頼みの綱だった翼獅子はあっさりと抑え込まれ、仲間たちは次々とドラゴンの犠牲に。
悪夢のドラゴンフルコースの中でライオスの魔物知識が光ります。ダンジョン飯11巻の感想です。
ライオスの恐怖※ライオスが恐怖を与える側です。
4巻のレッドドラゴン戦はとても熱い展開でした。
今回も熱い展開でしたが、レッドドラゴン戦がそれまでの全てを積み重ねて闘う様を読者に真っ向から見せつける形であったのに対して、今回はシスル寄りの視点でライオスの特異性が見せつけられました。
各種ドラゴンそろい踏みの圧倒的戦力に加えて、自分はライオスの剣が届かない空飛ぶ龍の頭上から高みの見物。既にライオスの仲間たちは全滅し、後はライオスを仕留めるだけという状況。
ところが、予想外の事態が次々とシスルに降りかかります。
これらはドラゴンたちの生態や能力ゆえのものなのですが、シスルにその知識はありません。
嫌な予感がしたシスルが死体の確認をしようとワイバーンたちに指示をしている最中に、すぐ背後からライオスの手が伸びてきて、迷宮の主としての力の源である本を叩き落とします。
ページをめくる寸前の最後の1コマで意識外から伸びる手が描かれ、ページをめくった直後の大ゴマと、その次のコマで、シスルが気付いた瞬間に本を叩き落とされ、そして振り返ったシスルが見たライオスの恐ろしい形相。
圧倒的に有利な状況で、安全な場所にいたはずなのに、遥か眼下に見下ろしていた相手が、いつの間にか自分のすぐ背後に迫っているという恐怖と不条理。
おまけに彼にとって一番理不尽なのは、これは翼獅子のサポートによるものなどではなく、全てただの人間であるライオスによってなされたという事。
私は、前の巻のラストの時点ではドラゴンフルコース自体が夢魔によってもたらされた悪夢なのではないかと思っていました。※そうでもないとライオスの勝ち筋がないので。
今巻になってからの展開で悪夢ではないとわかってからも、てっきり翼獅子による支援があったものだと思って見ていたので、ライオスの口から出た説明に驚きました。
知恵と執念の勝利ですが、この見せ方であったからこそ、シスルの目撃した「ライオスの恐怖」が的確に表現されていました。
殺したはずなのに死なないだとか、離れた所にいたはずなのにいつの間か背後にいるだとか、全能の悪魔ではなく、ただの人間がやるからこその理解不能。つまり恐怖です。
翼獅子=悪魔の怖さ
ライオスに敗北した後、和解したシスル。和解した直後にライオスはえらい目にあっていますが。
騙し討ちのつもりではなく、本気でライオスに感心して、本気で和解した直後に悪意ゼロで凶行に及んでいるのが不気味です。もう完全に人間(エルフ)の感性じゃなくなっています。
そんなシスルの不意を突き、彼の欲望を食べて、廃人にしてしまった翼獅子。どうやら翼獅子=悪魔という構図と見てよさそうですね。ライオスを救出し「フォアグラになるところだったぞ」とコメント。シスルより余程人間に近い感性をしている様に見えます。
おいしそうにシスルの欲望を食べる行為そのものは恐ろしいものですが、リアクションの方はむしろコミカル。美味しいものを食べる人間のそれでした。
人間は悪魔に欲望を食べられた分だけ本来持っていた人間性を喪失し、悪魔は人間の欲望を食べた分だけ人間に近い感性を獲得していくということなのでしょうか。
とはいえ、根本的に人間とは隔絶している存在が、表面上人間と同じように振舞う様子には恐ろしいものがあります。
コミカルに可笑しく描きつつ、本質的な不気味さが全く薄れない表現は、流石としか言いようがありません。
報われないカブルー
今巻で本当に報われなかったのがカブルー。
自由に動けない中、それでも必死に立ち回り、嫌いな魔物を食べてでも、ライオス達とカナリア隊の仲をとりなして出来るだけ平和裏に状況を解決しようとしました。
嘘が下手くそな上に、いつも通りの奇行に走るライオス。安易に強硬策に出るエルフ達。二転三転しながらどんどんカオスになっていく状況。リリクムムアレの下りは面白かったですね。
マルシルが宮廷魔術師の娘であるという誤解から、一時は平和的に話が進みそうになるものの、結局落ち着いて話をする機会は訪れず。
ハーフエルフであるという事をあげつらいマルシルの神経を逆なでするエルフ達。唯一マルシルに対して同情的な態度を見せたミスルン隊長もコミュ障ゆえの逆効果。
翼獅子は封印から解き放たれてしまいます。
マルシルが迷宮の主になって姿を消した後も、探しに行こうとするライオスを何とかとどめて説得しようとしても、エルフの1人・リシオンの開き直った雑な説得に台無しにされ、なし崩しの交渉決裂で戦闘に突入。ゆっくり話す機会はなくなります。
ライオスに話そうとまとめておいたミスルンの身の上話も伝えられずじまいでした。
本当に報われませんね。丸く収めようと、少しでも状況を改善しようと努力しているのに、必ず誰かに台無しにされます。
土壇場での本音ぶちまけからの最後の説得にも失敗しますが、最後の最後で気持ちだけはライオスに伝わったようですね。
正直、5巻・32話で闇の深い笑みを浮かべていた彼が、こんなに熱いキャラクターになるとは思っていませんでした。
狼男・リシオンとライオス
自分自身の人としての姿を醜く感じ、自分の美意識に基づいて獣の身体を手に入れた改造獣人にして狼男・リシオン。
『ダンジョン飯 ワールドガイド 冒険者バイブル』で彼のページを読んでから、魔物マニアのライオスとの会合がどうなるかワクワクしていたものの、本編では魔物談義という展開にはなりませんでした。
ところが、おまけページのよもやま話の方で、私の望んでいたif展開が繰り広げられました。
本編とは打って変わって盛り上がるも、魔物に対する憧れ方・スタンスの違いから険悪に。
自分が大好きな分野の話だからこそ、解釈違いや、何気ない一言が許せなくなると。本編では一方的に襲われていたライオスが敵意をむき出しにしていましたね。
「獣人ワナビが」のセリフのコマのリシオンの表情と、青筋を浮かべるライオスに笑いました。
翼獅子はミスルンのことを自分の熱心なファンと言っていましたが、他の迷宮の悪魔と同一の存在なのでしょうか。
同時にいくつもの場所に存在できるという事でしょうか。あるいは、悪魔を封じていた本が2冊あったように、いくつもに分けて封印されていただけで、大本は同じ存在なのでしょうか。
全く法則の違う世界から来た存在ということなので、何がどこまでできるのかの予想がつきません。
悪魔の封印が解除され、迷宮の主になったマルシルと、それを追うライオス達。迷宮ごと巻き込まれる大勢の人々。
いよいよクライマックスという雰囲気ですが、これまでもさんざん予想を外されてきたので、予想の斜め上の盛り上がりになるだろうなと楽しみにしています。