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ゴブリンスレイヤー11巻 感想


ゴブリンスレイヤー 11巻 (デジタル版ビッグガンガンコミックス)

 

 雪山での戦いもクライマックス。ゴブリンスレイヤー11巻の感想です。

 

小鬼聖騎士(ゴブリンパラディン)との決着

 ゴブリン達の砦から脱出したゴブリンスレイヤー一行。

 小鬼聖騎士の「狂奔(ルナティック)」によって死を恐れぬ兵となり追撃を仕掛けてくるゴブリン達の数を減らしながら、雪山を移動します。

 本来は仲間の死を嘲笑い、自分だけは死なないつもりで立ち回るゴブリン達が、自ら進んで肉の盾となり、小鬼聖騎士を庇っています。

 この辺りの描写から「狂奔(ルナティック)」は単純に狂暴化させる奇跡というよりも、洗脳魔法に近い印象を受けました。奇跡使用時の吹き出しに覚知神の紋章が重なっている演出がお洒落です。

 戦いの最中、ゴブリンスレイヤーと小鬼聖騎士との一騎打ちとなりますが、思いのほかあっさり決着がつきましたね。小鬼聖騎士がどのように恐ろしい相手であったのかはもっと後で判明しますが。

 残ったゴブリンは令嬢剣士の「稲妻(ライトニング)」で雪崩を起こして一掃。まあ、雪山でのバトル展開で、相手が大群となれば、定番中の定番ですよね。でも一味違います。

 ゴブリンスレイヤーの雪崩戦法の何が一味違うかというと、自分が雪崩から生還するための備えとして「呼気(ブリージング)」の魔法の効果が封じ込められている指輪を使っている点です。

 本来、水中で呼吸するための代物を雪に埋もれて窒息しないために使います。

 おまけにこの指輪、前の巻で登場した際は、寒さを和らげる効果もある事に着目して防寒グッズ扱いになっていたのですよね。

 さらに、ゴブリンスレイヤーはゴブリンの巣を水攻めにするために「転移(ゲート)」のスクロールを持ち歩いているくらいなので、水中呼吸のための指輪を持ち歩いていても不自然ではなく、その点にも作中でしっかり言及されているという徹底的で、巧妙な伏線の張り具合。

 読者の想像を超える戦法で盛り上げ、戦法自体が想像されそうな時は別の部分で度肝を抜いてくる流石の蝸牛くも先生です。

 

令嬢剣士と取り戻されたもの。隠喩の演出が凄い。

 ゴブリンスレイヤーによって、令嬢剣士の元に戻った軽銀の剣。

 なるほど、なぜ最初から雪崩を使わず、一騎打ちをしていたのかと思ったら、剣を取り戻すためでしたか。たしかに前の巻で「お前の剣は取り戻す」と約束していました。

 雪崩前に小鬼聖騎士から取り返した剣だけでなく、小鬼聖騎士の死体と一緒に流された鞘まで回収してくるゴブリンスレイヤー。優しいですね。

 剣を抱きしめ涙を流す令嬢剣士に降り注ぐ夜明けの逆光演出が美しいです。

 彼女がこの剣にこだわる描写は前の巻から所々にありましたが、その割にこの剣の背景に纏わる描写がろくにないのですよね。何故大切なのか、何故こだわるのか。その部分です。

 いえ、ゴブリンスレイヤーの盾とか鎧とかもスパスパ切れていたので、業物なのでしょうが、背景の部分がろくに語られなかった辺りは意図的なものでしょうか。

 剣そのものが重要なのではなく、剣を取り返すことに意味があるのではないかと。

 涙を流す令嬢剣士に差す夜明けの光といい、取り戻した剣といい、ただの絵として美しいだけの場面ではなく、隠喩を感じます。

 敢えて言葉にするのならば剣は「誇り」でしょうか。尊厳とか希望とかも含めたより広い意味での誇りです。剣を取り戻したことに加え、夜明けの光も「夜明け」であることや「光が差す」と隠喩を重ねて強調している気がします。素晴らしい演出です。

 ただの冒険者であれば、小鬼聖騎士を倒し、令嬢剣士の身柄を救出して終わりでしょう。

 ゴブリンに奪われたものが何であったのかを知るゴブリンスレイヤーだからこそ、彼女を本当に救うことができたと、そういう場面なのだと思います。

 

ゴブリンスレイヤーの年越し

 新年祝いで盛り上がる冒険者ギルド。賑やかそうな酔っ払いの喧騒の中にしんみりした弔いの描写もあるのがいいですね。

 そして、そんな宴の席に姿の見えないゴブリンスレイヤー。彼は何処へ行ったのかという疑問の声を受けた牛飼娘と、受付嬢の反応が面白かったです。

 言葉に困って事情を知っているお互いを見つめて「あー…」と「んー」。フェアプレー精神に則った2人によって、女神官はお使いを申し付けられます。

 この2人の謎の距離感。本編だと今の所この2人の絡みはあまりないのですが、お互いのことをある程度知っている様子。イヤーワンの方で今後どういう経緯で今の関係になったのかが描写されそうですね。期待しています。

 女神官が向かった先はゴブリンスレイヤーの野営地。年明けのお祝いで街が浮かれている隙をゴブリンに突かれないように、郊外で監視中の彼への差し入れでした。

 「何をやってるんですかあなた」、「見張りだ」、「……もしかして毎年やってるんですか?」、「馬鹿なことを聞くな。新年は毎年来る」このやり取りはお気に入りです。会話のリズムも、内容も、とてもこの2人らしいです。

