コミックコーナーのモニュメント

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セントールの悩み22巻 感想


セントールの悩み(22)【電子限定特典ペーパー付き】 (RYU COMICS)

 

 ストーリー的にも、風刺的にも意味深長な場面が盛りだくさん。セントールの悩み22巻の感想です。

 

プリティホーンに新キャラ登場

 178話は久しぶりのプリティホーン。

 全体主義専制体制の権化・強敵の利売愛聖(りばいあさん)と、プリティホーンと共闘したいという阿斗羅酢(あとらす)が登場。

 相変わらずセリフがいちいち仰々しいです。「マジカルプロパガンダ」というパワーワードはともかく、「全体主義専制体制は短期的かつ少数の具体的目標達成に対してのみ有効なの」というセリフは、子供向け番組なのに、絶対に子供向けではありません。

 まあ、連載初期から子供の絵本に、民主主義や、憲法の制定が出てくる世界観なので、本当に今更です。

 架空の世界を通しての個性的な角度での風刺やら、問題提起やら、もっとストレートな皮肉やらは、この漫画の面白い所ですし、楽しい所なのですが、今回の様に畳み掛けられると久々に突っ込みたくなりました。予告編の「じかい」の文字は平仮名なのに、あの台詞回しはなんなのだと。

 全体主義専制体制の化身である利売愛聖の半身が蛇体状により合わせたクラスメイトであったのは、デザインとしても風刺的な意味合いとしても秀逸でした。

 この回だけでは断定はできませんが、全体主義を嫌悪し、自由に拘り、服にこれ見よがしな「$」マークがあったことから推測すると、阿斗羅酢は極端な新自由主義の権化か何かでしょうか。

 最大多数の最大幸福がモットーのプリティホーンは手を組みたくなかった様ですし。

 プリティホーン回はテレビを見ていた牧ちゃんのコマで終わることが多いのですが、今回は難しい顔をしています。

 内容をある程度理解して見ているのだとしたら成長著しいですね。6巻37話や、9巻・60話の最後と比較して見ると成長が怖いくらいです。

 話のテーマではなく、うんざり顔で「行進の教育的価値ってなんですか」と先生に質問したり、先生にマジカルみねうちして気絶させたりしていたプリティホーンに思う所があったのかもしれませんが。

 

姫乃の伯父さん達(母方)

 179話では姫乃たちの高校に下見に来た受験生の口から、「彼方市の手を出したらヤバい女四天王」の話と、半グレ集団を壊滅させたという姫乃の武勇伝の話が出ました。

 知らない受験生に出合い頭に気合の入った挨拶をされた姫乃の「え、あのーどうも」という返しと、この時の表情がお気に入りです。

「彼方市の手を出したらヤバい女四天王」の4人の内3人が知っている人で笑いました。

 姫乃の武勇伝の始まりは、帰宅中に絡まれたことだったのですが、この場面を見る限り、姫乃は確かに「ヤバい」と表現するしかないですね。

 前の巻で国際的犯罪組織に攫われそうになった時もそうでしたが、姫乃の凄まじい身体能力と、徹底的でエゲつない本能・反射での撃退機能。3人でヨーロッパを荒らしまわったという戦闘氏族なご先祖の血筋の片鱗が窺えます。※この世界での史実です。

 そして、姫乃の家に押し掛けてきた1000人の半グレ集団壊滅の真相は、母方の伯父さん達の仕業でした。こちらは片鱗どころではない先祖返り。この人たち、いろいろおかしくて突っ込みが追いつきません。

 そもそもサイズからしておかしいです。姫乃父は人馬の中でもそれなりに大柄だったはずなのですが、3人の伯父さんの内2人は姫乃父より頭1つ分、1人は頭3つ分くらい大きいです。

 この一際大きい伯父さんが絡んできた半グレの頭を鷲摑みにするのですが、鷲摑みといいますか、掌で包み込んでしまっています。人の頭を。隆起する筋肉のボリューム感にも絶句します。

 半グレ相手に一歩も引かなかった姫乃父が、援軍に来た義理の兄達に腰が引けていたことにも笑いました。

 普通乗用車を振り回して大暴れする伯父さん達によって、半グレ集団は壊滅。

 伯父さん達が大暴れする傍らで、ご近所に「すみません。ごめいわくをおかけして」と謝っている姫乃母。

 非常識な光景が繰り広げられている中で、常識的に振舞うその姿は、それだけでギャグですが、昔から同じようなことがあって慣れているのだろうなあと想像したらなおのこと笑えました。

 

