社会派のお仕事マンガとしても、コメディーとしても、一級品の『ハコヅメ~交番女子の逆襲~』。
電子書籍版の単行本で追いかけていた私にとっても、今月に発売した23巻で第1部が完結となりました。
『ハコヅメ~交番女子の逆襲~』をご存じでない方はこちらの記事に簡単な説明がありますので、宜しければご覧くださいませ。
こちらが本編。
こちらが別章アンボックスです。
ハコヅメは漫画紹介の記事のみで、これまで感想を書いていなかったのですが、第1部を読み切っていろいろ吐き出したくなったのでこのような形にさせていただきました。
ネタバレに注意
以下、『ハコヅメ~交番女子の逆襲~』本編と、外伝である『ハコヅメ~交番女子の逆襲~別章アンボックス』のネタバレを含みますのでご注意ください。
ハコヅメ~交番女子の逆襲~(23) (モーニングコミックス)
ハコヅメ第1部・最終章「あなたとサヨナラする前に」感想
最後のロングシリーズである「あなたとサヨナラする前に」。お仕事マンガとしてのハコヅメの最終章にふさわしい内容でした。
内容が重たくて、理不尽で、事件の後味も悪くて、コメディーとして笑い飛ばすことはとてもできませんでしたが。
源部長が無理を続けている痛々しい状態のまま話が進む上に、「いつかの退官式には桜を囲んで笑い話にできたらいいな」なんて、いかにも「それ」らしいことを言っていて、シリーズタイトルを見返したりしながら、まさか殉職するのではないかと、ひやひやしながら読んでいました。
「隕石様ココに落ちて俺を吹き飛ばしてください」の件のやり取りも、コメディーパートの様なノリでも、全然コメディーじゃなかったですしね。激務に次ぐ激務に加えて、理不尽で後味の悪い事件に、さらにとどめの理不尽を上乗せされた後でしたので。
本編から隔離されて別章あつかいだった「アンボックス」を彷彿とさせられる内容でした。
「誰かがやらなきゃいけない仕事」の報われなさと、それでも現場で頑張る人たちの姿が、生々しくも、格好良く描かれていました。
事件の描き方にしても、いわゆる神視点も挟んで真相や、話の筋を分かりやすく描くのではなく、証言や物的証拠からしか真相に迫れない現場の警察官の視点で描くことが徹底されていて、一貫したこだわりを感じました。
その上で、セリフの中の言い回しや、事件の捜査とは別に挟まれるほんのわずかな神視点で、何が、誰が、ただでさえ理不尽な事件にこんな不条理な結末を引き起こしたのかがはっきりとわかる様に描かれていて、構成力が素晴らしかったです。
特別描き下ろし!ハコヅメファミリー
この読み切りは、「本編の最後のサプライズ」でもぬぐい切れなかった後味の悪さをだいぶ緩和してくれました。
想い人に会いたいあまり、警察無線の電波に乗せて馬鹿なことを言うイケメン刑事と、交番初心者の新人でも突っ込まずにはいられないそのボケを流しきれず、赤面する川合巡査。
サボることに無上の喜びを感じるという伊賀崎部長でさえも、笑顔で応援を断るという事態に笑いました。
そして、1話の藤部長の空き巣検挙と同じ流れで、窃盗犯を追い詰める川合巡査。
登場人物の成長の表現として、過去の焼き直しの場面を使うのはよくある手法ですが、単純な成長とは少し違ったベクトルで、すっかり警察官に染まった川合巡査を描いているのが面白かったですね。
牧高さんも幸せそうで良かったです。最後の事件は本当に救いがなかったので。
そして、結婚式のブーケトスさえも「競技」にしてしまう岡島県警女性警察官たちの図にも、笑わせていただきました。
真剣なまなざしと、各々のポージングが、ずるいくらいに面白かったです。
ドタバタした面白い感じのまま、読了に至れたのが幸せでした。
最後まで満足感の塊。そして、続編へ
登場人物に人間味があって、その上でコミカルな楽しさもあって、セリフの掛け合いや、話の展開のテンポも良くて、この漫画は本当に最初から最後まで面白かったですね。※あくまで現状は第1部完結ですが。
その上で、社会派のお仕事マンガとしてのクオリティーも素晴らしかったです。
「現場の警察官」の立場や、「男組織の中での女性警察官」の立場といったどの視点で物を言っているのかを明確にしつつも、簡単に解決できない現実的な問題の存在や、他の立場や、視点での考え方もしっかりと描いて、できる限り公正にまとめようというバランス感覚が素晴らしかったです。
1つの視点から一方的に反対の立場をたたいたり、公正さを大事にするあまり俯瞰視点に寄り過ぎたり、ましてや、綺麗ごとのおためごかしに終始して中身が薄くなることもありませんでした。
どの立場からのどのような主張であるかは誤魔化さずにはっきりと描き、その上でできる限り公正であろうという熱意と、誠実さを感じました。
最後まで読み終わってから、1話と「ハコヅメファミリー」を比較したり、色々な巻を読み返したりしましたが、初期と現在とでだいぶ絵柄が変わりましたね。
初期はコメディー調のエピソードが多く、後半に行くほど、シリアス調のエピソードが増えて行った印象ですが、ロングシリーズでも随所に笑いをちりばめてあって、中弛みもなく、本当にバランス感覚と、構成力が凄い漫画です。
12巻・99話の「いざ、聴取へ」なんて、1話目から伏線を張っていたロングシリーズで、ようやく事件解決への目星がついた矢先に、缶コーヒー1つであそこまでグダグダになるとは思いませんでした。あれには本当に笑わせていただきました。
外伝の「アンボックス」と、今回の「あなたとサヨナラする前に」は流石に笑えませんでしたが、こちらはその分、社会派の漫画としての読み応えと、衝撃力が凄まじかったです。
本当に、本当に最後まで素晴らしい漫画でした。
第2部を楽しみに待っています。
23巻末の「泰三子氏新連載情報」の文章のニュアンスを見る限り、新連載はどうやらハコヅメ第2部ではないのでしょうか。
すぐにも第2部を読みたい気もしますが、新連載も新連載で楽しみに待っております。
泰三子先生素晴らしい漫画をありがとうございます。
後日追記
新連載でました。