コミックコーナーのモニュメント

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虚構推理15巻 感想


虚構推理(15) (月刊少年マガジンコミックス)

 ついに琴子たちの前に姿を現した六花さん。キリンの亡霊による殺人事件は、関係者達の思惑が絡み合い何やら怪しい雲行きへ。虚構推理15巻の感想です。

 

六花さんVSキリンの亡霊

 今回の事件、九郎が山の中でキリンの亡霊と戦うかもしれないという話でしたが、事件当夜、六花さんが本当に戦っていました。

 キリンを相手にどことなく武道らしき構えをとる六花さん。単純に急所を防御するという感じではありません。武道の心得があるという話も聞いていません。

 取調室で食べていたカツ丼も自前だったという話でしたし、六花さんは意外と形から入るタイプなのかもしれません。

 真面目な雰囲気であればこそ、意外と剽軽な六花さんが笑いを誘います。

 そして、見開きで繰り出されるキリンのネッキング攻撃。※長い首を振り回して叩きつける攻撃。

 迫力のある構図ですし、絵面自体には笑いどころは皆無ですが、やはり、状況やら構えやらの流れがシュールすぎて、ギャグにしか思えません。

 前の巻でのキリンの登場シーンといい、今回のこの戦闘シーンといい、今巻あとがきでの矢鱈と熱のこもったキリンの解説といい、何故この漫画の原作者様はこうまでキリン推しなのでしょうか。笑いました。

 

事件のあらましと、ミステリアスすぎる六花さん

 夜の山でキリンの亡霊の襲撃にあった3人の男性が死亡し、一命をとりとめた丘町冬司は六花さんによって救助されました。

 尚、彼は事件当時のことは記憶喪失を装い、六花さんの不死身体質についても秘密を守り、お互いのことを詮索しないという取り決めを彼女としています。

 琴子としては、キリンの亡霊の噂が広まって、鋼人七瀬事件の二の舞にならぬ様に対策を講じなければなりません。合理的な虚構によって真相を有耶無耶にして、世間の関心を集めない様にしたい模様。※琴子としてはキリンの亡霊は被害者で退治するのは道理に反するとのこと。

 ところが、事件当夜、山では丘町冬司による3人の殺人計画が進行中であった上に、彼は自身の計画の邪魔になりそうな六花さんまで事前に殺していました。

 まあ、六花さんは不死身なわけですが。

 さらに後日、被害者の1人である長塚彰の荷物から、自分が他の3人を殺害したという手記が発見されます。

 どうやら、丘町冬司はただ3人を殺害できれば良かったわけではなく、事件を自分の望んだ構図に落とし込もうと今なお考えている様です。

 この時点でも十分にややこしいのですが、何がややこしいかって、六花さんの存在ですよね。立ち位置的にも、性格的にも、本当にどう動くのか読めません。

 今回の六花さんを見ていて改めて思いましたが、「有能で、多少エキセントリックで、ミステリアスなキャラクター」というのはとことんミステリー向きですね。

 探偵役にも、犯人役にも向いていますし、ただ意味深長なことを言いながら立っているだけでも事件をややこしくできます。

 六花さんの場合「件の未来決定能力」等というミステリーを形作る上で、この上なく便利な舞台装置まで持っていますし、自分を殺した犯人をわざわざ救助して下山するというのも六花さんならではですね。

 以前、未来を見るではなく、未来を決定するという件の能力の解釈についても感動を覚えたものですが、六花さんは性格やら何やらキャラクターを構成する全てがミステリー向きですね。

 

現状での推理

 まだ「丘町冬司の望んだ構図」がはっきりしておらず、そのため合理的な虚構による解決案も組み上げることが困難ですが、現状可能な範囲で自分なりの推理をしてみました。

 

謎その① 六花さんが殺された理由と状況の不自然さ

 事件当夜、丘町冬司は六花さんを殺害しているわけですが、この時の状況も不自然です。

 丘町冬司を含む4人は崖の上にテントを張り、六花さんは崖の下を寝所にしていました。

 崖の上に行くには少しばかり回り込んだルートを通らねばならず、登るにしても降りるにしても、手間取る位置関係であるという事が警察署での会話で明言されています。

 42話の独白からするに、丘町冬司は「秘かに崖下まで降りて」六花さんを殺害し、「何事もなかったかのように」他の3人のいるキャンプ地へと戻っています。

 わざわざ昇り降りに手間取ることが明示されているにも拘らず、この話の流れは不自然に思えました。

 崖を昇り降りするのに便利な秘密のルートがあったのかもしれませんし、なかったとしても、丘町冬司はこの山の地理関係について、少なくとも事件が起きた辺りについて、相当詳しかったことが窺えます。

 何故詳しかったのかと言えば、事前に調査をしていたからでしょう。

 キリンの亡霊が山に出るようになったのは、土砂崩れで社が壊れた最近になってからです。仮に土砂崩れ後に調査に来たとしても、キリンの亡霊が出るのは真夜中とのことなので、昼間の調査ならば遭遇しなかったはずです。

 丘町冬司はキリンの亡霊に襲われた近辺での犯行計画を立てており、六花さんがいた場所はその計画に重要な意味があったから殺されたのでしょう。

 前の巻でキリンの亡霊に追い詰められて丘町冬司が崖から落ちる際も、「そうだこの先は」と意味深長な独白をしていたのですよね。

 「そうだこの先は」の後に続くのは六花さんを殺した場所であったという事も考えられなくはありませんが、続く言葉が「___やっぱりキリンの祟りは本当だったんだ」だったことを考えるともっと違う意味があるのだと思います。

 

