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お姉さまと巨人(わたし) お嬢さまが異世界転生5巻 感想その①


お姉さまと巨人 お嬢さまが異世界転生 (5) (青騎士コミックス)

 

 トルガナーナとヒナコ達が参戦した後は、想像していたよりもあっさりと決着したエンデバー号での戦い。

 それでも衝撃の展開と、濃密な物語が続く『お姉さまと巨人(わたし) お嬢さまが異世界転生』5巻の感想その①です。

 長くなったので2つに分けてあります。

 

エイリス「お姉さまが浮気したー!!!!」

 前巻のラストでヒナコの正規コードによって起動し、第七ハッチから出撃した巨大ロボット・トルガナーナ。

 そのトルガナーナにヒナコが乗っていることを知ったエイリスのリアクションに笑いました。

 涙と鼻水を垂れ流し、口から唾を飛ばしながら「お姉さまが浮気した―!!!!」。

 ぐるぐるした目もいいですね。迫力と勢いのある変顔。それでいて可愛さは損なわれていません。むしろ可愛い狼狽ぶり。

 そのエイリスのリアクションに対するヒナコとカルラの反応にも笑いました。みんな凄い顔をしています。

 さらに錯乱したエイリスは自身の特殊性癖からくる妄想を敵地のド真ん中で、大声で叫びます。

 ヒナコ救出の時間稼ぎのため、疲労困憊の状態で孤軍奮闘していたエイリス。

 ヒナコはその信条からチートコードの受け取りを拒否していたため、エイリスの力になれないことをずっと気に病んできました。

 チートコードを拒否したが故の正規コードがここにきて彼女の力となり、巨大ロボットと共にエイリスのピンチに駆けつけるというとても熱い展開で終わった4巻。

 4巻ラストの熱い引きにワクワクし、その続きの熱い展開を楽しみに待つこと数カ月。。ようやく手にした新刊を読み始めた直後のまさかの仕打ち。いえ、笑いましたけれど。すごく面白かったのですけれどね。

 予想外の展開が、エイリスを始めとした一同の変顔が、突如発生した混沌とした状況が、読者に対するBe-con先生の仕打ちが、狡いくらいに面白すぎました。

 今回はこの場面以外もエイリスのいろいろな表情表現が面白かったですね。

 王都脱出時に風圧にさらされた時の顔、カルラが秘密にしてきた情報に怒って指を押し付けたときの顔なども面白かわいかったです。

 

ブラザー・フィロソマの最後

 異世界人や亜人たちを弾圧し、食い物にすることを推奨している聖堂教会と王国。

 その中枢、ハイエルフ、ブラザー・フィロソマは、カルラのマンイーターの右腕によりあっさりと死亡。

 異世界転生者たちから奪った目玉や手足を満載したその異形から、奪ったチート能力が山盛りの反則じみた強敵を想像していたのですが、そんなことはありませんでした。

 どうやら、目玉も手足も、エンデバー号の認証を突破するためだけのものだった様です。

 トルガナーナが参戦し、ヒナコが正規コードの持ち主であることが判明して、自分の旗色が悪くなると、いろいろと一方的で勝手すぎる主義主張を垂れ流していました。

 こういうのって、突っ込みどころが多すぎると、逆に気の利いた切り替えしが思いつかなくてモヤモヤします。

 異世界人から奪ったもので組み上げたその体をヒナコが「おぞましい…」と言った意味を理解せず、「人を姿形で判断するのですか?なんとも異世界人らしい倫理観です」と答えるなど、自身を顧みず他者に責任転嫁をし、そのことに気が付いてすらいません。

 自分の護るべき民を散々自分の攻撃に巻き込んで殺した挙句に、自分を殺せば民が飢えるぞとヒナコを脅迫。

 さらには、大いなる責任と大儀を持つ自分をヒナコは撃つことができないと、妙に自信満々な態度。クリーチャーデザイン以上の気持ち悪さ、胸糞悪さ、絶妙な気色悪さがその言動からにじみ出ていました。

 カルラが読者の突っ込みたかったことをうまくまとめて言語化し、格好良く決めてくれた時はすっきりとしましたね。

 

