コミックコーナーのモニュメント

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ゴブリンスレイヤー12巻 感想


ゴブリンスレイヤー 12巻 (デジタル版ビッグガンガンコミックス)

 

 新人冒険者の少年・少年魔術師と共にゴブリン退治に向かうことになった一行。冒険者訓練場設営の話も進むゴブリンスレイヤー12巻の感想です。

 

少年魔術師の災難

 「秩序にして善たる騎士」であるはずの女騎士の策略というのもはばかられるごり押しによって、女神官の指揮の下で、ゴブリン退治をすることになった少年魔術師。

 まあ、少年魔術師が「イキがってるだけの駆け出し」であることを踏まえても、神官という職種そのものを嘲る発言は悪い意味で注目の的でした。女騎士みたいなのに絡まれたのも仕方ないことでしょう。

 むしろ、冷笑で済ませた他の冒険者の方に驚きました。1名ほど逆上していましたが。冒険者ギルドがしっかりとした組織だからか民度高めですね。

 まあ、わざわざ首を突っ込んで世話をやく女騎士が悪いわけでもないのですが、もう強引さがギャグの域だったもので。

 勢いまかせの独断で話を進めるあまりにもあんまりな女騎士を見て、彼女の信仰する至高神からの天罰がないか、天井を見上げる彼女の相方・重戦士も面白かったですね。

 ゴブリン退治当日、事前に連絡しておいたにも拘らず、匂い消しの香り袋を用意していなかった少年魔術師への女神官と妖精弓手の微笑みも良かったですね。

 自分たちもかつて味わった「ゴブリンスレイヤーのゴブリン退治」の通過儀礼であるゴブリンの臓物を使った匂い消し。

 ゴブリン退治に必要であるという大義名分の元で、自分たちが経験した悪夢をお前も味わえとでもいうかのような、道連れが増えることを喜ぶような、仄暗い感情が透けて見える微笑みが良かったですね。

 

個性的な一党

 ゴブリンスレイヤー達よりも先に、ゴブリン達と、巣に同居中のトロルに挑み、全滅してしまったとある一党(パーティ)。

 訓練場設営の人足長の鉱人が言う所の「最近ちょいと名の売れてきた一党」らしいですが、中々に個性的な面々である気がします。

 蜥蜴人(リザードマン)でありながら積極的に武器を使う前衛がいたり、その蜥蜴人が只人(ヒューム)の侍祭と相思相愛の恋中であったり、8巻で混沌の勢力であると説明されている闇人(ダークエルフ)が変装するでもなく、素顔を晒した状態で一党の仲間と会話していたり、かなり個性的な一党です。

 私はゴブリンスレイヤーの物語を漫画で楽しんでいて、原作の小説をほとんど読んでいません。そのため小説なら地の文で説明されるような部分を知りません。

 戦女神の神官戦士である少女もいましたが、当初、私は彼女を女部族戦士(アマゾネス)だと思っていました。※どちらもビキニアーマー的な衣装を着る設定があるためです。

 世界設定についても把握しているのは漫画でわかる範囲と、後は『ゴブリンスレイヤーTRPG』を流し読みしたり、キャラクターの呼称を参考にするためにネットで軽く調べたりする程度です。

 しかしながら、そんな私でもこの人たちはかなり個性的であると断定できます。そのくらいには変わっています。

 蜥蜴人は一般的には武器を扱うことを惰弱であると考えているようですし、只人と恋仲になるのも変わっていると思います。

 闇人は基本的には混沌側の勢力で、稀に例外もいるようですが、そういう場合でも白粉を塗って森人(エルフ)に化けて身分偽装するそうです。まあ、訓練場設営の人足についてきた娼婦には堂々と肌を晒している闇人もいましたが。

 蜥蜴人と只人が恋仲になったり、闇人がその正体を仲間に明かしたうえで受け入れられたりするまでには、それなりの物語があったのでしょう。

 原作のこの場面に相当する箇所を読んでいないのですが、少なくとも漫画版を読んだ限りでは、ろくに語られずに散ってしまうには惜しい個性的な一党だったというのが、素直な感想です。

 ですが、キャラクターシートがどんなに面白いものであっても、骰子の出目が悪ければあっけなく死んでしまうというのも、世界観にあっている気はします。

 

ゴブリンスレイヤーVSトロル

 燃える水(ガソリン)の放火戦術で殺しきれなかったトロルに水と硝石をかけて凍り付かせるゴブリンスレイヤー

 温度差で大岩を砕く話もしているので、「高い買い物のわりに効果は薄いな」と言っていた燃える水をまた使っているのは、合わせ技を考えてのことなのでしょうかね。

 硝石についての知識は5巻の水の都の屋台で仕入れていますね。ゴブリン退治に使えそうな知識の収集に余念がないゴブリンスレイヤーのことがよくわかる一幕です。

 それにしても、出てくるまでが長かったですね。それが特に良いとか悪いとかではなく、本当にただ漠然とした感想ですが。

 特にゴブリンスレイヤー達が意図したわけでも、知っていたわけではなくとも、トロルとゴブリンにやられた冒険者の武器で勝負を決めるのも味がありました。

 

ゴブリンスレイヤーと少年魔術師と姉

 1巻で女神官と共にゴブリン退治のクエストを受けて、ゴブリンに殺された女魔法使い。

 少年魔術師はその弟でした。

 彼の独白から察するに、ゴブリンスレイヤーが女魔法使いを看取ったことを知っていたみたいですね。

 姉の死についてゴブリンスレイヤーを責めない辺り、事情や道理はわかっているようです。

 それでも、感情は抑えきれなかったと。

 なるほど、だとすると、女神官が姉と一緒にいたことも知っているのでしょうか。

 もしそうならば、女神官へのあのめちゃくちゃな絡み方も納得です。まあ、ゴブリンスレイヤーへの態度と、女神官への態度に温度差がある気もするので、知らない可能性もありますが。そもそも彼は周囲全てに喧嘩腰だった気もします。

 ゴブリンスレイヤーも、女神官も衝撃を受けていましたが、特にゴブリンスレイヤーが痛々しいです。

 ゴブリンスレイヤーは、水の都で剣の乙女に「お前の気持ちはわからない」と言った様に、自分の感情は他人には理解できないし、他人の感情を自分が理解することもできないと割り切って考えている節があります。

 ゴブリン退治や、ゴブリン被害者の救済にしても、自分にできないことがある事を割り切って行動していることが、これまでの言動からもわかります。※それでもできることはしようとはしますが。

 それでも、自分が介錯した女魔法使いが、少年魔術師の「姉」であると聞いて、ひどく動揺して、自分を責めていました。

 7巻で雪山の村を助けた時も「姉」と妹の再会の場面で嬉しそうにしていたことを女神官に指摘されていました。

 「姉」というキーワードがゴブリンスレイヤーの中で強すぎるのですよね。それこそ、割り切っていたはずのものが、途端に割り切れなくなってしまうぐらいには。

 非合理で理屈に合わない様で、その非合理で理屈に合わない部分も人間だと納得できてしまう心理描写でした。

 

 

 64.5話という形で、令嬢剣士のその後が描かれていました。

 令嬢剣士の快復と再起が描かれていたわけですが、彼女がゴブリンスレイヤーに恋をしてないか気になって仕方がない剣の乙女のインパクトばかり強かったですね。相変わらずかわいかったです。