謎その② その場所に何があったのか。そして瓶と手記

 4人は過去に事故死した大和田柊という女性への追悼として、彼女が生前探していた「キリンの社」を見つけるために山へ入りました。

 ここでポイントなのがキリンの社が土砂崩れにあって壊れたという話です。土砂崩れで下へ崩れて落ちたにしろ、上から落ちてきた土砂によって壊れたにしろ、「崖の下」という場所は土砂崩れという言葉とつながります。

 丘町冬司は事前の調査で既にキリンの社のあった場所を見つけていたのでしょう。

そして、その場所は彼の望んだ構図とやらを成立させるために必要だったのではないでしょうか。

 六花さんはまさに、キリンの社があった場所のすぐ近くを寝床にしていたために、殺されたのだと思います。

 この説を補強する材料が、「長塚彰の荷物から発見された瓶に入った手記(遺書)」です。

 九郎は、沢に瓶を流す予定だったら長塚彰の荷物に瓶を入れないだろうと言っていましたが、長塚彰の荷物に瓶を入れたのは、キリンの亡霊に襲われて当初の計画が破綻した後なのではないでしょうか。

 六花さんが寝床にしていたと思われる場所で、丘町冬司を介抱する場面がありますが、2人のすぐ傍に、これまた瓶を流すのに丁度よさそうな沢があります。

 九郎は、沢に瓶を流す方法は運まかせだとも言っていましたが、何も本当に沢に流す必要はありません。

 沢から流すつもりだったと思わせる様な状態で現場にて発見されてもいいですし、流れて行ったことにして、誰かに回収されやすそうなポイントに瓶を設置して、実際に回収されるのを見届けてもいいわけです。

 この辺りは丘町冬司本人が自分の計画が成就した後に、生きて山を下りるつもりだったのかにもよりますが、想像の余地はいくらでもあります。

 重傷を負った丘町冬司は、事件後に崖の上のキャンプ地の荷物へ瓶を入れることはできません。

 では、誰が入れたのかと言えば、山には他に六花さんしかいなかったわけです。

 自分を殺した人間を介抱して、山から救助してあげるくらいですから、何も聞かずに、キャンプ地の荷物に瓶を入れてきてくれるぐらいのことはしてくれそうです。

 「私は今回嘘をついたりはしていない」と六花さんが言っていましたが、相手が琴子なら「嘘は言っていない。本当のことを言わなかっただけ」くらいのことはしれっと言いそうです。

 

丘町冬司の犯行動機に関する疑問。それについての想像と妄想

 丘町冬司の目的ははっきりとは語られていませんが、彼は本来事件とは無関係の六花さんを殺害しています。

 よっぽどの動機がなければ、こんなことはできないと思います。六花さんに言わせると、彼は悪人ではなさそうとのことでした。

 彼と死んだ3人が過去に大和田柊という女性に惹かれ、キリンの祟りを恐れた結果、見殺しにしてしまったことへの葛藤も語られました。そのことで自分以外の3人を恨まずにはいられなかったとも。

 嘘を言っている感じではありません。

 ただ、彼の目的、もしくは目的の一部が、3人への復讐だとしたら、まだ動機が弱い気がします。まだ伏せられている事情がありそうです。

 六花さんに肩を借りて下山する場面の意味深長な独白からも、もっと救いようのない何かを感じます。

 琴子は大和田柊がキリンの祟りから逃れるために、4人を人身御供にしようとしていたのではないかという邪悪な発想をしていましたが、このようなドロドロした何かがある気がしました。

 4人は大和田柊に惹かれていながらも、身の回りに不幸が起こり続けるにつれ、キリンの祟りを気に欠けるようになったという話でした。

 しかし、「祟りが確実とわかればすぐ離れたかもしれません」けれど「他の三人が柊と仲良くやっているのを遠くから見るなんて未来も怖かった」という心境だったそうです。

 琴子はキリンの祟りの存在を否定していました。偶然不幸が続いただけだと。

 キリンは関係ないとしても、これ、本当に偶然でしょうか。

 例えば、恋敵に身を引かせるために、キリンの祟りをでっちあげていたらどうですかね。

 キリンの祟りの例として、倒れた棚の下敷きになった際に、釘の刺さった板に手をついてしまい怪我をした回想がありました。

 この場合、棚が倒れやすいように細工をしたり、釘の刺さった板を仕込んでおいたりといった不吉な偶然を装った仕込みがされていたとしたら。

 そういうドロドロの悪意の結果として、祟りを恐れ、それが大和田柊を見殺しにする結果につながったのだとしたら。

 それを後から知ったとしたら、犯行の動機にならないでしょうか。

 これでもまだ弱い気がしますが、ただの逆恨みよりは動機になりそうな気がします。

 3人を恨んでいたのだとしたら、死んだ3人が悪意のある工作合戦をしていて、後からそのことを知った丘町冬司が許せなくなったという説はどうでしょう。

 これは可能性の話で、明確な証拠や伏線があったわけではありませんが、一度そう思うと、怪我をした後のやり取り等、怪しく見えてくるのですよね。

 

 

 丘町冬司は「俺たちのことは眼中にもなかった。だから柊は綺麗だった」という意味深長な独白もしていました。

 事故死した時に、彼女が誰ともくっつかないまま死んだことに安堵してしまって、自分で自分が許せなくなってしまったということ等もありそうな気がします。

 所々が意味深長で、それでいてそれが何を指すのかを悟らせないこの漫画の巧妙な演出に、想像力と妄想力を掻き立てられました。

 ポジションとしては犯人役である丘町冬司が霊感に目覚めるという展開にも期待が膨らみます。

 幽霊や妖怪が見える様になった所で、琴子が小細工をしづらくなる位の影響しかないと思われますが、物語の展開として考えるならば、それだけというはずもないでしょう。