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お姉さまと巨人(わたし) お嬢さまが異世界転生1巻 感想


お姉さまと巨人 お嬢さまが異世界転生 (1) (青騎士コミックス)

 

 異世界へと転生した少女・京極雛子(キョウゴクヒナコ)。

 そのヒナコと姉妹の契を交わし「お姉さま」と呼び慕う巨人の少女・エイリス。

 ヒナコと共に転生したヒナコの「お姉さま」と、エイリスの兄弟たちを探す2人の異世界冒険譚。『お姉さまと巨人 お嬢さまが異世界転生』1巻の感想です。

 

魅せつける巨人のスケール。サイズ差の表現の魅力。

 この漫画はテンポ重視でサクサクと話が進む一方で、じっくりと読むと画面から読み取れる情報量が多くて目まぐるしささえも感じました。

 いえ、悪いわけではありません。

 漫画の構成としては、テンポ重視です。情報量を多く感じるのは、漫画としての表現で、それだけ魅せてくれているからです。

 特に魅力的なのが、ヒナコとエイリスのキャラクター。そして、巨人であるエイリスも含めた巨大生物のスケール表現です。

 圧倒的な巨体の氷龍と真っ向から向き合い囮役を務めるヒナコ。

 巨人らしからぬ地中からの奇襲で氷龍を打ち倒すエイリス。

 エイリスの冷たい目と、倒れた氷龍への容赦ない追い打ち。

 「強い敵も罠にはめて、優位をとっても油断せず徹底的に仕留める」という玄人冒険者ぶりが伝わると同時に、人間であるヒナコとのサイズ差が的確に伝わるコマ割りとアングル。

 短いながらも迫力満点の描写でした。

 冒険者ギルドでの教会関係者とのひと悶着の場面では、屋内でのヒナコのピンチを嗅ぎつけて、蹴り足が地を這うような下段キックで外壁を破壊し、乱入するエイリス。屈んだ体制のままでもその巨体が窺えます。

 いえ、これは屈んだ状態だからこそ同じコマに入れているという感じですね。巨人と人間のサイズ差の表現が素晴らしいです。圧倒的な巨体でオドオドしたり、ペコペコしたりしながら、喧嘩っ早い姉のフォローをするエイリスがかわいかったです。

 街中を歩く2人の場面も、ただ歩きながら会話をしている場面なのですが、並んで歩く2人のサイズ差が、いろいろなアングルから描写されていて読んでいて面白かったですね。

 

姉妹の旅の目的。仁義なきものとの闘い。

 第1話の後半、それまでの丁寧な話し方とは一変したゴルム氏族の方言で話し出すエイリス。これを皮切りに一気に作品の雰囲気が変わりました。

 共に転生したはずの「お姉さま」を探すヒナコ。

 同じ氏族に属していた兄弟たちを探すエイリス。

 その理由が自分たちを捨てたこと・裏切ったことに対する「けじめをつけるため」であったことが判明します。

 2人の関係が、ただ、形式上の姉妹の契りを交わしたからというものではなく、同じ様な傷を抱えて、その上でお互いを尊重する今の在り方があるのだと思うと、説得力と言いますか、「姉妹の契り」という言葉に血が通ったと言いますか、2人のキャラクターと、この物語により深みと奥行きを感じるようになりました。

 

姉「最も小さな巨人」京極雛子(キョウゴクヒナコ)

 現代日本と思われる世界からの転生者でお嬢さま。左腕がない隻腕の少女。真面目で礼儀正しい反面、仁義の無い相手にはとことん容赦がありません。

 異世界に来たきっかけは、姉妹の縁を切ると言った「お姉さま」を突き飛ばして、諸共に電車に轢かれたというものです。

 ただ、この件を単なる痴情のもつれ扱いしてしまうのはためらわれます。

 回想場面は断片的であるため、全てはわかりませんが、拒絶するヒナコに「姉妹の契り」を楯に取って強引に関係を迫ったのはこのお姉さまの方です。

 さらに2話目で「決して許せぬことをされました」と語っている場面の1コマで、性犯罪者らしき第三者が映っているコマがあったので、もっと酷いこともされていそうです。

 そうまでして「姉妹の契り」を守ろうとして、裏切られた上に嘲笑われたわけですからね。

 巨人の悪口を言った相手に即座に刃物を向けたりもしますが、もう助からない怪我で意識も朦朧とした子供が穏やかに逝けるように、高価なポーションを痛み止め代わりに使い、母親のふりをして慰め・励ます優しさもあります。

 この優しさが仲間に捨てられたエイリスの心を救ったのでしょう。

 その一方で、そのために自分がついた嘘ですら「悪」であると断ずる潔癖かつ頑なな価値観の持ち主。

 いや、本当に徹底しているからこそその真っすぐさと、それでも滲み出る人間味が魅力です。

 どれぐらい徹底しているかと言うと、転生者に女神から与えられる能力(チート)の受け取り拒否をしているのですよね。

 本人曰く「丁重にお断りしいたしました」、「チートとは『ズル』のことですから。ズルはいけないことでしょう?」とのことですが。

 にもかかわらず、何やら影の巨人とでも言うべきものが、彼女の身体から出て来る演出がありました。

 これが何らかの特異な力なのか、彼女の気迫に圧倒された相手が見た幻なのかは現時点ではわからずじまいですが、それが何かがわからなくとも、とにかく凄い、恐ろしいものであるということは伝わってくるインパクトのある場面でした。

