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お姉さまと巨人(わたし) お嬢さまが異世界転生2巻 感想その①


お姉さまと巨人 お嬢さまが異世界転生 (2) (青騎士コミックス)

 

 物語が進むにつれて、ロマン溢れるSF要素も段々と出てきました。

 そして、不穏でおどろおどろしい世界観もヴェールを脱ぎます。『お姉さまと巨人(わたし) お嬢さまが異世界転生』2巻の感想です。

 今回は感想が長くなってしまったため、感想その①とその②へ分割してあります。

 

マンイーターとカルラ。背中で語る姉の矜持

 第5話から登場したモンスター・マンイーター

 巨大な黒い球体から伸びる触手状の細い手足。極端なサイズの大口に、目鼻はなしというマンイーターのデザイン。このようなクリーチャーデザイン自体は、今日日珍しいものではないかもしれませんが、構図や、動かし方で不気味さが良く出ていました。

 シルエット自体は人型からかけ離れているのに、触手の先が5本指になっていて、人間に近い歯並びをしている点の不気味ポイントも高かったです。

 エイリスはこのモンスターを「大昔の人魔大戦で量産された」と言っていましたが、やはりモンスター・魔族は生物兵器なのですかね。

 2話の時点で自然の生き物にしては不自然な点がありましたが、今巻に入ってからSF色が強くなってきたせいで、ますます疑惑が濃くなってきた気がします。

 そして、このマンイーターに襲われている所を助けられた少女・カルラ。

 実際にはカルラを攫った人買いたちをマンイーターは襲撃していたわけで、このカルラはマンイーターを指揮する立場の魔王城関係者の様ですが。

 何やらカルラは自分自身に力がないにもかかわらず、上に立つ立場であることに思う所があるようで、巨人であるエイリスの姉を名乗る非力な人間のヒナコを色々と問い詰めていました。

 それに対してのヒナコの答えは、強いから、偉いから姉としての在り方があるのではなく、姉であるから妹のために自分にできる事をするのだというものでした。

 この言葉の重みが証明されるのが5話の後半の場面。

 ヒナコとエイリスが河原に作った露天風呂で入浴中、人買いとカルラを追って押し掛ける大量のマンイーター

 迷いなく飛び出しカルラを庇い、エイリスが苦戦する中、ヒナコは獣寄せの鈴を鳴らして囮になります。

 ヒナコに浴びせた質問の数々がカルラの頭をよぎる中、その最終的な答えとして、言葉ではなく、ヒナコの後ろ姿が映る演出が凄く綺麗でかっこ良かったですね。

 まさに背中で語る姉の矜持。

 ヒナコもかっこいいですし、絵も綺麗ですし、漫画の構成としてもとても美しい場面でした。

 これはカルラがヒナコに惚れてしまっても仕方がないという説得力のある表現でした。

 ヒナコを「お姉さま」呼びするようになったカルラと、お姉さまを独占したいエイリスの掛け合いも楽しいですね。エイリスはヒナコには言わないようなことをカルラに言ったりもしますし。エイリスの新しい一面を引き出すことも彼女の重要な役割だと思います。

 

コルネ氏族と伝説の白き巨神

 カルラを妹にする許可をもらうために、コルネ氏族の巨人の村を訪ねるヒナコ達。

 巨人の姉になったり、コルネ氏族と杯を交わして分流のキョウゴク氏族を創ったり、コルネ氏族と地元の郷士のパイプラインを繋いで採掘事業を立ち上げたりと、異世界に来てから2年程の間にヒナコは随分いろいろとやっているのですね。

 巨人は人間よりもかなり寿命が長いため、自分が死んだ後のエイリスの居場所を作っておくことこそが、ヒナコが巨人の氏族に入った理由であるようですが。

 この回で登場した2人の巨人。どちらも味のあるキャラクターでした。

 コルネ氏族の長で『最も思慮深き巨人』こと「お父さま」。

 その跡継ぎの『最も壮健なる巨人』こと「お兄さま」であるソニン・コルネ・ヂ・ズバ。

 ソニンは登場時の印象こそ悪かったものの、ヒナコのことを認めている様子や、だからこそ、他の巨人に壁を作って馴染もうとしないエイリスに発破をかける面倒見のよさが好印象でした。

 エイリスと喧嘩したことをヒナコに叱られた時に、彼女の笑顔に本気でビビっていたのには笑いました。いえ、正確に言えば、実力者の巨人を笑顔だけでビビらせるヒナコに笑ったというべきでしょうか。

