コミックコーナーのモニュメント

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セントールの悩み24巻 感想


セントールの悩み(24)【電子限定特典ペーパー付き】 (RYU COMICS)

 

 季節は春。レギュラーキャラクター増員の季節。面白おかしく風刺の効いたエピソードもいっぱいのセントールの悩み24巻の感想です。

 

狐栗鼠兎(こりすとでら)さんと地味森(じみもり)さん

 作中では春が訪れ、入学と進級のシーズン。

物語開始時高校1年生だった姫乃たちも、ついに3年生になりました。

 前回の進級と新入生入学のタイミングが11巻。それから13冊目で作中時間1年経過。

 現実の時間よりも大分ゆっくりですが、それでも確実に時間が進んでいるせいか、感慨深いものを感じます。

 そして、この入学シーズンは新キャラクター増員イベントでもあるわけです。

 まず、鴉羽さんの後輩の狐栗鼠兎寺(こりすとでら)さん。凄い名字ですね。

 現実でも漢字5文字の名字の方はいらっしゃるそうですが、直接お目にかかったことはありません。

 鴉羽さんの眼力が効かず、ぐいぐい来られるのを嫌がる鴉羽さんにぐいぐい行く彼女。昔の鴉羽さんを知っているという意味でも面白くなりそうです。

 綾香ちゃんの後輩である二松さんと四亭さんも入学。弓道部がようやく動き出しそうです。

 そして、個人的に注目しているのが霊感少女の地味森了(じみもりりょう)。

 地味森さんはいわゆる「見える子」。色々な想念の集まる学校という場所は、彼女にとって「イヤなモノ」が巣食っている場所であったわけです。

 学校見学に来た際に、それらがいないことに気付き、必死になって勉強したという本人にとって切実すぎる理由で新彼方高校に来た彼女。

 これまでもスピリチュアルな世界は描かれてきましたが、「霊の見える一般人」視点は新しい気がします。

 今回さっそく御霊さんを守護する御祭神の力を目撃していましたが、これからも新しい視点や、新しい切り口のエピソードが出てきそうで楽しみにしています。

 

春の訪れと宇宙菌類

 新彼方高校の入学式に乱入した山伏風の恰好をした男。

 登場時の言動からてっきり、本物の霊能者がスピリチュアルな何かしらで宇宙菌類たちの戦いや、地球への侵略のことを知ってしまったのかと思っていました。

 ところが、どうやらこの男は宇宙菌類に寄生されていたものの、その宇宙菌類の知識と能力の一部を逆に吸収した模様。

 人間の心を持ったまま悪魔の力をその身に宿して悪魔と戦ったり、脳を乗っ取ることに失敗した寄生生物と共存したりといった展開は、いろいろな名作漫画にもありますね。

 それらを連想するシチュエーションなのに、色々と酷くてそこがまた面白かったです。

 男本人の言動と背景や、霊力バトルの相手が御霊さんだった点も酷かったのですが、男に寄生していた宇宙菌類が精神崩壊した理由が格段に酷いです。

 ブラック企業に「論理破綻した行為を迫られ」たからだったというのが酷すぎます。いえ、この場合酷いのはブラック企業ですか。

 

徴用される流々

 久々に登場した人魚の流々。しかし何やら空気が不穏。

 どうやら政府の人間が秘密裏に流々を徴用に来たようです。彼らの狙いは空間識失調を起こさず、宇宙での活動に向いている人魚形態者の特性。流々の進路は強制的に国防大学へ。

 「人魚形態者のみを徴する これは形態差別なのでは?」という流々の問いに「裁判をすればそう判決される可能性はあります」、「しかし我々…いや人類はもうそのステージにはいません」というやり取りがものすごく不穏です。話の流れから宇宙菌類絡みで進展があった模様。

 ここまでこの漫画を読んできた読者には今回の徴用が如何に異常なことかよくわかります。

 形態差別に対する通報先(※6巻おまけページ参照)だけでもいくつもありますし、お役所同士で縄張り争いをする様子も描かれてきましたが、形態平等は時に人権や生命より重いというのが国の方針のはずでした。

 人魚形態者の集まっている水人集落などから下手に徴用すると、情報が洩れて一気に人権問題になりかねません。だからこそ、流々の様な陸人の人魚に白羽の矢が立ったのでしょうか。

 いろいろと汚い大人の事情も把握した上で、故郷の同胞たちのために戦ってきた軍人の美浦さんが今回の事を知ったら、どういった反応をするのか気になります。

 いえ、軍人の人魚で地位も高そうな美浦さんの耳には既に入っているかもしれません。

 そして、流々と言えば、幼なじみの隆道君。2人は引き裂かれてしまうのか、今後の展開が気になり過ぎます。

 

ティン=ポルノン氏来日

 197話では国際風紀委員のティン=ポルノン氏が来日。日本の警察の思想治安課と共にポルノ撲滅に向けた活動を始めます。

 何でもかんでもポルノあつかいするポルノン氏。

 ポルノの定義から特殊性癖の話、「この世界」における欧米の話と、いろいろ突っ込み所が多くて面白い回だったのですが、突っ込み所が多すぎてとても突っ込みきれませんね。

 とりあえず1つ選んで突っ込ませてもらうのならば、ポルノン氏は「花!性器のメタファーです!」と言っていましたが、花は性器のメタファーというよりも植物の性器そのものではないでしょうか。

