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令和の世を生きる祟り神、戸惑う : 令和のダラさん レビュー


令和のダラさん 1 (MFC)

 

タイトル:令和のダラさん

  作者:ともつか治臣

  年代:2022年~

  巻数:既刊3巻

 

あらすじ・概要

 ある片田舎の豊かな山にある集落跡。

 現在では柵で厳重に隔離された区画は、古来より伝わる忌み地であり、興味本位での人の立ち入りを避けるために、「私有地」というシンプルな理由で封鎖されています。

 その山奥に蠢くのは、凄惨な由来を持つ祟り神。

 「見れば障り、穢せば祟る。詳しい文献もなく、町の古い家系に口伝がわずかに残るのみだが、確かにここに息づくそれを知る者には、屋跨斑(ヤマタギマダラ)そう呼ばれていた」。

 そんな恐れられる祟り神であるはずが、ある嵐の日にこの怪異に出会った2人の子供は、怪異も呆れるほどの胆力の持ち主でした。

 霊的に安定した現在、すっかり生真面目な常識人になってしまった祟る系怪異のお姉さんは、今日も怖いもの知らずの2人に振り回されるのでした。

 シリアスパートとコメディーパートの寒暖差の激しいホラーコメディーです。

 

人格者過ぎる祟り神と、怖いもの知らず過ぎる子供たち

 この漫画は祟り神・屋跨斑(ヤマタギマダラ)ことダラさんと、彼女になつく怖いもの知らずの子供2人のおもしろおかしな会合を描くコメディーです。

 とにかくコメディーパートが面白く、生真面目なダラさんが突っ込みを入れずにいられない言動ばかりする子供2人をはじめ、愉快な登場人物が多く登場します。

 一方で、毎回の導入部分で屋跨斑の伝承や、ダラさんが祟り神になるに至った凄惨な過去が語られる等、シリアスでグロテスクな生々しさのある描写もあります。

 そして、この漫画の話をする上で伝えておきたいのが、画面のクオリティーの高さです。

 単純な絵の上手さ、背景の描写の細やかさ、分かりやすくかつテンポの良いコマ割りや構図、吹き出しや文字のフォントの使い分け、雰囲気のある描き文字、その他漫画ならではの表現技法の重ね技。

 それらを駆使した総合的な「漫画の画面」としてのクオリティーの高さが素晴らしいです。

 思わずうなってしまう様な上手さと、軽快な読みやすさと、弾むような楽しさを合わせ持っています。

 先に話した通り、この漫画はシリアスパートと、コメディーパートでかなりの寒暖差があるのですが、前者は怖く・おぞましい雰囲気で、後者はテンポよく楽しく賑やかな画面。

 どちらも濃いのですが、ゴチャゴチャしてわかりづらくなったり、くどくなったりはしていません。どこまでもいい意味で画面密度の濃い漫画です。

 山奥在住ゆえに、ところどころ現代文化に疎いダラさんのいろいろな初体験。

 胆力があり過ぎて自由過ぎる2人の暴走。

 未だにその存在を知る者たちに恐れられる屋跨斑と、子供2人に振り回されるダラさんのギャップ。

 他にも面白い展開と、シチュエーションが盛沢山で笑えます。

 おまけページにある文章でのキャラクター紹介までもが面白いです。

 

ネット掲載版と商業版・単行本の違いについて

 『令和のダラさん』は元々、ネット掲載漫画として公開されていましたので、ネット掲載版と、商業版の違いについても少し触れておきたいと思います。

 まず、明確に違う点として、ダラさんの怪異としての名称が「屋跨斑」に変更された点。

 これはネット掲載版ではダラさんの元ネタとなるネットロアの名称をそのまま使っていたため版権的な理由の様です。

 そして、物語の内容で大きく違うのはシリアスパートであるダラさんの過去編です。

 凄惨な過去である点は変わりませんが、人間の巫女だったダラさんが、祟り神・屋跨斑になるに至った経緯と、関係者の人間模様が大分変更されています。

 そして、商業版になった際に大幅にページ数が増えた分、ギャグやコミカルパートも大幅にアップグレードされています。

 1巻の時点では、エピソードや、大まかな展開自体はネット掲載版と同じなのですが、ページ数が増えた分以上に笑える場面がパワーアップしています。

 完全追加のギャグシーンはもちろん、大幅にバージョンアップしたシーンや、変更点は細かくともテンポや、ギャグのキレが段違いな場面なども多々あります。

 ネット掲載版を読んで面白いと思った人には、商業版も読むことを強くお勧めさせていただきます。

 

こんな人にオススメです。

  • 人間と人ならざる者の関わりや、現代での妖怪の生活などといったテーマが好きな人。
  • ネット掲載版を読んで面白いと思った人。

 

こんな人にはオススメできません。

  • 妖怪バトルや、本格的な怪異譚を読みたい人。※この漫画はギャグマンガです。
  • グロテスクが苦手な人。ダラさんの過去のお話は血なまぐさい上にかなりドロドロしています。