エイリスとオウメガ

 カルラによってあっさりと幕引きとなったフィロソマとの戦いと同様に、エイリスと彼女を捨てたかつての姉・オウメガの戦いも決着。

 いかにもSF感溢れる古代兵器「フォトンエッジ」や、肉体能力を強化すると思われる「オーバーアーマー」なる兵器も使い、さらには、エンデバー号の設備によりエイリスの『巨神』としての力を封じた状態で挑むも、僅か一合で敗北したオウメガ。

 ウェンディ戦にも通じますが「巨神」としての力ばかりを見る相手に、「エイリス」自身が積み上げてきた力で勝つ構図。これ、格好良くて好きです。

 戦いの決着以上にあっさりとしていたのが、エイリスのオウメガに対する反応。これは一合での決着以上に意外な展開でした。

 1話でのヒナコとのやり取りから、エイリスは自分を捨てた兄弟たちへの復讐心を持っているのだと思っていました。

 ところが、ジュンコへの複雑な愛憎を燃やし続けていたヒナコと違い、エイリスの元兄弟たちへの本心は『どうでもいい』であったと。「もう兄弟じゃなくなった相手のことを憎めない(あいせない)し愛せない(にくめない)」という無関心。

 エイリスに敗北し、かつてのおのれの所業を振り返り、殺される覚悟をしていたオウメガが、彼女の本心を聞かされた時の驚愕と絶望の表情が良かったですね。とても味のある1コマでした。

 かつて崖から突き落とされ氏族から捨てられたエイリス。その場面の傍らで彼女から目を逸らし無関心を装っていたオウメガ。

 捨てた側が、無関心を装っていたオウメガの方が、エイリスへの複雑な感情を抱え続け、今度はその抱えている想いごとエイリスに『どうでもいい』と捨てられると。

 巻末のおまけ漫画で描かれたその後の場面ですら、オウメガの目元には陰りが残っていましたからね。

 エイリスにその意図はなくとも、最も効果的な復讐になりました。

 

「勇敢で誇り高く義に厚い種族」巨人族の謎

 オウメガは『最も賢しき巨人』等と呼ばれる割には、エイリスの剣術の様な「技術」というものについて、何も知らない様子でした。

 いえ、エイリスも「アナタほど賢くても結局目に見えるものしか信じられないのか」と言っていますが、これは現代の巨人全般に言えることなのでしょうね。『最も賢しき巨人』なのにこの程度ではなく、『最も賢しき巨人』ですらこの程度というニュアンス。

 そして、穿ち過ぎかもしれませんが、エイリスの言葉は、技術そのものだけではなく、誇りや絆といったものにも通じている印象を受けました。

 3巻・11話でヒナコがジュンコに対して激昂した場面で、約束や、愛情といった目に見えない大切なものを何故心にしまって大切にしないといけないのかを語っていました。

 この時のヒナコの言葉と、どことなく重なるものも感じます。

 そもそもがエイリスの持つ戦いの技術は、ヒナコを守りたいがために人間から学んだ技術。

 そして、それらの技術は人間たちが「自分より遥かに巨大で恐ろしいもの」から「大切なもの」を守るためのものであるのだと語られていました。

 一方で、現代の巨人の戦い方は、生まれ持った力でなりふり構わず暴れるというもの。『最も賢しき巨人』オウメガですら、そこに古代兵器の性能を上乗せする所までが限界。

 生まれ持った力の上に胡坐をかき、それが通用しなければそれで終わり。知恵を絞り、技術を磨く、大切なものを守るための努力を忘れてしまった巨人族

 エイリスの言葉には、誇りを口にしながら、その本質的な部分を軽視する現代の巨人族への軽蔑と諦観を感じます。

 エイリスは以前、勇敢で誇り高く義に厚い巨人族というのははるか昔のおとぎ話であると言い、現代の巨人族をイナゴの様な略奪種族であると語っていました。

 ところが、「元はといえば貴様のせいでこんなことになっている巨人族に対して」というセリフが今回オウメガの口から出てきました。

 どうやら、文化的な意味にしろ、誇りを忘れてしまったという意味にしろ、巨人族が今の様になってしまったことには、明確な原因がある様子。

 エイリスというよりも、「白き巨神」の方が何かしたのでしょうか。1つの決着がついたかと思えば、新たな謎。本当にBe-con先生は読者を焦らすのがお上手です。

 

