
お姉さまと巨人 お嬢さまが異世界転生 (7) (青騎士コミックス)
街がエイリスのゴシップで賑わう中、忍び寄ってくる不穏の足音。『お姉さまと巨人(わたし) お嬢さまが異世界転生』7巻の感想その①です。
今回は長くなったので2つに分けてあります。
巨神の真実
ミミナシ卿によって明かされた『巨神』の真実。
万物に宿る魂(マナ)。それが重なり合い集合することで『古きもの』や『神』と呼ばれる意志集合体になるそうです。
古代の人類が生み出したのが周囲のマナを吸収する機構を持つ巨人兵器『ガルガンチュア』であり、そこに集まった人為的に圧縮された意思こそが『巨神』であったと。
エイリス自身は巨神ではなく、それを生み出した装置に過ぎなかったことが今回はっきり明かされました。
ただ、この説明は少しだけすっきりしないのですよね。
古代人が意図して巨神を作ろうとしたのか、マナを集積・圧縮した結果、想定外に巨神が生まれてしまったのかの部分が若干あいまいな気もします。
今回の説明のニュアンスだと、後者で、マナを巧みに扱う魔族への対抗手段としてマナを周囲から吸収するガルガンチュアを作ったら、集まったマナに意思が宿って巨神になってしまったということだと思うのですが。
「すべての意志を一か所に人為的に圧縮した」という言葉の部分を注視すると、最初から巨神を生み出すための器としてガルガンチュアを作り、生まれた巨神が暴走したとも取れる気がするのですよね。
『巨神』の正体ははっきりとしましたし、自分の人格が疑似人格(プログラム)に過ぎないと言われたエイリスにとってショッキングなシーンとなりましたが、どうも全然関係のない所が引っかかってしまいました。
以前、ウェンディが「対巨神用決戦生体兵器」として、生み出されたという説明がありましたが、彼女の能力は、対巨神というよりも、その前段階のガルガンチュアを想定している印象を受けます。
戦争自体数百年前のことですし、立場によって持っている情報が違うこと自体もおかしなことではないのですが、何らかのズレがある気がします。
単なる私の読解力の問題かもしれませんが、もしかしたら、意図的にぼかしているのではないか、何かの伏線ではないかと、気になってしまいました。
ミミナシ卿とエイリス 「高級なワイン」の例え
ミミナシ卿やはり魅力的なキャラクターをしています。
錯乱したエイリスに殺されるリスクを覚悟で、巨神とガルガンチュアの真実を話したり、兄弟姉妹が守られるなら自分はいなくなってもいいと言ったエイリスに、かなり怒った感じできついことを言ってみたり、自分の目的のためにヒナコやエイリスを利用しようとしている割に、妙な誠実さがあるのですよね。
「高級なワイン」の例え話も良かったですね。わかりやすく、共感出来て、その上で人間という生き物の素敵な部分を実感できる例えでした。5巻でのヒナコの『ドン・キホーテの物語』の例え話もそうでしたが、Be-con先生は例え話のセンスも素敵です。
高級なワインの価値は中身の酒だが、ワインそのものを飲まなくても、中身がなくなっても、思い出の宿るワインの空き瓶を大切にする人はいると。
「ヒトは物質の『中身』だけでなく」、「その物の体験(クオリア)や物語(ナラティブ)を大切にする生き物だ」。
「『中身』だけを得て栄養を摂取するだけのようなニンゲンになるなよ」、「つまらないからな」。
この辺りのセリフに、なぜミミナシ卿がフィロソマを始めとした他のハイ・エルフたちと袂を分かったのかが窺えます。
こうした人間味が魅力である一方で、ミステリアスな人物でもあるのですよね。
カルラとは戴冠式以来と5巻・18話で言っていましたが、ハイ・エルフと敵対関係であるはずの魔族の戴冠式に呼ばれているという時点で意味不明ですし。どうやってそこまでの信頼関係を築けたのでしょう。ハイ・エルフと袂を分かった後にミミナシ卿が何をしていたのかも謎です。
正面から見た体形は女性的。その一方で振る舞いは男性的な印象。顔立ちは女性の様にも少年の様にも見える中性風。
