お姉さまと巨人 お嬢さまが異世界転生 (2) (青騎士コミックス)
感想その①はこちらです。
王都に到着直後、墜落した宇宙船件現お城に、「前の世界でも珍しくなかったわ」と知ったかぶりの見栄を張った結果、エイリスとカルラに予想外の反応をされて慌てるヒナコに笑いました。
『お姉さまと巨人(わたし) お嬢さまが異世界転生』2巻の感想その②です。
樋高純子(ヒダカジュンコ)とセーブポイント。まさかの再会。
吉沢少年より遅れてダスメイニア王国の首都であるヴァン・ディーメンズにたどり着いたヒナコ達。
ハイエルフの物言いから何となくそんな気がしていましたが、ここは聖堂教会の勢力圏なのですね。
カルラと共に街中に潜入した大量のマンイーター。
エイリスへの差別と中傷。
読者目線だと既に吉沢少年の件がありますし、王都滅亡への伏線が積みあがっていくのを見ている気分でしたね。
いえ、むしろこの後の展開も含めて、「こんな王都は滅んでも仕方がないよね」という気持ちがだんだん大きくなっていく感じでしょうか。
ついに、ヒナコ達は吉沢少年の末路を知ることになります。
オークションの目玉、神器『セーブポイント』として物言わぬ姿をさらす吉沢少年だったもの。
一見すると取っ手付きの黒い箱。
カルラの証言によると、この中に『死に戻り』の異世界人の脳髄と心臓だけが詰め込まれていて、禁呪で無理やり生かされているのだとか。
禁呪によって使用者の命とセーブポイントの中身の命を紐づけることで、使用者が死んだときに『死に戻り』が働くとのことです。
取っ手付きの箱の無機質な質感が、片手で持ち運べそうなコンパクトさが、吉沢少年の人間性を否定しているかのようです。
たしかに、『死に戻り』を完全に攻略していますね。それどころか加工して利用することすらこの王都の人たちには当たり前のことであると。
王都の人々は、この非道を知らないのではないかという読者の疑問に、大量の異世界人の干し首の一般公開で答えるという至れり尽くせり。※干し首は祭りの展示品で手製のアクセサリーとのことです。
ヒナコとエイリスもついに闘うことを決断。王都壊滅まで秒読み開始。
と思った所で、善良な家族連れが眼前を通過。ヒナコはこの国を滅ぼして吉沢少年を救出することを断念します。
そのまま話が終わると見せかけて、この状況で、このタイミングで、王都の中で、ヒナコの「お姉さま」である樋高純子(ヒダカジュンコ)とまさかの再会。特大の火種が投下されました。
おまけにこの『お姉さま』、セーブポイントを落札した模様。その正体を知らないということはないでしょうし、相変わらずの下衆、外道ぶり。
この7話は読んでいて、いろいろな感情が乱高下しましたね。セーブポイントの件だけでも衝撃的でしたが、まさかのこのタイミングでの『お姉さま』との再会。畳みかけてきます。
本当にストーリーの構成と、漫画としてのテンポの良さが素晴らしいです。
女神『ティオス』とチートコード。SFと異世界ファンタジー。
1巻のあとがきでSF要素が匂わされていましたが、今巻で一気にSF色が溢れてきました。
特に4巻冒頭の世界樹。シルエットが完全に軌道エレベーターです。しかもその直下が魔王城。
ファンタジーで世界樹と来れば、森の人・エルフと関係していることも多いですね。
1巻・3話で登場したエルフの冒険者は、現代の日本での一般的なエルフ像に当てはまるものでした。
ただ、それだけだと、ハイエルフがエルフもどき扱いされる理由が不明です。
ハイエルフは化け物じみた歪な人体改造者でしたので、もっと王道のサイバネティックな人体改造をしたサイボーグエルフでも登場するのでしょうか。部分的な機械化による人体の拡張路線か、ナノマシンによる強化路線もあり得ます。ワクワクしますね。
そして、SFと言えば、ヒナコの転生時の回想シーン。
冷たい目をしたヒナコが、女神『ティオス』が目の前に展開したチート一覧の立体映像をすり抜け、そのまま女神像のホログラムも付きぬけて歩いて行く場面が衝撃的でした。
いかにも作り物めいたホログラムであることが露呈した瞬間の映像が乱れた女神のビジュアル。
転生チートを授けるという超常的存在の筈が、転生者に想定外の挙動をされるとあっさりと正体が露呈し、何もできないという作りの雑さ。これにはこのシステムを作った存在の異世界人への侮りを感じました。
しかし、なによりも、目の前の超常的存在にも、その正体にもノーリアクションのヒナコ。
自分が行くのは地獄の筈だから「アナタを『かみさま』とは思えないのです」と言うヒナコ。
筋の通った信仰と、覚悟と、悲しみを抱いて歩き去っていく彼女の暗く冷たい表情と後ろ姿の壮絶さ。
転生直後の彼女の心持を想像させられるこの後ろ姿と、回想場面明けになんでもないようにその時のことを話す様子の落差に、エイリスとの出会いでヒナコもまた救われたのだろうこと等を色々と想像させられました。
ヒナコと「かみさま」。
女神『ティオス』のエピソードと一緒に、ヒナコの宗教観というか、『かみさま』観とでも言うべきものも語られていました。
万物に宿る精霊を信仰するアニミズムと、ニンゲン(亜人などを含まない現地の人族)にとって都合のいい聖堂教会の唯一神の構図に当てはめて、カルラはヒナコの信仰は前者と同じであると言っていました。
ヒナコはミッション系の学校出身の様なので、どちらかと言えば一神教だと思われますが、これは単純にアニミズムか唯一神か、多神教か一神教かという話でもなさそうです。
社会を支配したり、組織を運営したりする側にとって便利な方便としての神様と、純粋な信仰の向かう先としての『かみさま』の違いの話であるのだと思います。
突き詰めれば、ヒナコのチート受け取り拒否は、信仰を道具として利用する相手、1巻でヒナコが言っていたところの「仁義なきもの」の思惑に、純粋で真っすぐな彼女の信仰が勝利した場面と言えるのかもしれません。
その結果、ヒナコへのチートコード埋め込み失敗や、チート二重取りのヒダカジュンコというバグキャラクター誕生といったイレギュラーも起きています。
これらが、異世界人を召喚している黒幕的存在や、利用している組織にどのような影響を与えるのか、今後の展開が楽しみです。
チートコードを受け取らなかったゆえにヒナコが持つという「正規コード」とやらの正体が気になります。
巻末おまけでの装備公開。ヒナコの持ち物がセーブポイントの攻略、場合によっては吉沢少年の救出に使えそうで、次巻の展開が気になりますね。
もしも「あれ」が体の欠損を再生できる様な回復アイテムであるならば、ヒナコの左手がそのままである理由が不明ですが。
ヒダカジュンコの聖剣の名前も、彼女の今後を暗示している様な気がしてわくわくします。
カバー裏の姉妹の日常も面白かったですね。