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父さんな、デスゲーム運営で食っているんだ2巻 感想


父さんな、デスゲーム運営で食っているんだ(2) (角川コミックス・エース)

 

 突っ込みどころ満載の世界観と、勢いのある展開が笑いを誘うコメディー。

 『父さんな、デスゲーム運営で食っているんだ』2巻の感想です。

 

法律に則った正しいデスゲームとは!?

 愛娘の美咲と、その親友である梨々香ちゃんと共にショッピングモールへ来た黒崎部長。

 満面の笑みの梨々香ちゃん。そんな彼女の笑顔を見届けて、彼女はもうデスゲームに巻き込まれることはないだろうと、娘とその友達との平穏な時間を幸せに思います。

 と思った次のページで、ショッピングモールのモニターの大画面に、不審なマスク男が登場。

 銃器で武装した犯人たちがショッピングモールを占拠し、デスゲームの開催と、この場にいる人間は強制参加だと告げます。

 黒崎部長が悪いわけではないですが、舌の根も乾かぬうちにと言いますか、それまでの平穏さと、物騒な展開のギャップが凄いですね。見開きでの場面転換の勢いで笑わせられます。

 一般客同士で殺し合いをするように誘導する犯人たちに、臆することなく「これは法律違反だぞ!」と告げる黒崎部長。

 デスゲームモノの導入としては、突然で理不尽な強制参加はありふれている気もしますが、この世界ではアウトらしいです。主に法律的な理由で。

 曰く、「デスゲーム法第3条で開催場所は事前の申請と開催三日前からの告知が必要なはずだろう!そんな看板は何処にも立っていなかった!」とのことですが。

 普通のデスゲームモノだったらそれこそ問答無用で撃ち殺されそうな態度ですが、黒崎部長の気迫と、具体的過ぎる指摘に気圧される犯人たち。

 そして、黒崎部長の怒涛の指摘。

 困惑する犯人たちと、一般客たちの見開き画面を背景にして、コマごとに異なる謎のアクション&ポージングと共に、具体的な問題点の指摘と、それがデスゲーム法の第何条の第何項に違反するかを列挙していきます。

 もう完全に勢いで笑わせに来ていますね。「デスゲーム法」という突っ込みを入れたくてたまらなくなる法律はともかくとしても、そのポージングはなんなのでしょうか。

 私は負けました。この勢いで完全に笑ってしまいました。

 銃を突き付けて黙らせるも、ドン引きしている犯人たちに対して、相手を同業者だと思い込んで、本当に善意で指摘してあげたつもりだった黒崎部長の勘違いも面白かったです。

 

美咲の危機。伝説の男の逆鱗に触れる無免許デスゲーム運営!!

 ようやく相手が無免許のデスゲーム運営であることに気が付いた黒崎部長。

 警察へ通報しようとしたものの、電波妨害により失敗。

 ならばと、別行動中だった娘たちを探そうとした矢先に、娘たちがデスゲームのルール上の救出対象「クイーン」として犯人たちに囚われていることが判明。60分後の殺害が予告されてしまいます。

 犯人たちは業界の生きた伝説の逆鱗に触れました。

 どんな場所でもデスゲームのシミュレーションをしてしまう職業病により、娘たちが拉致されているポイントを正確に予想。

 通常回線とは違う自社開発技術を使ったデスゲームアプリを通して、会社に連絡。

 本人も、部下たちも、業界最大手会社で働くデスゲームのエリート。緊急時対応が迅速な上、手馴れています。

 偶然出くわした犯人の1人をあっさり制圧すると、その無線機から犯人たちへ宣戦布告。

 普通のサラリーマンが組織犯罪にいきなりこんな対処ができてしまったら、いくら何でもご都合展開すぎますが、実際にそれが出来ておかしくない背景がありますからね。

 ただ、その背景が、デスゲームが合法化された世界における業界最大手デスゲーム運営会社であることを考えると、笑えてしまいます。

 本当に無茶苦茶な世界設定と、それを活かした漫画演出、画面のクオリティーのバランスが反則的です。変な化学反応を起こしています。

 分かりやすく笑わせに来ている場面はもちろん、シリアスな場面や、特にシリアスにもコミカルにも寄っていない場面でも、少し見方を変えるだけで面白いのですよねこの漫画。

 

