【推しの子】 1 (ヤングジャンプコミックスDIGITAL)
タイトル:【推しの子】
年代:2020年~
巻数:既刊15巻
あらすじ・概要
宮崎県のとある病院に勤務する産婦人科医・ゴローは重度のアイドルオタク。
そんな彼の元にある日受診してきたのは、彼が推していたアイドル・アイでした。
アイドルが16歳で妊娠・出産なんて世間に知られれば、事務所もろとも終わりです。
それでも「家族」というものに憧れ、出産を強く望むアイ。
推しアイドルの妊娠に衝撃を受けるも、母としての幸せと、アイドルとしての幸せの両方を掴むと、眩しく微笑むアイの姿に、ゴローは医者としてできる限りのことをすることを誓います。
しかし、アイの出産予定日に病院に現れた不審者を追いかけたゴローは、帰らぬ人に。
死んだはずのゴローが目を覚ますと、彼はアイの子供に転生していました。
推しのアイドルの子供に生まれ変わるという転生モノであり、芸能界の実情と闇を生々しく描いた業界モノでもあります。
そして、これら以外にもさらに別の側面も持っており、読者を飽きさせません。
転生モノとしてのドラマ、芸能界の裏側、他にも魅力が盛沢山
この漫画は「生まれ変わり」を物語の中核に組み込んだいわゆる転生モノであり、アイドルのアイの子供である双子の兄妹はどちらも前世の記憶の持ち主です。
元成人男性として葛藤する兄と、ドルオタとしての欲望に忠実な妹というドルオタ乳児2人のやり取りと、巻き起こすあれこれは笑えます。
また、前世の人生での2人の物語が、今生の双子の物語に大きく関わってくるだろう伏線が1巻の時点から張られていて、その後の展開にいやが上にも期待が高まります。
前世の記憶を持つ主人公で、しかも今生の母が前世で憧れていたアイドルという時点ですでに十分面白そうですが、この漫画はこれだけではありません。
華やかな芸能界の裏側や、業界の諸事情をかなり生々しく、毒々しく描いた芸能界漫画であり、魅力的なキャラクターが入れ代わり立ち代わりに、それぞれの目線で物語を語る群像劇めいた面白さもあります。
さらには、ミステリーとしての顔や、サスペンスの様な緊迫感のある場面もあり、アイの子供である双子を中心とした全体を通しての物語と、各章ごとに芸能界のいろいろな現場を描く物語が同時に進行します。
1巻で描かれる第1章は双子の幼少期を描くプロローグ。
第2章は双子の高校受験のタイミングからスタートし、それぞれの動機で芸能界に関わっていく双子を中心に、章ごとに芸能界の様々な現場と、業界の体質や、問題点をかなり生々しく描いています。
そして、様々な事情や、思惑の中で、それぞれの立場で苦悩したり、必死に足掻いたりする人間の熱いドラマが描かれます。
メインとなる双子の物語と、各章ごとの物語がそれぞれ面白く、ストーリーの進行にも、漫画の表現にもメリハリがあり、魅力的な登場人物たちの成長や、変化していく人間関係からも目が離せません。
物語としても、漫画としても、読者を楽しませ、飽きさせないためのエンターテイメントとしての工夫が随所に見受けられ、実際に読んでいて楽しく、飽きが来ません。
アイにとっての「嘘」。この漫画における「嘘」。
この漫画では「嘘」が重要なキーワードになります。
アイドルの話を描く上で避けて通れないのは「嘘」という言葉。
嫌な言い方をしてしまえば、アイドルというものは実在する人間に嘘を塗り固めて作った偶像ですからね。
この漫画では、そんなアイドルの物語を描く上で扱いが難しくなりそうな「嘘」をアイドル・アイのキャラクターを構成する重要な要素にしてしまっています。
彼女の生い立ちや、背景、アイドルになった動機といったものに深く関わってくる「嘘」という言葉。
アイは「嘘はとびきりの愛」なのだと嘯きますが、これが単なる言葉遊びや、誤魔化しではないのだと、読者が納得できるだけの背景とバックボーンが用意されています。
双子にもそれぞれ「嘘」というものに対しての考え方や、向き合い方があり、それ以外にも物語の要所で思わせぶりに「嘘」という言葉が見え隠れします。
本来あつかいの難しそうなアイドルの「嘘」をむしろ積極的にキャラクターを構成する要素に盛り込み、更には、所々で物語の魅力を絶妙に引き立てるスパイスにしてしまっています。
こういうセンスも素敵です。この漫画の推しポイントですね。
こんな人にオススメです。
- テンポが良くて、総合的に面白く、先の展開への期待を煽って読者を振り回すエンターテイメントとしての漫画が好きな人。
- 転生モノが好きな人で、ファンタジーな世界でのヒロイックな転生モノよりも、現代の日本を舞台にした転生モノを読みたい人。
- 芸能界のいろいろな場面の諸事情も闇も描いた業界モノを読みたい人。
こんな人にはオススメできません。
- 残酷な展開や、陰鬱な物語が苦手な人。※双子の物語も、章ごとの物語も所によりかなり心を抉ってくるものがあります。
- 別離やすれ違いで人の顔が曇ったり、暗黒面に落ちたりするのを見たくない人。そういった展開が苦手な人。