単純に男女の括りにあてはまらない人もいますが、そういう感じでもない気がするのです。
正面から見ると女性的と言いましたが、手足は一部メカニカルな部分が露出していますし、正面以外から角度をつけて見ると背骨が剥き出しの非人間的なデザインになっています。
同じハイ・エルフのフィロソマは、その歪んだ思想と、機能性第一の結果としてグロテスクな姿をしていましたが、そういうものとも違う気がします。
一見、自分の人間性を否定するかのような姿を選択している様でありながら、化け物や兵器になるのではなく、人間であろうとするかのような人寄りの姿。
女性でも男性でもないのではなく、女性とも男性とも取れる姿と振る舞い。
この辺りにも物語が隠れている気がします。
異世界召喚システムは何故必要だったのか
ミミナシ卿とエイリス、ミミナシ卿とヒナコの会話から、過去にこの世界で何が起こったのかについての情報もいろいろと開示されました。
いくつかの謎への答えが明示された一方で、答えの明示されない断片的な情報もありました。
深まる謎。
新しいヒントの提示。
今までの情報と併せて考えるとこの世界の謎への考察と妄想がはかどります。こういう所もこの漫画の面白い部分です。
私が特に気になったのが『チートコード』がまだなかった頃の異世界人の話。異世界人は様々な知識や思想を持ち込んで活躍していたそうです。
つまり、『チートコード』は異世界人召喚のシステムに後付けされたものということ。
なぜ後付けしたのでしょうか。それは異世界人を戦力・資源として扱う目的もあるでしょうが、一番は『正規コード』を使わせないためですよね。
そして、異世界人に『チートコード』を植え付けて『正規コード』を封じる女神『ティオス』。あれもおそらくは異世界人によってもたらされたアイディアです。
ミミナシ卿自身も異世界転生の物語のパターンがどうだと、そういう物語の類型について「誰か」から聞いたことがあった様ですからね。
現代日本で流行している異世界転生の物語のテンプレート「知識や特技で無双するパターン」の話をしていて、「女神さまからもらったチートで無双するパターン」のアイディアを出している辺り現代人だったのでしょうね。その「誰か」は。
そうなると、今度はなぜ正規コードを封じる必要があったのかという話になりますが、これ自体は単純です。正規コードの持ち主によって振るわれる古代技術の力が凄まじいからです。使用できる人間が大勢いたら収拾がつかなくなりますからね。
しかしそうなると、別のある事実に注目せざるを得ません。
そもそも、なぜ異世界人には正規コードがあるのかという部分です。
この星の原生人である魔族と敵対していた宙から来た侵略者・人類。
そんなこの世界の人類の系譜であるはずのハイ・エルフや、ニンゲン。彼らには何故正規コードがないのでしょうか。
魂さえも科学的に解明した古代文明の持ち主たちが、なぜ異世界人を召喚する必要があったのでしょう。
この辺りにこの漫画の謎の核心がある気がしています。
今回はバイオレンスなエピソードや、ホラー染みた絵が多かったのですが、前の巻でピルルと戦った教会騎士・タデウスがその後どうなったかについては、完全にギャグになっていた気がします。
人型の推定サイボーグが、捻じ曲げられて丸くなるというグロテスク極まりない描写のはずなのですが、生死不明のタデウスへの影のかかり方と、その目線に、どことなく哀愁を感じます。そもそも何故あそこまで丸める必要があったのでしょう。そして、その傍らで土下座するピルル。
「捕えてから30秒は…息をしていましたね」という生け捕りミッション失敗ながらも、微妙に惜しい気がしてしまうカルラの一言も面白かったです。
このピルルにも秘密の気配がします。秘密も何も、今の所、常に土下座していることと、ものすごく強いらしいことぐらいしか描写がありませんが。
カルラやハルラと同じタイプの角をしていることや、魔王のしもべである『マンティ・コア』を「借りる」ことが出来ていた点が凄く気になります。
今回は長くなったため感想その②へと続きます。