御霊さんの事情

 180話は御霊さん回。小学生の御霊さんが神社の掃除をする扉絵からして、どことなく不吉な印象を受けました。

 その予感は的中し、次のページには神社に車で乗り付けて、小学生を脅迫する暴力団員が登場します。

 事前に御霊さんが手を打っていたのか、すぐに刑事が駆けつけますが、どうやらこの刑事さん、御霊さんを虐待していた祖父の教え子とのこと。そのことにも不安が募ります。

 刑事が立ち去った後に戻ってきた暴力団員の罰々。※人名です。

 罰々が何やら懐に手を入れた所で、御霊さんが踏み込みます。とっさの判断力と身のこなし、そして、表情が凄まじいです。

 懐の拳銃を奪うと、至近距離でちょうちょなく発砲。さらにもう一人の子分にも発砲。子分への発砲は露骨に頭を狙った角度で、残りの全弾も罰々へ打ち込み蹴りまで入れる等、殺意が高いです。※くどい様ですが、この時の御霊さんは小学生です。

 ことが終わった後、騒ぎを聞きつけて戻ってきた刑事たちの口裏合わせもあり、銃を抜こうとした罰々が暴発させたということで逮捕、決着します。

 そして現在。出所した罰々たちがお礼参りに来ますが、御霊神社の政治力で罰々の所属する組を動かす御霊さん。

 罰々たちが袋叩きに遭う横で幹部らしき男に頭を下げられる様子は、堂に入るといいますか、手慣れたものを感じます。

 この回は刑事さんが御霊神社を再び訪れ、談合に御霊神社が使われているというタレコミがあったことを告げ、怪しいことに首を突っ込むなと言って去っていく場面で終わります。

 一連の出来事への御霊さんのコメントは「みんな勝手なコトを」でした。

 自業自得の暴力団員たちの言い分は言うに及ばず、談合云々の件も、御霊さんが家族を守る力を手に入れるためには手段を選んでいられなかったわけですからね。

 不正やルール違反を仕方なかったとする論法には、普段は「ルールを破る口実にするな」と思う所ですが、御霊さんの人生が壮絶過ぎて、これは仕方がなかったのではと思ってしまいました。

 今回「銃の暴発事件」の件で御霊さんを庇った刑事ですが、身内に甘いという事は、逆に御霊祖父の虐待を知っていても隠蔽した可能性もありそうですし。

 

タゴンさん主演映画 タゴンさん対タコマッチョ(仮)

 タゴンさん主演の映画回。色々ととんでもない設定の怪獣「タコマッチョ」が登場します。

 タコマッチョに関する設定等は劇中劇ということもあり、いつも以上にパロディーと辛口な風刺の味わいが楽しかったです。

 いきなりこれが出てきたらその時点で劇中劇だと断定しますが、タゴンさんという前例があったので、最初は劇中劇だと思わずに読んでいました。

 「あれ、何かおかしいぞ」と思ったのは84ページで、パラボラアンテナの兵器が出てきた所でした。昔の怪獣映画で見た記憶のある懐かしいデザインでしたので。

 劇中劇の方も、映画が終わった後の「他所の人の迷惑も考えずにこれまで好き勝手にやってきた老人」が時代に取り残されるという因果応報の最後の場面も、難しすぎず楽しめた回でした。

 しかし、1つ疑問が残りました。タゴンさんとタコマッチョの格闘シーンはどうやって撮影したのですかね。

 特撮怪獣映画は人間のスーツアクターが入った怪獣をいかに巨大に、迫力満点に見せるかに、あれこれと腐心するものですが、タゴンさんは元々怪獣サイズですし。

 CGなのか特撮なのか、それが気になりました。

 

 

 以前、御霊さんが御霊祖父を闇に葬った際に驚きすぎて、もうこの路線では驚かされることはないだろうと思っていたのですが、今回も驚かされてしまいました。

 清濁併せ飲んだ上での、圧倒的な芯の強さと、躊躇いの無さ。家族を守るためなら何でもするし、何にでもなる御霊真奈美。

 御霊さんは現代の高校生とは思えない壮絶な世界を歩いている様な気がしますが、正規の手続きを踏んでいると家族を守れなかったことは、御霊祖父の一件や、今巻の180話の流れで十分に伝わってきました。

 普通は子供がどうにか出来るような問題ではないのですが、それをどうにかできてしまったことと、その積み重ねの結果が今日の御霊さん。

 恐ろしいのは、御霊さんは容姿に恵まれたことと、超人的な体力以外は、常人の範疇に収まる素質しか持ち合わせていないことが作中でも語られている点です。恐るべき執念。恐るべき家族愛。

 談合の件をタレ込んだ人がどうなったのかも気になります。