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陰のある笑顔、心からの笑顔 : 天使にさようなら 山うた短編集 レビュー


天使にさようなら 山うた短編集

 

タイトル:天使にさようなら 山うた短編集

  作者:山うた

  年代:2021年

  巻数:全1巻

 

あらすじ・概要

 「兎が二匹」や「角の男」の山うた先生が贈る短編作品集です。

 会社に使いつぶされる41歳魔法少女の現実と、心に秘められた想い「クレイジーミント」。

 笑顔を矯正される少年と感情豊かな少年が出会う「スマイルギプス」。

 一番大切な人の存在を認識できなくなっていく「まなみは僕のそば」。

 宗教で金儲けをする養父母によって、現人神にされた姉と、そんな姉との間に溝ができてしまった妹「天使にさようなら」。

 研究者(ストーカー)・間戸が主人公の「[兎が二匹]番外編 間戸、有給を消化す」。

 兎が二匹の番外編も合わせて全部で5つのエピソードを収録。

 温かくも切なく心を揺さぶる物語ばかりです。※番外編の1話は特に温かくも切なくもありません。

 

濃淡と陰影、表情の描き分けに感じるこだわり

 読者の情緒を激しく揺さぶり、感性に問いかけてくる山うた先生の短編作品集です。

 短編作品であるため、『兎が二匹』などの長編作品に比べると、じっくりと登場人物の背景を掘り下げる手法は使われておりません。

 そのため、読者の感受性や、読解力が試される場面もありますが、他の山うた先生の漫画で泣けた人や、一般的な漫画を読みなれている人ならば問題ないでしょう。

 その物語で「描くべきこと」以外の部分が大分ファジーなのは相変わらずなので、細かい矛盾や、世界設定の説明不足がどうしても気になってしまう人には向いていない漫画です。

 また、『兎が二匹』をまだ読んでいない人にもオススメできません。この短編集には兎が二匹の番外編も収録されていますが、それを読んだ前と後で、本編に登場する「とあるキャラクター」の印象が大分変ってしまいます。

 兎が二匹本編のシリアスな空気が台無しになってしまう可能性があるので、興味のある方はまず兎が二匹の方から読むことをお勧めさせていただきます。※どうしてもこちらから読みたいという人は「[兎が二匹]番外編 間戸、有給を消化す」は『兎が二匹』を読み終わるまで読まないようにしましょう。

 

『兎が二匹』についてご存じでない方は、こちらの記事に簡単な説明がありますので、宜しければご覧くださいませ。

www.iiisibumi.com

 

 

 注意点が多くなってしまいましたが、泣ける短編漫画が読みたいという人や、山うた先生の他の作品が面白かった人にはオススメです。

 各話の共通点として、不幸な人・心に傷を抱えた人が、誰かに救われる、あるいは、自分の力で幸せを勝ち取る物語となっています。

 どの話も、心が温かくなると同時に切なくもなる様な、不思議な余韻がありました。

 顔にかかる影や、部屋に差し込む光といった明暗の表現描写が相変わらずいい味を出しています。

 これらは心情描写のための演出にも使われていますが、何気ない場面のコマにも光と影が書きこまれていて、全体を通してコントラストに山うた先生のこだわりを感じました。

 笑顔を始めとした表情描写にも独特の味わいがありますね。

 1つの物語辺りのページ数が少なく、情報量も少ない短編作品なので、気になる背景の設定や、物語のその後がどうなったのかが語られるおまけページ「キャラクター設定」があるのがありがたかったです。

 

こんな人にオススメです。

  • 『兎が二匹』が好きな人。
  • 感性を揺さぶってくるような漫画を短編で読みたい人。

 

こんな人にはオススメできません。

  • まだ『兎が二匹』を読んでいない人。
  • 物語の舞台の世界設定の齟齬や、細かい疑問点がいつまでも頭に残る人。