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ゴブリンスレイヤー外伝:イヤーワン6巻 感想


ゴブリンスレイヤー外伝:イヤーワン 6巻 (デジタル版ヤングガンガンコミックス)

 

 着々と「ゴブリンスレイヤー」になっていくゴブリンスレイヤー。彼とどう向き合えばいいのか苦心する牛飼娘。

 ゴブリンスレイヤー外伝:イヤーワン6巻の感想です。

 

牛飼娘と孤電の術士

 ゴブリンスレイヤーと「お似合い」の人物の噂を耳にして気が気ではない牛飼娘。

 思うようにいかない彼とのコミュニケーションに難儀している所に、孤電の術士が乱入。

 いや、もうびっくりするくらいのハイテンションですね。「いたぁつ!!」と叫び、走り寄り、飛びついて、抱き着きます。ここはギルドのロビーなのですが。

 公衆の面前でもお構いなし。元々、癖の強い人物ですが、この時は輪をかけてご機嫌だった気がします。

 以前の野営中の会話で、ゴブリンスレイヤーが自分の理解者たる人物であると思ったからなのか、自分の望みが成就しそうだからなのか、どちらとも考えられますね。

 そして、そんな2人に内心穏やかではない牛飼娘。 不満を押し殺そうとして失敗している顔は、ドンと構えている感じの本編とは大分ギャップがあります。この後の場面でも不安気な様子や、涙目や、赤面がかわいかったです。

 見かねた孤電の術士は、ゴブリンスレイヤーにお使いを申し付けて、その間に、彼女の誤解を解くことに。

 牛飼娘の想像するようなことは何もなかったし、これからもないと。

 ゴブリンスレイヤーも、孤電の術士もこの時点でもう自分の行く道筋を決めています。別の道など考える余地もないぐらいにきっぱりと。別の可能性に心惹かれること等ないぐらいにはっきりと。そして、それらは交わらない道です。

 「色々と遅かったのだよ。何が遅かったのかといえば、遅かった事をどうとも思わない辺りだね」と孤電の術士が言っていましたが、本当に何とも思っていない様子なのが、逆に趣深いです。

 

影の塔

 孤電の術士が何かを成し遂げるために向かった「影」の塔。ゴブリンスレイヤーもゴブリン退治の一環として同行します。

 孤電の術士の目的が何か、影の塔という場所と、そこにいるゴブリンの影の正体についての説明も要領を得ません。色々と抽象的なお話でした。

 正直1度目に読んだ時は意味が解らなさ過ぎて、この辺りはつまらなかったです。

 ただ、この辺りはゴブリンスレイヤーもよく分かっていないこと、それでも「よく分からないからといって馬鹿馬鹿しいと否定せず、分かる範囲で理解に努める」彼の姿勢と、それに対しての孤電の術士が凄くうれしそうにしているのが大事なポイントなわけですよね。

 ゴブリンの影の正体と、それが何処から来たのかについての説明も抽象的過ぎます。孤電の術士の話もいちいち回りくどいです。

 ただ、その話の全容を理解できずとも「で、あれは殺せるのか?」と大事な部分の確認をゴブリンスレイヤーがすると、彼女は凄く嬉しそうな表情をしていました。

 思うに、彼女の研究なり理論なりが理解されずに、その延長線上にある彼女の「夢」を笑われたという過去と関係があるのではないでしょうか。その辺りについての描写がオマケ小説のごく断片的なものだったので、想像で補うしかありませんが。

 野営中の雑談で「知識」に纏わるいろいろなことについて話していた際もなかなか厳しいことを言っています。

 この時、「彼らは理解する気もなければ、理解する能力もないのだから」という言葉を言った際の彼女の表情が、私には「ほとほと愛想が尽きた」時の顔に見えました。

 この時は「村を飛び出し~(中略)~小鬼退治で死ぬ輩」の話でしたが、過去に自分を笑った人達も重ねていたのでしょうかね。

 孤電の術士の背景と、影の塔の説明、どちらかだけでももう少し掘り下げられていれば、いくらかすっきりした気分で読めたかもしれません。

 その場合は読後感も変わってしまったかもしれないので何とも言えませんが。

 

マジックでギャザリング

 39話にて、ゴブリンスレイヤーがゴブリンの相手をする最中、扉の鍵となる答えを解き明かそうとする孤電の術士。

 この時のセリフ「わかったぞ!わかったぞ!わか…ッたぞ!!」。

 3回目の「わかったぞ」が不自然な所で切れています。これを見た私は、昔、世界的に有名な某マジックなカードゲームで読んだ特徴的なフレーバーテキストを思い出しました。そういえば、あのフレーバーテキストも「ゴブリン」のカードのものでした。

