瘴気があふれ出した死の谷にて、プルチノフ大統領VS闘鬼竜エドゥの戦いのゴングが鳴ります。ライドンキング7巻の感想です。
プルチノフ大統領VS闘鬼竜(オーガドラゴン)エドゥ
龍穴(ドラゴンホール)を封じていた先代の闘鬼竜の死により、死の谷に瘴気があふれ出し、次代の闘鬼竜へと変じたエドゥも暴れだします。
これを鎮めるため、そして再戦の約束を果たすため、その眼前に立ち塞がるプルチノフ大統領。
古代牛頭人(エンシェントミノタウロス)戦以上の体格差にも拘らず、武道の様な構えをとるエドゥに、正面から応戦します。
一度見ただけの大統領の魔光線(ビーム)に完全対処するエドゥのセンス、圧倒的な体格差の闘鬼竜にドラゴンスクリューをかける大統領、それを自ら回転して返す闘鬼竜と、息をのむ迫力のある戦闘シーンですが、なんだか、戦闘そのものよりも、それを描く漫画としての迫力と表現力に驚いてしまいました。
いえ、だって、体格差が凄いですし、闘鬼竜になったエドゥは骨格からして人型でもないのに、漫画のアクションシーンの表現として、格闘戦が成立しちゃっているのですもの。
それも大雑把に殴り飛ばすとかではなく、巻き投げに、それに対するカウンター。ただでさえ闘鬼竜の身体の表面は甲殻がゴチャゴチャしていて動かし辛そうなデザインなのに、何気にしっかり動けるようにデザインされていますし、動かせる動かせないは別としても描くのが大変なのには違いないゴチャゴチャさにも拘らずしっかり描き込まれていますし。
さらに、大統領を鷲摑みにしたまま、洞窟の天井を突き破って飛翔する闘鬼竜の場面。弾け飛ぶ岩壁の描写には、子供の頃に見た特撮の怪獣登場場面が脳をよぎりました。静止画であるにも拘らず。
自分ごと溶岩に突っ込まれても平然と溶岩の上を歩き、更にびっくりの新技を披露する大統領。おまけに決め技が見開きでの格闘ゲームのパロディーと、相変わらず突っ込みどころが満載。
にも拘らず、一番突っ込みたくなった点がこの漫画の画力と表現力であった事実こそが、私としては最大の突っ込み所でした。
インフレと仙人
龍穴からあふれ出る瘴気を止めるため、自らの身体に龍穴そのものを取り込むプルチノフ大統領。
「一つは宿していることすら自覚がなかったのだ。それが2つになろうと大差はあるまい」とのことでしたが、龍穴は大地を流れる別次元のエネルギーである龍脈と外界をつなぐ穴です。
それを2つ以上自分の身体に収めるというのはなんだか抽象的な話です。
1つの龍脈で大地から無尽蔵の魔力を引き出せるというならまだ想像しやすいのですが、穴が2つになったからといって単純なパワーアップとみなしてよいのでしょうか。近くに穴が2つあったら噴き出す勢いはその分弱くなるので、出力はそんなに変わらないのではと普通なら思ってしまいそうです。大地の魔力の流れというと平面的なイメージです。
しかしながら、さりげなく「私の宿す龍穴とは違う流れを感じる」と説明しています。流れが立体的なものなのか、それとも魔力の流れる次元自体が違うのかは分かりませんが、上記したような平面的なイメージではないことは伝わりました。
プルチノフ大統領がどのように2つ目の龍穴を自らの体内に取り込んだのかをイメージできるように、彼が感じている龍脈の流れのイメージを視覚的に迫力満点で見せてくれるところも含めて面白く、わかりやすかったです。この漫画は相変わらず細かい部分での読者への配慮が行き届いていますね。
それはそれとして、自らの中にある7つのチャクラの内の2つに、龍穴を収めた大統領。シリアスなシーンですが、第一のチャクラに龍穴を治めた部分で股間が発光しているように見えて笑ってしまいました。
いえ、私は悪くないはずです。馬場先生の故意犯に違いありません。
バトル漫画の主人公にして武道の達人のプルチノフ大統領。バトル漫画の主人公としてもインフレが止まりませんが、もう武道の達人を通り越して仙人みたいになってきました。エドゥ戦でも溶岩のエネルギーで殴ったりしていましたし。
瘴気を吐き出す龍穴を取り込んだ悪影響も出ていましたが、新たなパワーアップのフラグにしか思えませんでした。
エドゥの過去
プルチノフ大統領によって、瘴気による危機から脱した死の谷。
しかし、既に闘気竜になったエドゥは龍脈の力がなくては死んでしまうということで、急遽、ベルの魔法による新しい肉体の成型と記憶の定着が行われます。
生死のかかった場面での走馬燈という形でエドゥの過去が語られますが、中々に壮絶な記憶です。
傭兵団の団長の娘として育つも、戦場に雌鬼が立つなと差別され、ただ一人の友達だった四つ耳族のリリィはエドゥの父親の癇癪で殺されてしまう。しかもそのきっかけはエドゥが彼女に歌ってほしいと願った唄の練習。
自ら父親を殺した後、「歌う戦鬼の傭兵団」を率いて各地を転戦。