 一方、一見人格者の「お父さま」の方は、自分でヒナコへ語って聞かせた仁義などは一切信じておらず、ヒナコとエイリスのことも家族だとも思っていない様子。

 エイリスを出しにして、言葉巧みにヒナコに復讐を諦めさせようとしていました。

 彼は2人を利用しようなどとしているわけでもなく、その目的は「伏龍を目覚めさせんようにする」ことでした。

 何やらエイリスの正体は伝説の『白き巨神』とのことで、それを従える影であるというヒナコの存在も含めていろいろと知っている様子。

 まあ、説得は失敗するわけですが、安易に利用しようとするのではなく、危険を回避しようとする辺りは「最も思慮深き巨人」の名に恥じない立ち回りだと思います。

 回想シーンでは、エイリスの居場所を作るために、巨人サイズの杯を一週間かけて飲み干して、最後は自分の吐いたものごと砂利を食べて凄みを見せつけたヒナコ。

 その彼女が、エイリスを出しにした説得にも一切耳を貸さないことで、その憎しみの強さが一際強調されていました。

 漫画の絵としても、ヒナコから滲み出た影の巨人が「お父さま」を見下ろしている構図が良かったですね。怖くて。

 

死に戻りの少年・吉沢武流(ヨシザワタケル)の末路

 ヒナコ達は『死に戻り』の祝福(チート)を持つ少年・吉沢武流(ヨシザワタケル)と出会います。

 『死に戻り』は本人が死ぬことで時間が巻き戻り、本人は殺される前の時間からやり直せるというまさにチート能力。

 ただ、この吉沢少年、危機管理能力が皆無です。憧れの異世界に来ることができたことに浮かれていた様子。

 そんな彼に、カルラは異世界人が活躍した時代は既に終わったのだと話します。

 死に戻りについても「この世界では攻略法が明確に知られています」とのことですが、死に戻りの細かい仕様などいろいろ気になります。後の場面のやり取りからすると、回数制限がある可能性も高そうですが。

 カルラの警告もむなしく、吉沢少年は質の悪い女冒険者の色香に騙されて、あっさりと拉致されてしまいました。

 売却先はカルラの言う所の「ハイエルフと呼ばれる森の人(エルフ)もどき」。

 このハイエルフ、体を機械化し、そこに生身の腕や足を何本も接続した異形の姿をしています。これらの腕や足は過去の犠牲者のもの。完全に異世界人を「資源」と見なしています。

 吉沢少年に、異世界人を利用する社会のシステムの解説をしながら、近づいてくるハイエルフ。

 少しずつハイエルフの狂気の全容が見えてくる演出が絶妙に気持ち悪かったですね。※誉め言葉です。

 干からびた腕を「取り立ての新鮮な腕」と取り換えたり、一目で異形とわかるシルエットだったり、大量の腕での身振り手振りの時点でも十分気持ち悪かったのですが、最後の顔がはっきり見えるバストアップの1コマがエグイです。

 様々な種類の狂気を幾重にも塗り固めた様なハイエルフの素顔。

 素顔が明らかになった直後のハイエルフのセリフだけ、文字のフォントがかわっているのも不気味でした。

 これは言った側のハイエルフの感情表現というよりも、聞いた側の吉沢少年の受けた印象の表現でしょうか。得体の知れないものの気持ち悪さは十二分に表現されていました。絵面の時点で十分過ぎますが。

 ハイエルフのインパクトには負けていましたが、解体人の男の淀み切った目も気持ち悪かったですね。

 

 

 ハイエルフの狂気の素顔。むき出しの脳髄と一緒に透明なカプセルに押し込められた大量の眼球は、「魔眼」のチートを選んだ異世界人のものでしょうか。

 狂気そのものの素顔に、機械と生身の継ぎ接ぎに大量の手足のついた異形そのものの身体。

 それらによる歪な外見を取り繕うことに頓着している様子もまったくありません。

 そしてこのハイエルフの「体の材料」から想像されるこれまでの犠牲者の数。

 これらの気持ち悪さや、胸糞の悪さと、それを見せつけられて自分の身に起きる事を悟った吉沢少年の絶望の表情に、悲鳴と、叫び。

 おどろおどろしい狂気と、悪辣な異世界の闇を分かりやすくまとめたハイエルフの登場シーンは、衝撃的でした。

 今回は感想が長くなってしまったため、感想その②へ続きます。

 

感想その②はこちらです。

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