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お姉さまと巨人(わたし) お嬢さまが異世界転生7巻 感想その②


お姉さまと巨人 お嬢さまが異世界転生 (7) (青騎士コミックス)

 

この記事は感想その②となっています。その①はこちらです。

 

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 ミミナシ卿との会話の最中に、裏切り者の姉妹(きょうだい)を殺す場面で、『シスターフッド・オブ・ブラッド』の集会で、零れ出る禍々しいヒナコの「愛」。

 ますます不穏に、物騒になってきた『お姉さまと巨人 お嬢さまが異世界転生』7巻の感想その②です。

 

ヒナコの生い立ち

 ついに明かされた元の世界でのヒナコの生い立ち。

 予想通りといいますか、予想以上と言いますか。

 京極家での生活の様子は必要最低限の描写でしたが、それでもいい印象は抱きようがなく、母親に関しては想像以上でしたね。

 2章開始時にヒナコが生まれる直前、父親が壮絶な死を遂げてしまいましたが、その場面での母親の表情も壮絶でした。

 旦那さんの惨すぎる死に様を直視して心が壊れてしまったのか、その実家である京極家での生活に追い詰められたのかは定かではありませんが、ヒナコのことを旦那さんの忘れ形見ではなく、旦那さんを死に追いやった子供として認識。

 ヒナコ目線でも化け物として映っていました。いえ、化け物というよりも呪いか狂気の塊とでも言うべきでしょうか。禍々しい何かです。ヒナコの影や片目からたまに吹き出す何かにも似ています。

 そして、やはり、ジュンコはヒナコの家庭の事情をろくに知らなかったのでしょうね。

 ヒナコの事情を知っていたら、流石に「なんでも持ってるお嬢様」だの言わないはずですし。

 ヒナコはエイリスに対しても「両親や祖父母に愛されて」「何不自由なく生きてこれたから」と言っていたぐらいですからね。

 言うつもりがないのか、あるいは、「殺(あい)した」「赦し(みすて)ません」等のルビ振りがこの巻でもありましたし、ヒナコにとってはあれも愛の形として映っていたのかもしれません。あるいは、そういう感性を持つに至った原因とも言えるかもしれません。

 ジュンコはクズですが、あそこまで堕ちてしまうに至った経緯にいろいろあったことはもはや明白。もしも、彼女がそうなる前にヒナコの事情を知っていたら、何かが変わったのではないかと、そんなことを考えてしまいました。

 ヒナコの生い立ちを知ると、彼女の「かみさま」や「信条(ドグマ)」についても納得がいく様な、いかない様な不思議な気分です。

 以前ヒナコは、『かみさま』を信じていると言った上で、それは宗教の様な大それたものではなく、「日々の」「感謝や祈りそれを受け止めてくれるような―――」「つらい時」「どうか『かみさま』と祈るその先です」と言っていました。

 彼女の生い立ちを見て、彼女に『かみさま』が必要だった理由にはものすごく納得できるのです。

 その一方で、何故あそこまで真っ直ぐにその信条を貫き続ける強さが彼女に生まれたのか、彼女の過去に他に何があったのかが気になっています。

 

『シスター フィフス』ウェンディ

 裏切り者の姉妹(きょうだい)タリアを自らの手で殺すヒナコ。最後まで姉妹として扱い、姉妹として殺しました。

 それを見て怯える夏目さんに、「いいやつだよなヒナコ…」とウェンディ。「『何者』にもなれずに死ぬのは」「寂しいだろ」とのことです。

 6巻での新章開始の時点で、いつの間にか『シスターフッド・オブ・ブラッド』入りをしていたウェンディ。今回は彼女がどのようにして加入したのかの回想がありました。

 てっきり、身体を再生して、万全の準備をしてから、ヒナコ達と一戦交えたものだと思っていたので、ジュンコに切り裂かれた身体が完治しない内に、這ったままヒナコ達の所まで行ったのには驚きました。しかも不意打ちなどではなく、姿を現しての真っ向勝負。

 ドブから這い上がった場面と、ヒナコ達の前に現れた場面を比べるといくらか再生しているのがわかります。後者の場面だと「腰」と「膝」があるので。

 それでも万全には程遠い、まともに戦えるとも思えない状態。そもそも、ジュンコの聖剣で元々持っていた能力の大部分を奪われているわけで、万全の状態でも敵わなかったエイリスの前に姿を現すこと自体がほぼ自殺。

 ジュンコに捨てられ、姉妹の絆も否定され、もう復讐心しか縋るものがなかったのでしょうね。やけっぱちになって死に場所を求めていたようにも見えます。

 ところが、ウェンディを一目見たヒナコは彼女を抱きしめ謝ったと。

 「ごめんなさい」「ごめんなさい」「私たちのお姉さまが」。

 この言葉で何者でもなくなっていたウェンディは「妹」に戻り、その代わりに捨てられた悲しみも直視することになってしまったと。

 恐るべきは自分を殺そうとしている相手を抱きしめるヒナコの躊躇いのなさと、ジュンコに対する解像度の高さでしょうか。ウェンディの姿を一目見た瞬間に何があったか察しています。

 実質2ページ分の回想とその前後の場面だけで、ウェンディの姉妹入りの経緯と理由に納得できてしまいました。

 この漫画の展開の速さとテンポの良さは以前から注目していましたが、もうこれはそんな表現では足りないですね。

 ページ数あたりの情報量を圧縮しているのに、漫画として、物語としても、しっかり魅せてくれると言いますか。

 驚異の構成力と表現力です。

 

