コミックコーナーのモニュメント

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魔女の下僕と魔王のツノ15巻 感想


魔女の下僕と魔王のツノ 15巻 (デジタル版ガンガンコミックス)

 

 ビビアンを呪った張本人・レジーナがついに登場。さらにビビアンを助けるための薬の存在もレジーナにバレて事態は急展開に。魔女の下僕と魔王のツノ15巻の感想です。

 

エリックと如意宝珠

 レイは本当は女性として生まれるはずであったのに、「呪い」によって男性として生まれたという衝撃の事実。

 真相は幼少のエリックが父から受け取った東のドラゴンの持つ伝説の宝石・「如意宝珠」に「弟が欲しい」と願ったというものでした。

 エリック犯人説は、エリックの普段の言動と、彼もしくは彼女が魔女になった時期がレイの出生より後だったことから、ありえないと思っていたので衝撃的でした。

 まさか無意識とは。まさか魔女になるより前に別口のびっくりアイテムが使われていたとは。

 68話でこの如意宝珠の話をしていて、「レイが生まれる前に壊れてしまったんだ」としっかり伏線が張られていたのですが、その次のページのエリックの「アレは恐らく…ドラゴンの尿路結石もしくは胆石などの体内結石」という話をまんまと信じてしまいました。

 バラを背景に背負い、理知的な美形オーラ全開で子供の夢を粉砕するエリックにすっかり騙されました。もち先生、伏線の張り方が巧妙です。

 エリックが如意宝珠にお願いしていた内容と、レイの性格を比べると、彼女はこれでもかというぐらいにエリックのお呪いの影響を受けている気がしますね。まあ、性別まで変わっていたぐらいですし。

 今回はその時・その後の状況がひっ迫していたこともあり、衝撃の真相が明かされる場面としては駆け足気味だった気もします。

 それでも、エリック自身のつらい体験と正反対になる様に重ねられるお呪いの言葉、何より最後の「幸せにして」のコマで彼の願いの本質が、生まれてくる家族への愛と祝福であることがしっかりと伝わってきました。良かったです。

 ただ、この件に関してはまだ続きがあるはずですね。ただでさえ、エリックには何でもかんでも自分のせいだと背負い込む癖がある上に、今回の件は本当に「全部エリックのせいだった」わけですから。いいことも悪いことも含めて。

 まあ、その辺りはレイや、ロイドや、エリック自身がなんやかんや乗り越えるのでしょう。ついでにエリックが背負い込み癖から脱却できればなおよし。その過程で面白おかしいエリックが見られれば言うことなしです。

 

悪魔の卵と悪魔の魔王

 レジーナの魔法によって彼女の拠点に引き込まれた一行。引き込まれた先の部屋には無数の卵が集まったグロテスクかつ巨大な塊がありますが、それが見えるのはアルマだけ。

 85話の最後でアルマ視点での巨大な卵塊が映るのもいいですね。グロテスクな形状と巨大さに加えて、そんなものが目の前にあるのに、他の誰も気づかないという状況が、絶妙に気持ち悪くていいです。※誉め言葉です。

 卵の正体はレジーナと契約した悪魔と、それに取り込まれた無数の魔物でした。トノコ信教では精霊=悪魔という分類で全部一律に悪者扱いですが、今回のこれはしっかり「悪魔」していますね。レジーナの使っていた魔法や、ビビアンに使った呪いの出所もこの悪魔でしょうか。

 悪魔の目的は自身が宿るための理想的な肉体を作ることであり、そのための材料として魔物を取り込んでいたわけですが、魔王キングブルもあっさり取り込まれます。そしてついに悪魔の肉体が完成。

 悪魔の力で魔法が使えなくなり、卵が見えているアルマが叫び、これで契約履行だとレジーナのテンションも駄々上がりの中、受肉した悪魔が悠々と登場。

 もち先生がやらかしました。

 いえ、もう悪魔の全身が登場するコマの3ページ前の段階でこう来るだろうとは思っていたのです。これまでのこの漫画の展開から考えて、絶対にこうなるのだろうと。それでも笑いました。

 悪魔の肉体はキングブルの肉体をベースに背中から翼を生やし、上半身はそのまま、下半身は4つ足。蛇の尻尾を生やし、角や目元のカラーリングがダークな印象のブラックに変更されています。

 個人的にはキングブルがベルテイン用の礼装として身に着けていたリボン(蝶ネクタイ)がそのままになっていたことがツボでした。

 負傷して意識を失っていたエリックが、目覚めてすぐにこの悪魔を目にして二度寝したのにも笑いました。前後の流れと、「悪い夢かと思って…」という的確過ぎる言い分も最高です。

 

ベティの姉、亡国テイベレスの王女レジー

 ビビアンを呪った謎の魔女・レジーナの正体、それはベティの姉であり、かつてビビアンに不老不死の薬を作るように迫り、材料としてベティを差し出したテイベレス王家の人間でした。