運営狩りゲーム FATAER社 VS MASK(違法デスゲーム運営)

 FATAER社所有の戦車がショッピングモールの壁を破壊し突入。戦車です。重機などではなく、戦車です。

 日本国内で、合法企業が犯罪組織に、武器の質でも量でも勝っているというカオスな状況。いえ、カオスなのは状況ではなく世界設定と世界観でしたね。それに武器どころか兵器でした。

 犯人たちを正論(※この世界観における)で殴りつつ、物理的にも制圧していくFATAER社の社員たち。

 暴力を振りかざして理不尽の限りを尽くす調子に乗った悪人たちが、やっつけられる場面というものは、本来ならば胸がすくものです。

 この漫画の場合、デスゲームが合法化された社会やら、合法デスゲーム運営会社やらの世界設定のせいで、胸がすくよりも前に、社員たちの言葉に突っ込みを入れたくなりますね。

 「デスゲーム外の殺人は犯罪ですよ」と大真面目な顔で言ったり、違法デスゲームの開催を正規のデスゲームのコピー商品に例えたりしていますが、大真面目な顔でどっちがまともかという話をされると、どっちもまともじゃないと言いたくなります。

 突っ込みと変な笑いが止まりません。

 部下たちの無双の締めくくりに、黒崎部長で綺麗にオチがつくのも良かったですね。出オチネタで笑いをとりつつ、しっかり実力と格の違いも見せつけた上で決着。

 面白かったのはもちろん、すっきりする終わり方でした。

 

この漫画最大の突っ込み所について。

 この漫画は世界設定も、ストーリー展開も、ギャグもかなり勢いまかせである感じがしました。

 ただ、本当に勢いしかないのではなく、むしろその勢いで全体のバランスをとって面白い漫画として完成させている気がします。

 「デスゲームが合法化された近未来の日本」という世界設定だけなら似たものは他にもありそうですし、デスゲームモノはだいたい倫理観が狂ったり、壊れたりしている世界観になりがちです。

 この漫画の最大の突っ込み所は、「デスゲームが合法化された近未来の日本」であるにもかかわらず、その一点以外は私たちの社会とそれほど違わないものとして描かれているその世界観です。

 そうすると、今度はなんでそんなアンバランスな社会になったのかという部分が気になります。

 それをあえて放置することで、物語全編を通して、読者が突っ込まざるを得ない世界観を作っているわけですね。

 真面目なSF作品などでしたら、完全に世界設定の説明不足。しかし、この作品はコメディーです。だから許されます。

 喉に刺さった小骨の様に、微妙に気になる世界観の違和感を残したまま、勢いのある展開とギャグで強引に押し進め、逆に世界観の違和感を笑い所として成立させてしまうという離れ業。

 世界観そのものが狂っているからこそ、シリアスなシーンも少し見方を変えると笑い所になります。

 この様な場合も、シリアスなギャグと言っていいのかは分かりませんが、原理は同じ気がします。

 何で真面目な場面であんなに笑えたのか、自分自身で気になっていたので、うまく言語化できた時はすっきりしました。

 

 

 漫画担当のいなほ咲貴先生は、これが初めての連載&単行本と知って驚きました。

 単純な絵の上手さも、勢いを活かしつつも決してそれだけではないクオリティーの高い画面構成もとても素晴らしいものでしたので。

 この漫画は単発の笑い所も面白いですが、全体を通しての面白さは繊細かつ絶妙なバランスで成立しているものなので、絵のクオリティーが落ちると途端に白けたりしてしまいそうですし。

 不意打ちの見開き絵の破壊力に何度も笑わされました。これも絵のクオリティーがあったからこそ笑えたのだと思います。

 とても笑えて面白かったです。