ジュンコの選択

 ヒナコ達に敗北後、再会したウェンディとジュンコ。

 彼女のことを本気で慕っていたウェンディを切り捨て、異世界人のチート由来のものであったウェンディの「機構」を聖剣『デ・ラマンチャ』で奪うジュンコ。

 ヒナコとの戦いで、彼女が改心する様なきっかけがあったわけでもないのですが、4巻のおまけ漫画である幕間・『一週目』を見た後だと「そうか、そっちにいってしまうのか」というのが私の感想でした。

 私は基本的に悪人が半端に改心するような物語よりも、報いを受けて地獄に落ちる様な勧善懲悪の展開の方が好みなのですが、それでもより取り返しのつかない方へ、バッドエンドに向かって踏み出していく彼女には複雑な心境でした。

 心の奥底ではヒナコに助けを求めていたり、ヒナコのことだけは今でも特別に想っていたりする一方で、彼女自身が救いようのないクズであることには変わりありません。

 ウェンディを襲った時のセリフからも、これまでも他の「妹」達を利用して捨ててきたことが窺えます。

 それにも変わらず、どことなく複雑な心境になってしまうのは、Be-con先生の見せ方が、魅せ方が上手すぎるからなのだと思います。

 真っすぐに輝き続けるヒナコを見る時に垣間見える悔しそうな顔。悪人としてのクズっぷりだけではなく、どことなく狂気の様なものを感じる歪んだ表情。ウェンディを後ろから貫いた場面での、自分のこれまでか、自身の醜さに絶望するかのような暗く沈んだ死んだ目。

 彼女の人間性自体は、相も変わらず薄っぺらなクズという印象のままなのですが、それをここまで深く、味わい深く描けるのが凄すぎます。

 彼女の過去もこれからも、既に描かれた部分で大よその辺りが付くにもかかわらず、新情報が出るたびに絶望感の底上げをしてくるのも凄いですよね。

 彼女の過去。ウェンディとの会話の中で、かつての母とのやり取りを回想していたジュンコ。この場面から察するに、無理心中事件でヒナコのことを突き放した時には、彼女はもう本当に引き返せない所にいた様です。

 彼女のこれから。一線を越えてしまったという意味で、ウェンディを後ろから刺したこともそうですが、これまで使わなかった『聖剣』を使うことを決めてしまったこともそうですよね。

 これまでのジュンコですら使うことを躊躇していた『聖剣』。異世界人のチートを奪い、吸収する収集型デバイス。チートを奪う際に生命力も奪うということなので、基本的に相手を殺して奪うことが前提の代物。

 奪ったチートはどうやら剣にため込んでいる様子なので、力の奪いすぎで見た目が化け物になっていく様な展開はなさそうですが、彼女は今以上に「化物」になっていくのでしょう。

 

 

 3巻のおまけ漫画で意味深長な登場をしていた教会騎士ロストナンバーズの3人が本編でも揃い踏み。

 まさかの正規コード保持者だったシスター・ベルナデッタ。ここにきて、ヒナコ以外の正規コード保持者が登場したことには驚きました。彼女の行動方針がブラザー・フィロソマ達とは違うこともより明確になってきました。

 ヒナコの持っているロザリオに反応していましたが、『カミサマ』についての考え方は、ヒナコとどう重なるのか、それとも対立するのか。どのように描かれるのか楽しみです。

 ブラザー・ベヘモットについて私は勝手に古代のサイボーグ戦士か戦闘用アンドロイドではないかと思っていたのですが、どうやらこの姿は素体(アバター)の様ですね。

 しかも本体は巨人をはるかにしのぐ巨体。ベルナデッタのセリフの「アナタの足元にいるアリのことも考えてちょうだい」の「アリ」にベルナデッタだけではなく、巨人のオウメガも含まれていることに気が付いた時はゾクゾクしました。

 Be-con先生によって彼の本体がどのように描写されるのか今からとても楽しみです。

 

今回は長くなったので感想その②に続きます。

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