祟り神のお姉さんと、怖いもの知らずの姉弟の笑える会合。シリアスとコミカルの寒暖差の激しい『令和のダラさん』2巻の感想です。
今回は感想が長くなってしまったため、感想その①とその②へ分割してあります。
ますます傍若無人さに磨きのかかる姉弟
相変わらず、仲の良い三十木谷姉弟。今回もダラさんを振り回します。
この2人の仲良しぶりは見ていてなんだか楽しくなると言いますか、明確に言語化できないのが歯がゆいのですが、大雑把に言うと凄く好きですね。
姉の日向も個性が出てきました。本格的なやり方でプラモデルを作ったり、幼稚園時代の男前エピソードが判明したり、本人も無自覚の霊能力でダラさんのプライベートを粉砕したり。
それ以外でもふとした表情からイメージが補完されたりもしました。
第十怪の扉絵の異様に集中している眼だったり、ダラさんの家に行った時に謎の番組を放送するテレビを観察する時の表情だったり、クラスでの振る舞いだったりに、弟と仲良しの気のいいお姉ちゃんとしてのキャラクターとは別のモノを感じます。
独立した個としての性格の断片の様なものが窺えました。
まあ、元々日向が没個性だったわけではなく、弟の方のインパクトが強すぎただけなのですが。
そして、その元々個性の塊だった弟・薫はというと、何というか、妖怪じみてきましたね。
1巻の時点で小学生とは思えない業が窺えていましたが、問題は第十怪の綱守(つなもり)を作る場面。
綱守は編んだ髪の束に唾を含ませて符でくるんだ御守りの一種ですが、ダラさんが唾を含ませた綱守を受け取った直後に、本人曰く「唾液交換」行為に走りましたからね。
その時点でもうアレなのですが、ダラさん本人を前にしての躊躇いのなさが怖いです。
漫画的な演出のせいもあって「何かそういう妖怪かな?」と思いました。○○吸いとか、○○嘗めとか、○○小僧とか、そんな感じです。
だって妖怪じゃないとしたら、もっと怖い気がしませんか。
平尋神社の例大祭。ダラさんが知らない物語に涙する
「屋跨斑」が祀られている三十木谷家の管理する西の山の麓にある平尋神社(ひらひろじんじゃ)。
ダラさんは、自分は山の祠に祀られているものの、本来は妖怪や化生の類であり、「神社の祭りなんぞ余程いい加減な所でもない限り近づけぬのじゃ」とおっしゃります。
実際の所、平尋神社は、生前は凄腕の祓い屋であったダラさんが認める程に、見事に管理された神域でした。
それにも拘らず、神社にダラさんを拒否する気配は微塵もなし。あっさりと入れてしまいました。
ここの場面、最初に読んだ時は、何となくダラさんが入れた理由を察する程度でした。
しかし、ここから先の話も読んでから2回目に読んだ時はダメでした。泣いてしまいました。
ダラさんが神域に拒絶されなかったのは、最初からその様に作ってあったからですね。この神社を作った人にとって、ダラさんは邪悪な存在ではなかったと。
そして、過去編の登場人物で、そんな人の心当たりが1人しかいないのですもの。※東集落の人はいい人が多かったみたいですが、基本的にモブキャラクターなので。
西集落の大工の息子・十郎太。
生前のダラさんと共に時を過ごし、彼女に思いを馳せていた青年。
ダラさんが姉に謀られ、殺されて屋跨斑となった夜に、ダラさんを心配して駆けつけて、惨劇の現場に残されたダラさんの腕を発見した男。
三十木谷(みそぎや)、十御田(とみた)、二十尋(はたひろ)、五十子(いらこ)。
地元出身者の名字にやたらと十の字が多いのも、この十郎太と関係がありそうです。直系の子孫かはわかりませんが。
かつての集落があった土地に残る「十」の字の入っている名字の数々。その中には屋跨斑に関わるお役目を引き継いでいる家もあります。
恐らく、彼は神社の神域造りにも関わっているのでしょう。
権力者であったとも思えない村の大工の息子の影響が、これだけ土地に残っています。いったい彼はダラさんのためにどれだけ奔走したのでしょうか。
屋跨斑となった後のダラさんは、長い間、霊的に不安定な暴走状態で、今のダラさんになったのは100年ほど前。暴走状態であった間のことはよく覚えていないようです。
だから、ダラさんは十郎太がどのような人生を歩んだのかを知らないのでしょう。
三十木谷姉弟も、彼のことを知らないでしょうが、「十」の字を継ぐ彼らが、今、ダラさんに寄り添っていることを想うと、知られざる十郎太の想いの先に、この祭りの夜があったのだと思うと、涙が出てしまいました。
現代の祟り神と、迷惑系動画配信者・久佐葉(くさは)エル
祭りの夜に三十木谷家の管理する禁則地に侵入したホラー系動画配信者の久佐葉エル。いわゆる迷惑系動画配信者ですね。金網を切断して穴を開けたり、私有地に無断で侵入したりと非常に悪質です。
第十三怪の扉絵では三十木谷姉弟と擦れ違っています。
現地を歩いて下調べでしょうか。祭りの当日狙いといい計画的犯行ですね。その代償はとても重たいものでしたが。
金網に穴をあけたのと同じ機材で祠の封を破壊。中の呪物に触れて呪い殺されました。
正確には呪い殺される直前に、ダラさんの手により神隠しにあったわけですが、このコマのダラさんは怪異的な意味で実にいいお顔。
目を見開いているのでいつもと大分印象が違います。
ダラさんは祠の呪物の呪いが漏れて広がる前に、今まさに呪われた罰当たり達を隔離したわけです。オカルト的な防疫ですね。
さらには、その死体を操って動画配信も無難な形で切り上げる等、騒ぎが広がらないためのアフターケアまで完璧。
この辺の仕事ぶりに生真面目さや、責任感の強さがでていますね。
この回はこれまでコメディーパートであった現代で、祟り神としてのダラさんの姿がシリアスに描かれたことにインパクトがありましたが、それ以外にもいろいろ気になる情報がありました。
三十木谷姉弟の母・千夜が呪物の再封印に駆け付けたり、夫であるウィリアムさんも事情をある程度知っている様子であったり。後日の話からすると、山で騒ぎが起きない様に「後始末」もしている様子です。
今はもう見えないそうですが、以前はダラさんの姿を見ることができたそうですし。流石に子供達みたいな距離感でダラさんと接してはいなかった様ですが。
この人が、ダラさんと自分の子供達の現状を知ったらどういうリアクションをするのかも気になりますね。
ダラさんの左腕は祠に封印されていましたが、右腕は何処に行ったのでしょうか。それから両足も。
この辺りは現状ではわかりませんが気になりますね。
ダラさんの話と、伝承として伝わる話の違いが気になった結果、色々「描いて」教えてほしいとダラさんにねだる薫の無茶ぶりと、生真面目に紙芝居を描こうとして自分の画力に頭を抱えるダラさんに笑いました。頭を抱えるだけで腕を3本使っています。
この場面もそうですが、六本腕でジェスチャーをするダラさんは面白かわいいことが多いですね。
今回は感想が長くなってしまったため、感想その②へ続きます。