ぶり。クリーチャーデザインの質の高さがあるからこそ、おどろおどろしい外見と、人間臭さを感じさせる中身とのギャップで笑えます。

 さらに、設定的には実力者でありながら、特にそれらしい活躍をする前に、前回同様いいところなしでやられてしまう残念さ。散り際の「まだとっておきの必殺技とか…いろいろ…いろいろあるからぁ!!」というセリフには笑いつつも、どこか哀愁の様なものまでも感じてしまいました。

 この魔霊王、もう一度くらい出てきそうな気がしますね。

 ヨシュアスの風魔法との連携で、魔霊大王を倒した大統領の新技も、相変わらずシリアスな絵面なのにパロディー全開で笑いました。

 構え・技名のパロディー的なネタとしては、ドラゴンなボールを探して冒険する漫画や、ドラゴンなクエストの少年誌での冒険な漫画に登場する必殺技だと思うのですが、弾幕での対空攻撃になっている部分には現代的なミリタリーテイストを感じます。そんなところも大統領らしいです。

 

筋肉ダンジョン、闘鬼王種ピサール戦。ボッチ達の奮戦

 サキと三羽のホッチ達が放り出されたのは、筋肉ダンジョン。筋骨隆々のオーガやホブゴブリンが襲い来る地下迷宮。何かと「タンパク質(プロテイン)!」を連呼しながら襲ってくるオーガたちが面白かったです。

 そして、それを一蹴してゆくボッチ達。相変わらず強いです。みんなで一緒に座禅を組んだりもしていたので、リーダー格のボッチだけではなく、みんなが大統領流の足技に目覚めているのかと思っていたら、ベルのホッチは魔法を使うようになっていました。

 なんとなく、ホッチ達の間で、大統領流の格闘術が広まっていく未来図を楽しみにしていたので少し残念にも感じますが、この法則はこの法則で面白いことになりそうです。

 しかし、筋肉ダンジョンのボスは、そんなホッチ達をも一蹴する強敵、死の谷の闘鬼王種(キングオーガ)・ピサール。なるほど、魔族の「死の谷の牙エドゥ」と同郷の人ですね。

 ピサールは、ボッチとベルのホッチの連携技「炎!火炎鳳凰乱舞!!(えん!カイザーフェニックススプラッシュ!!)」をノーガードで受けても傷ひとつありません。この場面、ボッチの表情が、自分の技を受けて傷ひとつないピサールに驚愕する目が、完全にシリアスなバトル漫画のキャラクターになっていました。

 ボッチ達が普通に強くて、普通にシリアスにやっていたのですっかり忘れていましたが、彼らが元々乗り物兼マスコットキャラクターであることを思い出すと、途端にシリアスがギャグになります。

 画力が高いからこその芸当であり、これまでも散々笑わせられてきたこの漫画の常套手段なのですが、それでも気が付くと普通にシリアスな空気に引き込まれているのですよね。画力が高すぎて。

 それこそバトル漫画風に言うならば、どんな攻撃が来るかわかっていても速すぎて避けられないだとか、重すぎてまともに受けることもできないだとか、もうそういったレベルの技量を感じます。回避も防御も許さないギャグ。馬場先生恐るべし。

 

雷の剣士・サキ覚醒

 ホッチ達が倒され、追い詰められたサキ。剣に仕込まれた雷牙の魔法も通じず、成すすべもありません。

 それも当たり前の話で、サキは漸く中級と認められる辺りの茶帯冒険者

 ボッチは、同じ中級でもより格上の黒帯の冒険者が、パーティーを組んで討伐するような蠍尾獅子(マンティコア)を秒殺できます。そのボッチが手も足も出ない相手がピサールであるわけです。

 ピサールは真っ向勝負型で、付け入ることのできる隙も、わかりやすい弱点もなし。全身に闘気を纏い守りも万全。これでサキが勝てたら、それこそご都合主義です。

 この漫画における闘気とは、魔力によって身体強化された肉体が放つ魔力の波紋(オーラ)。サキは身体強化魔法のない雷属性。雷は現象としての観察が困難であるがゆえに、研究が進まず、身体強化の魔法はまだありません。

