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狐のお嫁ちゃん5巻 感想


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 旦那さんの同級生だったサダさんがマンションの隣の部屋に引っ越してきました。

 サダさんとお嫁ちゃんのコンビが楽しい狐のお嫁ちゃん5巻の感想です。

 

恐らく一番年上で、かつ、一番若い。

 山奥の射撃場で、エアライフルの大会に参加したお嫁ちゃん。

 中年以上の男性の参加者が圧倒的多数の中、「えっこちらの若いお嬢さんが!?」というリアクションをされました。

 「お若いお嬢さんじゃと~~♡」と嬉しそうにするお嫁ちゃんに、「絶対この中で一番年上だけど」と心の中でつぶやく旦那さん。

 しかし、これ、両方間違っていない気がするのですよね。

 化け狐のお嫁ちゃんは元禄生まれのだいたい330歳(1巻・2話)とのことでしたが、これを人間の年齢に換算すると、周りの参加者のおじさん達よりは間違いなく若いはずです。「お兄さん若いね」と言われていた旦那さんよりも若い可能性も高いのではないかと思われます。

 実年齢が一番上なのに、恐らく一番若いお嫁ちゃん。このような感覚のねじれ現象も、人と妖怪が一緒に暮らす様な、非日常の世界と、日常の世界が重なりあう物語の醍醐味だと思います。

 ファンタジーでも、SFでも、この漫画のような現代異類婚姻譚でも、こういうのは好きですね。

 

山の怪と道の駅での恐怖体験

 キャンプに来た先で山の怪異に行き会ったお嫁ちゃん達。

 突然の濃霧の中、大量の木の実が降り注ぎ、季節外れの山桜の花が咲き誇ります。

 山奥では時折、異界との狭間である”裂け目”ができることがあるという説明でしたが、神隠しの危険を他所にはしゃぐ旦那さんは筋金入りの研究者ですね。

 狭間の霧の中で、旦那さんが年老いてしまった幻を見たお嫁ちゃんは今まで見たことのない様な表情でした。

 この漫画ではあまりなかったホラーなシーン。

 幻である事には気が付いていた様でしたが、それでも動揺の仕方が凄かったですね。

 長寿の化け狐ゆえに、いずれ旦那さんが自分を置いて先立ってしまう未来を危惧しているのでしょうか。

 何とか無事に帰還したものの、異界では時間の流れが異なるせいで、出勤時間に間に合わないことに気が付くという現実的何だか、非現実的何だかわからない恐怖でオチとなりました。

 道の駅で朝食をとりながら、この事実を聞かされた旦那さん。

 最後のコマで、旦那さんが朝食に七味唐辛子か何かをかけながら、顔を青ざめさせていましたが、動揺のあまり、七味唐辛子が山盛りにならなかったかが気になります。

 

お嫁ちゃんとサダさん

 お嫁ちゃんと旦那さんが暮らすマンションの隣の部屋へと引っ越してきたサダさん。

 隣の部屋に偶然越してきたり、出がけのゴミ捨てでばったり会ったと思ったら、同じ日に旦那さんの職場の文化資料館を訪ねてきたり、この漫画じゃなかったらストーカーを疑う遭遇率ですね。

 サダさんは目元がオールドイングリッシュシープドック並に隠れている上に、口元は笑っている感じの表情が多いせいか、雰囲気が独特。

 化け狐のお嫁ちゃんと並んでいると、どこか妖怪的な気配を感じるのは私だけでしょうか。

 お嫁ちゃんはサダさんと仲良くなって、イラストレーターの彼女のために全ケモで絵のモデルになったり、旦那さんが仕事に言っている時間にパソコンの使い方を教わったり、夏コミ参加を手伝ったりと、積極的に交流している様です。

 妊婦であるサダさんが夏コミに参加するために、お嫁ちゃんの母上の妖術ワープを使っているのには笑いましたが。

 旦那さんとお嫁ちゃんの後ろでカートを引きながら、空間の裂け目をくぐっていくサダさんの姿が面白すぎます。

 小さい絵の1コマでしたが、サダさんが驚いたり、慌てたりしている様子は見られず。順応力お化けですね。

 お嫁ちゃんの母上がサダさんの絵を気に入ったという話も気になりますし、この場面をもっとじっくり見たかったと思ってしまいました。

 

お嫁ちゃんと情報化社会

 ローマ字入力をマスターしてすっかりパソコンに嵌まってしまったお嫁ちゃん。

 一晩ずっとパソコンに夢中で、翌朝、全ケモ状態でパソコンに向かっていたのは画が面白かったですね。

 言葉を発さない全ケモ状態での旦那さんとのコミュニケーション。徹夜を誤魔化そうとしたのか、それとも、別のニュアンスを含んでいたのか、謎のかわいい顔での返事も面白かったです。

 かわいい顔で返事をしたのではありません。かわいい顔が返事だったのです。上手く言語化できませんがそこが面白かったので。

 「これなら家から一歩も出ずに生活することも可能であろうな」と言っていたお嫁ちゃんの頭を冷やしたのは、サダさんの言葉でした。

 五感を通して得られる感情は、自分だけの持つ表現の源泉だと言う彼女。ネットを通して何かを見ても、「本物は情報量が違う」とのこと。

 彼女の言葉と共に夕日を見たお嫁ちゃんは、四季が移ろうかすかな機微に自分が感じるものの大切さを思い出したのでした。

 サダさん程クリエイティブな感じのものではありませんが、似たようなことを考えたり、経験したりしたことはありますね。

 夜道を歩いていて、満月が綺麗だったので写真を撮ろうとして、何度やっても「肉眼で見た綺麗な満月」の写真が撮れないなんてこともありました。

 夕焼けが綺麗で写真にとっても、空の広さや、黄昏の時間の何か特別な感じのする空気までは写真に収めることができなかったということもありました。

 ただ、作中でも言っていた通り、それはそれとして、ネットを始めとした現代テクノロジーは便利なのですけどね。調べ物も楽ですし、本格的に調べる前の何処から手を付けるかの参考にしたりもできます。

 全てを記録することはできなくても、写真に残しておけばその時のことを思い出すきっかけになったりもしますからね。

 

 

 夏コミのエピソードでは、田端さんにケモ耳を装着させられた笹山さんの表情が良かったですね。

 表情だけでも面白いのに、その後のチベットスナギツネに似ていると言われて、もっとチベットスナギツネみたいになる笹山さんには笑いました。

 この2人の組み合わせもやはり面白いです。