 「……あなたのような方を私たちはよく知っています。神を、信仰を、絆を、約束を、軽々しく楯にする。仁義なきもの。それが私たちの敵です」このセリフも好きです。

 いつもハイライトの無い虚ろな目をしていますが、だからこそ、目にハイライトが入る場面で、決意や、覚悟の強さが感じられます。そこに感じる迫力と凄み。このギャップも素敵な演出です。

 

妹「クラス:×××××」エイリス・キョウゴク・ン・グバ

 ヒナコと姉妹の契りを結んだヒナコの妹。ヒナコによって心を救われた巨人の少女。遊牧民のゴルム氏族出身。今はキョウゴク氏族。泣き虫。

 普段は丁寧な話し方ですが、気が高ぶったり、感極まったりするとゴルム氏族の方言が出てしまうのも味があります。

 ヒナコと並んでいたり、人間の街に居たりするとその巨体が目立ちますが、巨人の中では背は低い方らしく、髪や肌の色も一般的な巨人とは違うそうです。かなり賢く、その影響で一般巨人とものの見方がずれてしまうこともある様子。

 その辺りで差別されたのか、ゴルム氏族の兄弟たちには奴隷同然の扱いをされ、虐待や暴行も受けていました。

 回りはそんなクズばかりであったにもかかわらず、彼女は古き巨人らしい強く誇り高い存在であろうとし続けましたが、それでも崖から突き落とされて捨てられてしまったと。

 彼女のこの辺りの事情は3話で描写されていましたが、暴行の跡が本当に生々しいです。

 そんな中でも無理やり笑おうとする過去のエイリスの場面から、ヒナコと甘いお菓子を食べて自然にほほ笑む現在のエイリスの場面につなげる演出にやられました。

 どれだけ尽くしても氏族に受け入れられなかった過去。ヒナコに自然体でありのままを受け入れられる今。そのことを実感すると涙をこらえきれなくなって泣いてしまい、しばらく泣きっぱなしになってしまうのも良かったですね。

 3話と言えば、冒頭の場面でエイリスの「クラス」が曖昧にされたまま話が進み、後半で2人をつけ狙う教会の追手との闘いが始まって、ここぞという所でクラスが判明する演出も良かったですね。※ここで言うクラスは肩書や戦い方のスタイルの様なものです。

 教会騎士序列第五位「クラス:大魔導士(ハイ・ウィザード)」のピリポ・カエザリア。彼の自慢話から魔法を使える人間の希少性、その強さを測る基準の話題になった所で、実はエイリスも魔法が使える存在であったことが読者に判明するという構造。

 まあ、厳密には1話目で既に魔法を使っているのですが、「一般的に巨人は魔法を使えない」、「魔法使いの才能は身体にある魔術痕の量と大きさで測れる」、「ならば、巨人の巨体全身に魔術痕があったらどうなるのか」という論理がスムーズに展開されて、見開きでエイリスのクラスがまさかの魔法系であることが判明。

 「クラス:巨大魔導士(ウィザード・ジャイアント)」というクラス名のネーミングも好きです。

 エイリスが魔法を使いだすのと同時に真昼の空が暗くなり、あっさりと敵を殲滅した後に元通りの空に。

 昼なのに突然に暗くなったり、街の上空にエイリスの巨体が浮かんでいたりしたにも拘らず、街で騒ぎになった描写が一切ない点も含めて、エイリスの魔法の全容がわからない異様な雰囲気が良かったですね。

 何が何処まで出来るかわからず、それでも周りの世界を置き去りにする圧倒的な魔法のスケールは伝わってくるという「大魔導士をはるかに超える何か」の表現に浪漫を感じました。

 

王道の異世界転生モノの様で何やら怪しい世界観

 この物語の舞台になる「異世界」。まだ物語は始まったばかりですが、現時点で既に中々に癖のある舞台設定・世界観に思えます。

 一見するといわゆる「剣と魔法の世界」の様で、様々な亜人種が存在し、冒険者ギルドなどが存在する王道ファンタジー的浪漫にあふれている一方で、祝福(チート)と呼ばれる力を持つ異世界からの来訪者たちを勇者と呼んでもてはやし、利用することが一般的にかつ当たり前に行われていると。

 2話で登場したゴブリンやオーク等の「魔族」も、文字通り一目で戦力差がわかりそうなサイズのエイリスがいる村をわざわざ再襲撃する等、感情や知能のある普通の生き物とは思えません。

 さしずめプログラムされた通りに襲撃する生物兵器か、あるいは、ゲームのモンスターそのものであるかの様な不自然さです。

 作品のメインテーマではないでしょうが、ある種のよくある異世界転生モノに対するアンチテーゼ的な印象を受けました。

 あとがきを見るに、Be-con先生は自分の好きなものを詰め込めるだけ詰め込むつもりのようですし、その項目の中に「ロボット」や「SF」という項目もありました。

 そういえば教会が使っている武器は古代兵器でしたね。

 おまけマンガの「幕間」でも何やら人知を超えた存在と思しきものが登場し、意味深長なことを言っていました。

 この漫画は舞台設定と、世界観の面でも大いに楽しめそうです。

 

 

 今巻での描写から判断するに、ヒナコがエイリスの前に現れたのは、エイリスが仲間に崖から突き落とされて殺されそうになり、捨てられたことに絶望した直後のようでした。

 エイリスが魔法の才能に目覚めたのもこの時の様子。

 これは、ヒナコがエイリスの心だけでなく、既に異世界を救っていた可能性すらありえますね。

 ヒナコと出会わなかったのなら、絶望したエイリスが世界を滅ぼすような存在になる展開もあり得たのではないでしょうか。

 物語はまだ始まったばかりですが、魅力的な2人のキャラクターに、何やら剣呑かつ怪しげな世界観に、ワクワクが止まりません。続きが楽しみです。