 突然ですが、物語の登場人物として「良い悪役」というのは2種類いると思います。※人物像の話なので、人間性のない完全なモンスター枠は除きます。

 1つ目は悪役でも悪役なりの筋の通った志を持っていて、悪になるべくしてなった悲劇的な背景や、その道を貫く覚悟のある悪役。カリスマ、人間的魅力などの持ち味があればなおいいです。こちらは単純にキャラクターとしての魅力がある良い悪役ですね。

 そして、2つ目はまったく魅力がないからこそ、悪役としてふさわしい悪者。やっつけられた時に読者のカタルシスが大きい悪役。要するに人間として酷ければ酷いほど良く、突っ込み所はあればある程、大きければ大きい程に良いという悪役です。

 後者の意味で、レジーナは素晴らしい悪役でした。

 そもそも、テイベレスというのは、黒魔法を使い平民を「管理」し、支配層の生活を支えさせていた国。

 レジーナの独白からするに、命や体の自由を質に取るのではなく、心を操って完全にいいなりのロボットにする感じでしょうか。

 国内の統治は外道な黒魔法だのみで、国外から大魔女であるビビアンを呼んだあげく怒らせて自分たちの滅亡を招くとは。倫理観の酷さのみならず、国として内政も外交もお粗末すぎますね。

 大魔女とは危険な黒魔法の封印と管理をする優秀な魔女のことなので、国民の支配に黒魔法を使っていた国がビビアンを招くというのは、自殺行為以外の何物でもないのですが、知らなかったのでしょうか。独学で魔女になったエリックは知っていましたが。

 79話で後ろ姿が初めて出てきた場面を見た時は、てっきりビビアンが元々管理していた不老不死関係の黒魔法か何かを奪うために呪ったのかと思っていたのですが、まさかわざわざ呼びつけて黒魔法を封印されたのだと知った時はびっくりしました。

 王族であることを根拠に自分は敬われるべき尊い人間であるとしながら、国が大変な時に何もせず、ビビアンを呪っただけというお粗末さ。アルマにも盛大に突っ込まれていますね。

 ビビアンが死ねば、彼女の魔法による封印が解けて、また黒魔法を使うことができて国が復活すると思っていた様です。

 しかし、カバー下のおまけページの魔法の解説を見るに、実際は封印が解除不能になるだけです。

 国民をいいなりのロボットにしておいて、「誰もが心穏やかで幸せだった」と本気で思っている辺りも、絶妙に気持ち悪く、やたらと自分の不幸を嘆いて被害者ぶっているのも気に障ります。

 長くなり過ぎるのでこれ以上は割愛しますが、読者にこれだけ駄目出しさせてくれるレジーナは、本当に素晴らしい悪役でした。

 

まさか完結?

 この漫画は、魔女ビビアンを救うため、薬の材料を集めるために愉快な仲間たちが冒険をするという形の物語です。

 実際の所、テーマとして描かれているものや、漫画としての面白い部分は、冒険とはかけ離れた部分にあったわけですが、それでも、物語としての出発点を考えると、薬が完成して、ビビアンが復活すれば、それでハッピーエンドでもおかしくありません。ビビアンを呪っていた犯人まで捕まえたわけですし。タイトルにもなっている「魔王のツノ」は入手済みですし。

 登場人物たちが抱えていた問題も、その多くがこれまでの物語の中で解決されています。

 残された問題や、最低限描かれるべきことも、後1冊分あれば描き切れそうです。

 レイの性別問題にエリックが関わっていた件や、悪魔戦の最中、アルマがトノコ信教の悪魔祓いが嘘であったことと向き合う場面も、駆け足気味だった気がして、それも気になっています。

 いわゆる「打ち切り」ではなくても、物語をたたみ始めると駆け足になる漫画は、割と多く見てきた気がしますので。

 そう考え始めてしまうと、今巻のカバーの作者コメントも、この漫画の完結を暗示しているように思えて不安になってきます。裏表紙にもクライマックスなんて言葉が使われています。

 しかし、まだ希望はあると思うのです。アルマの放った聖なる炎に焼かれた悪魔は、倒せたのか、逃げたのか、わからないという描かれ方をしていたので。

 物語が大団円に向かうのなら、ここですっきりかつド派手にやっつけると思うのです。

 だから、私はあの悪魔の生存に希望を託しています。この愉快な物語をまだまだ読み足りないので。悪魔くんどうか無事でいてくれと。

 

 

 エリックは「冥王の毒針」の練習中に面白そうなフラグを立てていましたが、まだ回収されていません。

 サウロもわざわざ伝説の剣を抜いたわりに、あまり活用していません。

 アルセニオとレイのデートの時に出てきた狐面のお茶屋と精霊も、凄く意味深長であったのに、まだ再登場していないです。

 こう考えると、まだまだ物語は続きそうですね。良かったです。

 エリックがロイドとの件をどう実家に報告するかは、おまけ4コマではなく、ぜひ本編で読みたいものです。