 牛飼娘や、受付嬢が、この新年の過ごし方を初めて知った時の様子も見て見たいですね。こちらもイヤーワンでやらないものでしょうか。

 そして、ゴブリンの脅威について認識が甘い女神官へ、ゴブリンスレイヤーの口から語られた驚愕の真相。※ゴブリンに対する認識については人によります。

 小鬼の王や、水の都の時の小鬼英雄に比べて、小鬼聖騎士が随分あっさりやられたなと思っていたら、全てが終わった後になってゴブリンスレイヤーの口からその恐ろしさが判明するという予想外のパターンにびっくりしました。

 

新人の季節とゴブリンスレイタイムアタック 

 季節は巡り、再び多くの新人冒険者がギルドを訪れる季節。新人冒険者向けの訓練場も開設されるとあって、大盛況の冒険者ギルド。

 その異様な風体やら、「ゴブリンスレイヤー」という事情を知らない人には理解しがたい異名やらで、新人冒険者の大部分にひそひそ話をされるゴブリンスレイヤー。一部尊敬のまなざしもありましたが。

 相変わらず数の多いゴブリン退治の依頼をまとめて引き受け、受付嬢と相談し、新人が受託済みの分も込みで回るスケジュールを立てます。1巻で女神官を救出した時もこんなやり取りがあったのでしょうね。

 無謀にもゴブリン退治の依頼を受けた新人達とは、つまりゴブリンを侮っている新人達であり、ひいてはゴブリンスレイヤーのことを馬鹿にしていた様な新人達が重点的にゴブリンスレイヤーに助けられる構図が成立することに気付き、もやもやしました。まあ、本人は周囲の雑音など一切気にしていないのですが。

 そして始まるゴブリン案件10カ所連続強行軍タイムアタック。いえタイムアタックではないのですが、タイムアタックでないにしても何かのチャレンジ企画みたいなものですよね。数がおかしいですし。

 ある大きなゴブリンの巣では、緊急避難の言葉の元に、禁じ手になっていた水攻めが決行されました。移動の時間短縮も兼ねていますねこれは。

 鉱人道士の「隧道(トンネル)」で掘ったルートを通り、水柱と共に空高く打ち上げられる一行。絶叫マシンとバンジージャンプを同時にやっている感じですかね。

 ゴブリンの巣穴から勢いよく打ち上げられる一行の様子と、女神官と妖精弓手のリアクションに笑いました。

 水攻めのために、パーティーメンバーの分に加えて、ゴブリンの巣から救出した女性の分まで含めて大量の「呼気(ブリージング)」の指輪を持ち歩いているのは、改めて考えると中々面白い図のような気もします。

 何人も救出することもありますし、いったい彼は何個の呼気の指輪を常備しているのでしょうか。

 

夜のギルドで寝起きドッキリ

 強行軍でのゴブリン退治終了後、1人ギルドに立ち寄ったゴブリンスレイヤー

 人のいないはずのギルドのロビーで生き物の気配を感じ、「ゴブリンか」と剣を抜き、気配の正体を確認します。

 この時「ゴブリンか?」ではなく、「ゴブリンか」である部分にゴブリンスレイヤーの「らしさ」を感じました。突飛な行動であっても、同じ様な奇行のくり返しには慣れていくもので、久々に新鮮さを感じる「らしさ」でした。

 ロビーで寝ていた新人冒険者の少年が目を覚ますと、抜身の剣を構えて自分をのぞき込む鉄仮面が。絶叫する少年。私も笑いました。

 少年の絶叫で目を覚ました受付嬢。説得力皆無の「寝てませんよ。寝てませんからね」がかわいかったです。

 報告を始めたゴブリンスレイヤーが「ゴブリンスレイヤー」であることに気が付き、自分にゴブリンの殺し方を教えろと言う少年ですが、即答で断られてしまいます。

 彼は「ゴブリンを退治したい。それ以外はしたくない」らしく、新人冒険者として登録したばかりで、一党に所属せず、単独で依頼を受けようとしていたとのことで、受付嬢も困り顔。

 事情を聞いたゴブリンスレイヤーの「馬鹿げている」の一言に何とも言えない表情を返すのも面白かったです。

 彼の言っていることは正論ですが、本人が同じことをやらかしていますからね。突っ込むに突っ込めない感じが何とも言えない可笑しさでした。

 受付嬢が困り顔で「どうしましょうかゴブリンスレイヤーさん」と言っていましたが、何に困っていたかと言えば、ほっとくとこの少年が確実に死ぬからですよね。

 と言うよりも、ゴブリンスレイヤーがゴブリン退治の依頼を全部持って行ったりしていなければ既に死んでいたのでしょう。

 

 

 この無作法な新人冒険者の少年はこの後も会う相手会う相手にやらかします。

 ゴブリンに固執する辺りに何らかの事情があるのは間違いなさそうですが、単に若さゆえの向こう見ずな態度というには歪んでいる気もしますね。

 この作品の人物描写は信頼できるので、今後その辺りの事情がしっかり描写されるのは間違いないでしょうが。

 人物描写と言えば、新人冒険者の少年にゴブリンスレイヤーの嫁さんかと聞かれ、こともなげに「そうだよ?」と返す牛飼娘。イヤーワンも並行して読んでいると、イヤーワンの「あの彼女」の何がどうなって今の彼女になったのかが、気になって仕方がありません。