コミックコーナーのモニュメント

「感想【ネタバレを含みます】」カテゴリーの記事はネタバレありの感想です。 「漫画紹介」カテゴリーの記事は、ネタバレなし、もしくはネタバレを最小限にした漫画を紹介する形のレビューとなっています。

ゴブリンスレイヤー9巻 感想


ゴブリンスレイヤー 9巻 (デジタル版ビッグガンガンコミックス)

 

 物語は新章へと突入。剣の乙女からある令嬢の捜索依頼を受けたゴブリンスレイヤー。今度の舞台は雪山です。ゴブリンスレイヤー9巻の感想です。

 

女神官と妖精弓手、温泉にて

 道すがらゴブリン達の襲撃から村を救ったゴブリンスレイヤー一行。戦闘の様子は相変わらず細かい所までしっかりと描かれていました。

 そして、村でお風呂を頂くことになった女神官と妖精弓手

 色々な精霊がグチャグチャに混ざっていて気持ち悪いというエルフならではの視点で温泉を毛嫌いしていた妖精弓手が、温泉の心地よさにあっさり負ける様子が面白かわいかったです。前半の嫌そうな顔と、後半の気持ち良さそうな顔どちらもいいです。

 人間とハイエルフの時間の違いについても話していましたが、妖精弓手冒険者になるきっかけになったこの「ある時」というのがどれくらい前かも少し気になりました。

 一握りの伝説や英雄以外の在野の冒険者の一番上は銀等級なので、妖精弓手がずっと前から銀等級だった可能性もありますし、つい最近銀等級になった可能性もあります。まあ、どちらにしても本人の感覚的には「つい最近」なのでしょうが。

 風呂場で女神官が考えるのはゴブリンスレイヤーのことと、全滅した自分の初めての一行のこと。4巻の水の街の神殿でお風呂をいただいた時もそうでしたね。

 今回は妖精弓手も一緒だったので前回ほど暗い雰囲気にはなりませんでしたが。

 考えても考えても答えなんて見つからないのに、それでも考えずにはいられないこともありますね。

 過ぎてしまった過去のこと、どうしたらいいのかわからない未来のこと、自分ではどうすることもできない生まれのこと。

 ままならないことについて考える、結論は出なくとも考えずにはいられないこと。物語が進むわけではなくとも、あるいは進まないからこそ、こういう場面って独特の余韻がありますね。

 

千年後の情景

 ゴブリン達のいる洞窟へ踏み込む前に、岩陰で暖を取る一行。凍傷対策ですが、こういう場面がリアルです。そして、こういう旅の合間のやり取りも、この手のファンタジーの醍醐味です。

 「あなた位階を高めてドラゴンになるのが目的なのよね」と言う妖精弓手に「いかにも」と返しつつ、蜥蜴僧侶はとてもいい顔でチーズを1ホール丸かじりです。※醍醐とチーズでかけたわけではありません。

 チーズ好きなドラゴンという未来図に笑う妖精弓手に、生贄の乙女やらを求めるよりよほどいいだろうと笑顔で返す蜥蜴僧侶。

 そこから竜的には女の子は美味しいのか、それとも儀礼的な意味があるのかという話になり、更には本当に竜になれるものなのかという突っ込んだ話題にもなります。

 「そうだ!あなたが竜になって不死(イモータル)になったら、私遊びに行ったげるわ。どうせ千年後くらいでしょ」と妖精弓手が言いますが、ハイエルフである彼女には1000年後というのはリアルな時間の話なのですよね。

 上にも書いた温泉の場面もそうでしたが、ファンタジー作品におけるこのような種族ごとの文化や、時間感覚等の違いを感じさせるやり取りは好きです。

 違う文化のすり合わせがすんなり和やかに済んでいるのも気持ちがいいですね。妖精弓手コミュ力の高さ、蜥蜴神官の人徳を感じさせる場面でもあります。

 

