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まるでおとぎ話の絵本の様な優しいファンタジー : 猫と竜 レビュー


猫と竜 (1)

 

タイトル:猫と竜

  作者:(漫画)佐々木泉(原作)アマラ(キャラクター原案)大熊まい

  年代:2018年~

  巻数:既刊11巻

 

あらすじ・概要

 昔々、ある所に森の猫・ケットシーに育てられた竜がいました。

 竜とケットシーとでは生きる時間も違いますが、それでも竜にとって、兄弟姉妹の子孫である森の猫たちは大切な家族でした。

 ある日、美しい毛皮を欲した人間たちが、森の猫たちを襲います。

 怒った竜は人間たちの国に怒鳴り込みます。慌てた人間たちは竜を殺そうとしましたが、街の兵士たち自慢の魔法も竜には全く効きません。炎の吐息で返り討ちです。

 人間の子供をかばう子猫を見て街を焼き払うことを思いとどまった竜は、「自分は猫たちを守る竜である」、「森の猫をみだりに殺すことは許さない」と告げ去りました。

 それからさらに月日は流れ、ケットシーの中には人間と友達になるものも現れます。ケットシーによってもたらされた新しい魔法によりその国は発展し、その国で猫が傷つけられることもなくなりました。

 人間嫌いだけど猫には甘い猫竜こと「羽のおじちゃん」と、個性豊かなケットシーたち、そして優しい人々によるまるでおとぎ話の絵本の様な世界観のファンタジーです。

 

竜から猫へ、猫から人へ紡がれていく優しい物語

 タイトルの通り、森の猫・ケットシーに育てられた竜と、ケットシーたち、そして、ケットシーに関わる人々のファンタジーストーリーです。

 あらすじの項に書いたようなケットシーが乱獲されたり、竜が人間を焼き払ったりする話は1話の回想シーンで終了。その後の時代の竜と猫の日常や、猫と人の心温まる交流の物語になります。

 ケットシーたちは独り立ちすると、森や、街でそれぞれの猫生を送りますが、その興味や生き様は個性豊かです。それに関わってくる人々も優しく温かい人ばかり。

 人や猫の生きるそれぞれの時代も、世代も超えて生きる長命な竜が物語の中心におりますが、各話ごとに語り部も、場所も、時代も変わる群像劇となっております。

 魔法が得意な猫が未熟な魔法使いを育てようとする話、変わった猫生を選んだ猫の冒険、森を揺るがす猫たちにとっての大事件、猫たちのことが好きすぎる過保護な竜や、猫たち・猫に関わる人々の人生の1ページ等と様々な物語が紡がれます。

 優しい物語と、素朴で温かみのある絵で、戦闘シーンや、大立ち回りの演出はとてもあっさりとしています。

 その一方で、ケットシーの可愛さや、ファンタジー世界での人々の生活の空気、それぞれの視点から見える景色、心の機微の表現といったものにページ数が贅沢に使われています。

 ご都合主義に見える展開もありますが、それが許される世界観。幻想的なカットもあり、ファンタジーはファンタジーでも、全体的におとぎ話の絵本の様な印象です。

 難点としては、エピソードによっては時代を飛び越えたり、物語の時系列が前後したりすることがあることでしょうか。登場人物・猫物も多く、人によっては混乱することもあるかもしれません。

 しかし、それまでの物語で退場したはずの猫が再登場したり、思わぬ話のつながり方をしたりすることもあるので楽しい点でもあります。

 定番の様で最近の漫画ではあまり見かけない気がするおとぎ話の様なファンタジー。表紙を見て惹かれた方は手に取ってみてください。

 

原作である小説版もありますよ。※すぐ下のリンクは小説版です。


猫と竜 (宝島社文庫)

 

こんな人にオススメです。

  • 牧歌的なファンタジーを読みたい人。
  • 可愛い猫、可愛い竜、優しい人々で送るハートフル群像劇が読みたい人。

 

こんな人にはオススメできません。

  • 恐ろしい魔物を攻略したり、世界を救うための旅に出たりといったタイプのファンタジーを読みたい人。
  • ハッピーエンドばかりだと飽きてしまう人。人間のドロドロした部分も描かれてこそのファンタジーだと思う人。