 「この世界」の欧米では、花屋はポルノショップあつかいになるのでしょうか。

 花を人目にさらさないようにするとなると街路樹とかはどうするつもりなのでしょうかね。街路樹の花を1つ1つ規制・管理するのは現実的ではないと思いますが、まさかシダ植物や、コケ植物で代用するのでしょうか。

 私は現実の欧米の実情について詳しくないので、どの辺りまでが風刺で、どの辺りからがギャグだったのかについての認識はぼんやりしているのですが、行き過ぎた規制が迷走してとんでもない方向に行きそうになることは現実でもたびたびありますからね。

 ポルノン氏は「表記物の人権」なるものに言及していましたが、ここまで行かなくても、現実の日本でも非実在青少年なる言葉が話題になったことはありました。

 このポルノン氏が実は偽物のなりすましだったというオチは、ポルノン氏のキャラクターや「この世界」の欧米の話があまりにあんまりすぎて、いくらなんでも角が立つので、うやむやにしたのだと、最初に読んだ時は思っていました。

 別の可能性として思いついたのは、なりすまし犯は対立する思想の持ち主で、ポルノン氏の属する勢力の評判を下げることが目的で、その辺りまで含めて風刺だったというもの。

 現実でもそういった動機のなりすましを聞いたことがありますからね。

 ただ、殺人・殺人未遂までしたなりすまし犯の動機や、背後関係が作中で語られなかったのには少しモヤモヤしました。偽物の語った欧米の実情も嘘か誠かが気になります。

 風刺という意味では、このなりすまし犯を見抜けなかった警察の記者会見が面白かったですね。

 1人目の「権力を許さない」の時点で「?」となったのにそこから「何もかも許さない」にパワーアップするマスコミのハチマキ。

 質疑応答とは別に「遺憾タイム」なるものをあらかじめ設けているある意味で潔い会見開催側。

 こちらの風刺は身近すぎて笑えました。

 

コスプレ法案可決と元世界王者の謎

 198話はコスプレのお話。コスプレ法案が可決されたので、みんなでコスプレイベントに行かないかと言う朱池さん。

 久々の朱池さん登場回にも拘らず犬養さんとの絡みがほとんどなかったのが残念でしたが、この回も面白かったですね。

 13巻購入特典のぺーパーで、コスプレをする際に角などを付ける際は、明らかに模造とわかるようにしないと形態偽装罪になることが説明されていましたが、今回コスプレ法案が通ったことで、この辺りの制約が緩和されたようです。

 相変わらず、確信犯として、友人を危険な案件に巻き込む朱池さん。

 形態平等問題がらみでテロ行為に走る人間が当たり前に出てくるのは「この世界」ならではですが、朱池さんが指摘していた様な人たちの話は現実でも耳にすることが多いですね。

 エピソード的にも、題材的にも、直接のつながりはありませんが、本質的な部分で、これの前のポルノ回と描かれているテーマがつながっている気がしました。

 個人的に気になったのは、コスプレ法案が国会で可決された場面です。

 揉み合いの乱闘の最中に「勢いだけのレッテル張りをしながら殴りかかってきた大男の議員」をワンパンKOした女性議員。妙に目力が強く、構えも様になっている彼女。

 他の議員のセリフからすると「元世界王者」だそうですが、何の世界王者なのかが気になりました。

 普通に考えるなら何かしらの格闘技だと思われますが、そうだとすると他の議員から大男に向けられた「君が強そうなのは見かけと語調だけでろくに鍛えたこともない自称論破王じゃないか」のセリフが引っ掛かります。武力や、暴力の話から微妙にピントがずれている気がします。

 「この世界」にはディベートをしながら殴りあう競技でもあるのではないかと、そんな風に感じました。

 この女性議員はパンチだけでなく、主張の内容も理路整然としていましたからね。

 

牧ちゃんはクラスのボス

 今巻で小学校に入学したと思ったら、いつの間にかクラスのボスになってしまっていた牧ちゃん。

 牧ちゃんとクラスの問題児たちとの戦いのは、体幹を鍛えている人馬の強さがよくわかるいい例でした。

 姫乃の様な生まれつきの絶対強者ではないはずの牧ちゃん。それにもかかわらず、同年代の子供と比べて圧倒的なパワー。

 おまけに足捌きの訓練をしていない人馬の子供と違って小回りも聞きますからね。

 この199話は、いわゆる神視点で牧ちゃんの現状を解説するモノローグが、子供向けの絵本の様な、子供に語り掛ける様な柔らかい口語調で書かれていました。

 「まきちゃんはクラスのボスです」という端的な導入や、「この戦いでまきちゃんがクラス最強であることが確定しました」というモノローグには笑ってしまいました。

 「圧倒的な人格的迫力で衆をねじ伏せる某委員長とは違います」と御霊さんと比較されているコマが一番笑いましたね。

 「圧倒的な人格的迫力」というあまり日常では聞いたことのない、それでいて、御霊さんに対して適切過ぎる表現。

 その表現と子供に語り掛ける様な柔らかい口語調のミスマッチがツボに入りました。

 

 

 流々と隆道君の2人はこの漫画のベストカップルだと思っていたので、続きがとても気になっています。

 大きな権力と歴史の流れに引き裂かれる2人。流々が将来的に送り出される場所が宇宙の彼方であることからSFロマンスになる可能性も有りと。

 どの段階でこのエピソードに決着がつくのかはわかりませんが、どうかハッピーエンドになりますように。