妖精弓手の災難

 ゴブリン達への奇襲は成功したものの、妖精弓手が矢を受け負傷。しかもその矢はゴブリンスレイヤーが村での戦闘で使った矢を引き抜くと鏃が体内に残る工夫をした矢でした。

 治療の奇跡を使っても鏃は体内に残ってしまうということで、外科的処置で鏃を取り除くことに。

 消毒のために熱した刃物で傷口を抉り、異物を取り除くという中々にハードな場面ですが、この場面での妖精弓手の反応が面白かわいかったです。

 いえ、本人視点では本当に災難で、痛々しい場面ではあります。それは間違いありません。

 しかし、淡々と処置を進めようとするゴブリンスレイヤーと、処置をしないと脚が腐り落ちると脅す鉱人道士。少しお道化た感じでそれに追従する蜥蜴神官。そんな周囲に怯え、慌てて、それでも他に方法がないと諦める彼女の様子がコミカルに描かれていたのが悪いのです。

 直前にそういう空気だったせいか、その後の本当にシャレにならない傷口を抉った瞬間の涙目の1コマまでも何処か可愛く見えてしまいました。

 いえ、別に私にそういった嗜好があるわけではないのですが、ないはずなのですが。

 

令嬢剣士と覚知神のシンボル

 洞窟の奥、何やら祭壇のような場所で発見された令嬢剣士。

 生きてはいますが、無事か無事でないかで言えば、確実に無事でない方ですね。

 祭壇の上に全裸で放置され、首には何やら宗教シンボルの様な焼き印を押されていました。

 女神官によると、「緑の月」と呼ばれる覚知神の御印とのことです。

 覚知神というのは「外なる知恵の神」らしいです。

 一般に信仰される知識神は「真実へとたどり着くまでの苦難もまた貴重な知識」として、知識そのものを授けるのではなく、「知識へと導く神」であるのに対し、覚知神というのは、求めるものに無差別に知恵を授ける神であるとのこと。

 例えば「世界が滅びたりしないかな」とふと思ってしまった人が覚知神に目を付けられると、具体的に世界を滅ぼすべき外法が閃いて行動を始めてしまうということらしいです。

 イメージの中に出てきた「覚知神に魅入られた元普通の人」がゴブリンと同じ目をしていたのが印象的でした。

 ゴブリンと言えば、覚知神のシンボルである緑の月は、この世界の夜空に実際に浮かんでいるもので、ゴブリンも元々はそこから来たものであるという話が2巻の第6話で語られていました。

 水の都の冒険で出てきた転移(ゲート)の鏡がつながっていた先も、この緑の月であったのかもしれません。

 何れにしても、ゴブリンとは縁のある神様であるので、今後の物語にも深くかかわってくる予感がします。

 令嬢剣士がゴブリンに囚われた経緯はまだ全てが描かれたわけではありませんが、恐らく他の仲間は全滅していると思われます。

 回想では、過酷な長期の作戦でどんどん人間関係がギクシャクしていき、作戦立案者の令嬢剣士は針の筵でした。

 信頼のおける仲間だと思っていた相手と散々ギスギスした上で、そのまま死に別れるはめになったのだとしたら、あまりにも不憫すぎます。

 

 

 村での戦闘の後、ゴブリンに襲われていた所を救出した村娘・妹が、村娘・姉と再会するのを見たゴブリンスレイヤー

 兜の面貌のせいで表情がわかりませんが、同じような状況で自分の姉に救われ、そして姉を失った彼にはいろいろと思う所があるのでしょう。ゴブリンスレイヤー専門家の女神官によると「嬉しそうですね」とのことでしたが。

 ぐらぐらの鏃の細工を最初に見た時に「ホント仕方ないんだから」と言っていた妖精弓手。こちらはまだまだゴブリンスレイヤーに対する理解が足りないなと思ってしまいました。彼に限って、整備不良などありえないことなので。

 剣の乙女からの令嬢剣士捜索依頼は達成しましたが、ゴブリンスレイヤーがゴブリンを放置するはずもないので、ここからが本番です。