最後は味方に騙され罠に掛かり傭兵団は全滅。自分たちを罠にかけた部隊と刺し違える形で死にかけていた所で、既に聖戦士(=魔族)になっていたミィナに出会い、聖戦士となって生き延びると。いえ、この場合は一度死んでいると考えるべきでしょうか。
この場面、リリィの母親が罠にかけた側にいるのですよね。殺された娘の復讐のつもりだったのか、元々打算的な人物であった様なのでエドゥの知り合いである立場を利用して罠にかけただけだったのか。断片的な回想なので想像するしかありませんが、そこが気になりました。
ジェラリエの時も思いましたが、テンポよくサクサクと進む分、メインのストーリーとは関係のない部分では気になる所が残ることもあります。
この漫画は読んでいて驚くぐらい漫画としての構成・ストーリーのテンポ調整がされていて無駄がありません。テンポを重視するか掘り下げるかがトレードオフになってしまう場合もあるのでしょう。
いえ、大統領の前に敵として立ち塞がり、最後は魔族から民を守って果てたジェラリエの心情はともかく、脇役のおばさんの犯行動機が気になって仕方がないのは私ぐらいなのかもしれませんが。
大統領オヤジになる。
ベルが降霊(ダウンロード)した魔法の仕様で大分サイズダウンして復活したエドゥ。
人間基準では十分に筋骨隆々ですが、オーガ達からは「ガリガリ」だの「モヤシ」だのという言葉が出るくらいには細くなっています。身長もプルチノフ大統領より低くなっています。
大統領の宿した龍穴から生まれたある意味で「娘」と言える身体であると聞き、「これからはあんたをオヤジ…って呼んでもいいかい?」とわずかに恥じらいながら言う姿や、その後の「へへ…」と笑った笑顔も凄くかわいかったですね。
どちらかと言えば、小さくなったというよりは、若返って幼くなったという印象を受けました。
肉体に引っ張られているのか、はたまた、竜柱・鬼柱になるという使命から解き放たれたからなのか、それとも、自分が竜になっても勝てなかった大統領に父性を感じたからなのか、性格も変わっている気がします。
大統領の技を真似て、巨大な闘気の腕を出していましたが、その腕のデザインが闘気竜の腕だったことにもわくわくしています。
これ、絶対全身バージョンありますよね。漫画の絵面としても絶対かっこいいことになりそうですし、この漫画の場合、どんなパロディーが飛び出すのかも今から楽しみです。
「巨大化変身」、「オーラを纏って巨大になって見える」、「ドラゴンなオーラ」「大怪獣空中決戦」他にも他にも。どう解釈するか、どう使うかによってかなり広い幅でパロディーが繰り出せそうです。
リィナとヨシュアス
聖王国の首都にて、リィナとヨシュアスに合流した大統領一行。
ひと悶着あったものの、本格的なバトル展開にはならず、エドゥとの再戦時とは違った方向で予想外の展開でした。
直前の大統領のピンチと、元々の表情が乏しいせいで、ともすればシリアスシーンに見えてしまうものの、よく見れば普段着で食べかけの串焼きを片手に登場したリィナ。
普段着と串焼きまでなら直前のシーンもあってギリギリシリアス。しかし、口元の食べかすに気付くと笑ってしまいました。
この漫画は相変わらずシリアスにコミカルを混入するのがうまいといいますか、最初からシリアスとコミカルの混沌といいますか、まあ、とにかく面白いのは間違いありません。
成長したヨシュアスに押し切られて、なし崩しに大統領たちと会談することになります。一応この場面、副領主のダイアさんにもお願いされているのですが、ヨシュアスに押し切られるリィナの困惑ぶりと残念さが最高でした。
特に、心当たりのない約束の履行を求められた1コマの微妙な表情。
表情変化の乏しい無表情顔に、わずかに滲み出る混乱と困惑を巧みに描き分ける技術力に痺れます。
子供達に好かれる副領主のダイアさんですが、裏の顔がある事は確定。しかし、根っからの悪人であるかはまだわからず。
聖王国のほとんどは種族・部族ごとの自給自足とのことでしたが、その一方で、聖王都(魔族領の王都)の役人は殆どが外部から流れてきた只人であるという事でした。
領空侵犯した相手に煽てられただけで客人扱いする近衛のグリフォンたちをはじめとした聖王国の国民性など、普通だったらギャグでしかないはずの部分さえも、ただのギャグではなく伏線も兼ねているのではという予感がします。しっかりと物語の整合性も取ってくるのがこの漫画の凄い所なので。
カーヴィンオリジナルが登場して、ますます悪の秘密結社感が強まる魔導院ですが、1つ気になったのは、オリジナルの「北辺に送ったワシの魔造人形(ホムンクルス)からの連絡も絶たれておる…」というセリフ。大統領に倒されたもの以外にも、魔族と接触したカーヴィンもいたはずなのですが、連絡していないのでしょうか。同じ顔ばかりの魔導院・黒の塔も一枚岩ではないのでしょうか。