エイリスの『妹』カルラ

  『シスターフッド・オブ・ブラッド』の中に裏切り者がいることをそのメンバー全員に告げたのち、人払いをした埠頭にエイリスを呼び出したカルラ。

 敵に情報を流した裏切り者がカルラであることを即座に見抜くエイリス。

 理由は「もしあの中に本当に裏切り者がいるなら」「絶対にアナタ(・・・)が探し出して始末してるはず」「まだ誰も始末されず」「それでも裏切り者がいるのなら」「アナタ自身しかいないでしょう」とのことです。

 ヒナコのジュンコに対するものと同様に、エイリスもカルラに対する解像度が高いですね。イチャイチャしながら島を1つ消し飛ばすケンカップルなだけあります。※6巻・22話。

 裏切り者がいることを告げつつ、それが自分であることは黙秘し、対応を話し合おうとして、自分が裏切り者だとばれた時のために『三つのしもべ』が全員戦える埠頭を密談場所に選ぶという行動が支離滅裂なカルラ。

 ただ、彼女が何をしたかったのかを聞くと、この支離滅裂さにも納得できてしまいます。

 魔族の王として、実の妹であるハルラの姉として、『シスターフッド・オブ・ブラッド』の姉妹として、全ての立場で筋を通し、責任を果たそうとしていたカルラ。

 状況をコントロールしようとしていた彼女。魔族と人間の戦争を止めたかった彼女。

 しかし、既に魔族の開戦派はコントロールできず、タリアの裏切りの影響で、キョウゴククランの仲間にも被害が出てしまったと。

 姉妹の責任として裏切り者がいることを伝え、魔族側の立場の者として暗躍を続け、魔族の王として、姉として最後まで抵抗し責任を果たし、裏切り者の姉妹としてエイリスに討たれる可能性も覚悟の上だったと考えると、彼女の支離滅裂な行動にも筋が通るわけですね。

 そしてそんな状況の中で、エイリスなら何とかしてくれるかもしれないという思いもあり、エイリスもカルラのそんな想いを見抜いていたと。

 王としての責任、姉としての責任、『姉妹』としての責任。その中でぐちゃぐちゃになり、無力感に苛まれながら、それでも自分の責任から逃げることは出来なかったカルラに手を差し伸べるエイリス。カルラが正式にエイリスの妹になりました。

 エイリスの中でかつてヒナコが泣きじゃくっていた自分に手を差し伸べてくれた記憶が蘇るのもいいですね。

 感情がぐちゃぐちゃになったカルラの泣き顔。エイリスに手を差し伸べられて唇をかんで何かをこらえる表情。そして極めつけ、姉としてのエイリスの微笑み。

 いいものが見られました。

 4年前の王都決戦時、エイリス側からのカルラのお姉さま呼びキャンセルからようやくという感じです。

 流石にこの雰囲気からはないと思うのですが、4年前のキャンセルの件でさらに「イチャイチャ」してほしい気もします。

 

カルラの妹・ハルラ

 カルラが魔国を離れた理由も今回判明しました。まさか開戦派から暗殺されかけたとは。

 そして、その開戦派の炙り出しを終えた魔王代理・カルラの妹のハルラ。

 炙り出された連中がどうなったかは不明ですが。戦争を控えた状況で迂闊に処断できない等の政治的な事情も考えられます。ハルラ自身も姉を殺そうとした連中を敵視しつつも、人類との戦争はやる気満々ですからね。

 周囲から侮られていたカルラのことを姉として尊敬し、王としての能力を正しく評価していた彼女。

 ただ、カルラのことを侮っていた他の魔族とは別の方向性で、彼女もカルラについて歪んだ見方をしている気がします。

 人間側の犠牲者にも心を痛め、異世界人を資源として利用することに嫌悪感を持っていたカルラ。

 カルラの王としての資質を認めている一方、そうしたカルラの情や感性を理解せず、自分以外との『姉妹の絆』についても軽く考えている節があるのですよね。王としての姉を絶対視するあまり、その苦悩に気が付いていないのでしょうか。

 「私の」「私だけの姉上だ」というセリフ他、お姉ちゃんが大好きな妹であることはひしひしと伝わってくるので、単純に自分以外との絆を認めたくない可能性もありますが。

 何にせよ、泣きじゃくるカルラに手を差し伸べたエイリスによって、『妹』になった姉を見せつけられた時のリアクションが、とても楽しみです。

 

 

 巨人でも巨神でもなかった自分の在り方に迷い、そんな自分は『何』を愛するのが自然なのか悩むエイリス。

 そんな彼女の問いに、男性ではなく女性を愛することに葛藤がなかったわけではないことを打ち明け、愛することへの覚悟を語ったヒナコ。

 子をなさない姉妹の盃が『次』に何を残せるのかという問いや、ミミナシ卿の「高級なワイン」の例え話、そしてついにカルラを妹に選んだエイリス。

 それぞれの場面が綺麗に繋がっていく感じが素敵です。構成力が素晴らしいです。

 百合について、外野から不毛だなどと言う人は、ミミナシ卿の言う所の「つまらないニンゲン」であると読み解くこともできるかもしれません。

 姉から妹へ、妹が姉になり次の妹へ。そのつながりがどのようなものをもたらすのか、次巻も楽しみにしています。