 次のページでは、孤電の術士が魔法にも使っているカードがアップで映るのですが、イラストと文字の配置の特徴が、もうそのカードゲームのものに見えてきます。

 この時点ではまだ、ゴブリンつながりで単発のネタが投下されただけだと思っていました。カードのデザインもそれほど深い意味はないだろうと。

 ただ、よくよく考えてみると「界渡り(プレインズウォーク)」という言葉が前の巻で出ていたのですよね。

 某カードゲームでは「プレインズウォーカー」という言葉がでてきます。これは世界から別の異世界へ世界をまたいで旅する者のことで、ゲームのプレイヤーを指す言葉です。

 前の巻の時点ではたまたま一致しただけだと思っていましたが、ここまでくると作為的なものを感じます。いえ、作為的というよりももうそういう事なのでしょうが。

 決定的なのは、41話で孤電の術士が「促進《エクスぺダイト》」の呪文を使っている場面。

 読了後、もしやと思って調べてみると、これももろに某カードゲームのオマージュでした。いえ、むしろパロディーと言うべきかもしれません。

 呪文の効果の類似、詠唱とフレーバーテキストも類似。私がプレイしていない時期のカードだったので、気付きませんでした。

 気付いてしまうと、カードのデッキから勢いよくカードを引いて、手を高く掲げながら呪文を使う孤電の術士が何だかシュールです。全く別の某遊戯な王の漫画のワンシーンに見えてきます。

 真面目な場面ですのに。いえだからこそ面白いのかもしれませんが。

 気付いたのが読み終えてひとしきりしんみりし終えた後で良かったです。

 元々ゴブリンスレイヤーの世界は神々の遊ぶ盤上の世界という事でしたが、TRPG(テーブルトークロールプレイングゲーム)だけでは飽き足らず、今回はTCG(トレーディングカードゲーム)ネタ大量投下回だったのですね。

 私は「わか…ッたぞ!!」のセリフが切っ掛けで気付きましたが、カードゲームのネタを知らないと、孤電の術士が「何を目指していたのか」についてはわかりづらいです。

 一方で、カードゲームネタに気付ける人には、真面目な場面でパロディーが襲い掛かる事態になります。

 漫画の演出、物語の仕掛けとしては、いささかピーキーすぎる気もしますね。

 

頂の向こう側へ

 塔の最上階へたどり着いたゴブリンスレイヤー達。

 終着点の扉を開くとそこに見えたのは空。扉の向こうに空が広がっている様にしか見えませんでした。

 「山の頂に至らんとする際、目的地はそこか、景観か、その先か」とは、孤電の術士のセリフでしたが、彼女はこの景色を見るためにここに来たのではなく、その先を確かめるためにここまで来たのでした。

 扉の外へ踏み出し、景色の中に溶けるように消えた彼女。落ちたわけではありません。

 彼女が何処へ行ったのかはっきりとわかる描写はありません。どうやら世界の外へ行ったのだろうことは匂わされていましたが。

 その直前の2人の会話は情感がありました。

 私としては、お互いがお互いのことを「回りくどい」と思っていたことが、何処か可笑しく、その可笑しさが、切ないような、寂しいような、もの悲しいような、でもそれだけではない何かを際立たせました。

 知識というのは闇に差す灯で、ゴブリンスレイヤーのゴブリンについての知識もまた闇を照らすかもしれないと、以前、彼女は言っています。

 別れ際も彼女は「灯」の話をしていましたが、どうもここでは「灯=知識」というのとは微妙に違うニュアンスで話している様です。

 上で言及したカードゲームに登場するプレインズウォーカーにも「灯」という概念が関わってくるのですが、それとも違うようですし。

 「それでも灯はある。きみにも灯はあるんだよ」のセリフが何を伝えたかったのか、正直な所、私にはわかりませんでした。

 ただ、将来の話、ゴブリンスレイヤーの存在は、ゴブリン被害に怯える辺境の村々にとっての救世主となります。剣の乙女や令嬢剣士の様なゴブリン被害者にとっても、間違いなく希望の光となっているわけで、そういう意味ではゴブリンスレイヤー自身が「灯」であるのではないだろうかと、そんなことを考えたりもしました。

 ゴブリンスレイヤーには彼女が何をどうしたかったのかがわかりません。それを勝手に想像することもおこがましいと思っています。

 ただ、それでも、彼女は間違いなく成し遂げたのだと確信しているという終わり方は、何とも言えない余韻がありました。

 

 

 孤電の術士は話が回りくどいですが、含蓄のある話やセリフも多いです。

 「知識」に纏わるものの話もそうですし、山に登る時「目的地はそこか、景観か、その先か」人によって違うという例えも好きですね。

 読み終わった後に、彼女とゴブリンスレイヤーのやり取りを読み直していた際に、某トロルの谷にやってくる放浪者の少年だが青年だかの顔が頭に浮かびました。とんがり帽子の彼です。

 いえ、私はその作品のファンという訳でもないのですが、実際に浮かでしまったのだから仕方ありません。