 闘気を纏ったピサールの肉体を傷つけられるのは、同じく闘気を纏った刃のみとのことで、闘気を使えないサキにとっては、まさしく絶望的状況。戦意を失うのも当然でしょう。

 ここからサキが覚醒して、逆転勝利を収めるわけです。ファンタジーバトル漫画では定番とも言える覚醒イベントです。

 ただのご都合主義ならばそれこそ興ざめですが、この状況からサキがピサールの首を撥ねるまでの展開をご都合主義にせずに描き切り、その過程で今後への様々な伏線を敷き、身体強化魔法や魔法剣士に関する説明も綺麗に済ませ、戦闘シーンとしても見栄えのあるものとして完成させてしまう馬場先生のセンスには驚愕するばかりです。

 危険を顧みず迷宮の魔道具に介入したベル。ベルの口からきいた師の名前で戦意を取り戻すサキ。自身の体に雷を流し始めたサキにアドバイスを送ろうとする大統領。魔法的交信で大統領の現代知識が伝わり、完成する雷の身体強化魔法。それでもまだ届かないピサールを仕留める師の教え。

 ご都合主義をご都合主義にせずに描き切る構成力と表現力に痺れます。

 以前の人馬合体の時と同じ古風なナレーションや、覚醒したサキの表情もお気に入りのポイントです。

 

プルチノフ大統領VS死の谷の牙・エド

 捕虜になったヨシュアスを追いかけてきた魔族の3人。ダンジョン内で大統領たちに追いつきます。

 大統領と対峙するのは死の谷の牙エドゥ。挨拶代わりに巨大なハンマーを投げ込んで来る力自慢ですが、大統領も飛んできたハンマーをうまく捌き受け流し、投げ返します。これ、大統領がうまくやらなければヨシュアスも死んでいた気がするのですが、気のせいでしょうか。

 彼女はゴルドーの街に攻め入った際も、このハンマーを使っていましたが、巻末のおまけによると、このハンマーはあくまでも「攻城兵器」。どうやらエドゥの本来のスタイルは大統領と同じ徒手空拳のようです。

 今回の戦いは決着がつく前に中断となりましたが、面白そうな予感がします。

 エドゥは単なるパワーファイターではなく、片足立ちの状態で足をとっても転ばせることができず、大統領でも拳の起こりの見えない拳撃を放つなど、何やらファンタジーな格闘技術を使う模様。

 どんどんファンタジーが加速している大統領は、どんなファンタジー、あるいは現代格闘技術で彼女に対抗するのか、再戦がとても楽しみです。

 ちなみに三人の魔族の中では、このエドゥが一番のお気に入りです。かなりいかつい外見をしていますが、表情が凄く生き生きと描かれているのですよね。

 

ハイエルフ・カーニャ

 自分のことを半森人(ハーフエルフ)だと思っていたカーニャが、始祖種(ハイエルフ)であったという事実が、3人の魔族の1人、死泉の魔女・ミィナの口から明かされます。

 ミィナによると、森人は成長に時を要する始祖種の子を守るために下僕として作られた亜種。

 「どんな種とでも子を成せるように作られた森人に純潔種など残っていない。それを忘れ始祖種の子を混血と呼び、蔑むとはつくづく頭が哀れな種族」とはミィナの言ですが、彼女の言葉が正しいのなら、そもそも森人をそういう種族に作り上げたのは始祖種なのではないか、と思ったのは私だけでしょうか。

 カーニャは20話で祖母の存在について語っていました。その祖母とは血のつながりがあったのでしょうか、もしくは、どこかで拾われたのでしょうか。

 隔世遺伝の様に森人から始祖種が生まれるパターンも考えたのですが、どうもミィナの言葉の感じからすると違う様にも思えます。あるいは、隔世遺伝だとしたら、祖母だと思っていた人が実は母親だったというパターンもありうるかもしれません。

 どちらにしても、カーニャは何処から来たのか、どのように生まれたのか、そこにさらなるドラマがありそうです。

 

 

 大物ぶろうとしても全然大物感が出なかった挙句、流れ弾ならぬ流れハンマーであっさり砕かれた迷宮の心核(ダンジョンコア)に笑いました。

 今巻のラストでは、現代のプルジア共和国のその後の様子が描かれていましたが、何やら気になる伏線もありました。

 ダンジョンを脱出した大統領一行。魔族との交渉もまだ途中ですが、サキの過去と実家との問題、魔導院、ハイエルフと古代文明の謎等々、この後の物語も長く続きそうで楽しみです。