お姉さまと巨人 お嬢さまが異世界転生 (6) (青騎士コミックス)
今回は長くなったため感想を2つに分けてあります。感想その①はこちらです。
装甲列車からの難民救出作戦後の22話。扉絵は祈りをささげている【シスターフッド・オブ・ブラッド】の姉妹たち。おしとやかな雰囲気でたたずむ彼女たちを百合のレリーフが飾り立てます。
とても落ち着いた雰囲気の扉絵ですが、なんだか、3巻・11話の「ブッ殺す」だらけの相関図の扉絵を思い出して笑ってしまいました。
『お姉さまと巨人 お嬢さまが異世界転生』6巻の感想その②です。
異世界ブームではなく前世ブーム世代の夏目さん
ヒナコ達によって帝国の装甲列車から救出された少女・夏目鶴来(なつめつるぎ)。ヒナコやジュンコと同じ山上学園の生徒です。
黒百合会の治める街と、4年間のヒナコ達の活動の成果が、何も知らない彼女の視点を通して読者に伝えられる構成はとてもスマートでした。
ところが、そんな中でとんでもない新情報が投げ込まれます。
異世界召喚される人間の年代や地方はランダムで、地球で死んだタイミングと、異世界に召喚されるタイミングのズレも一定ではないと。
実際の所、この夏目さんは1990年に交通事故でお亡くなりになって召喚されたのは最近のご様子。ヒナコは2014年没、犬養さんは2022年でした。
この漫画の世界設定についていろいろ考察しながら読んでいるのですが、このパターンはこれまで全く考えていませんでしたね。この第22話の導入で、明らかに現代人では考えられなさそうな言動をしている異世界人がいたので、まさかとは思っていたのですが。
ただでさえ、この異世界で過去に何があったのか、その結果今どうなっているのかといった情報もほとんどわかっていないのに、これはもう、元の地球の方での人間関係やらもどう関わってくるのかまったく読めなくなってきました。
新章が始まっていきなり挿入されたヒナコ誕生前の両親の回想。
出産間近のヒナコ母を病院へ連れて行こうと雪の降り始めた峠道を急ぐ最中、トラックとの衝突で燃え盛る車内に取り残され焼死したヒナコ父。投げ出された夜の道路の上でそれを見て絶叫するヒナコ母。壮絶ながらも断片的過ぎるシーンです。
なぜあのタイミングでこのシーンが挿入されたのかの意図はまったくわからず、意味深長でした。
京極の家を恨んでいたジュンコ母のセリフ等を思い出して、この事故がなぜ起きたのか、この後どうなったのか、いろいろ考えてしまいましたが、それこそこの事故で死んだヒナコの父親が、ある日突然現れてもおかしくなくなりました。
現代日本で心中したヒナコの同級生や、作中の描写からして恐らくヒナコとジュンコの心中の直前に死んでいる人、後は歴史上の人物などがいきなり出てきてもおかしくなくなったわけです。
あるいは、はるかな過去や、遠い未来に転生したそういった人たちと、現在のヒナコ達の物語が交わるような展開もありうるかもしれません。
ただでさえ、異世界の謎がたくさん残っているのに、物語として先の展開がますます読めなくなってきました。
もう今の時点で度肝を抜かれているわけですが、この先で絶対にとんでもないことが起きる予感がして、ワクワクしています。
仁義なき百合と挟まらない男
エイリスに鳥の求愛行動の様なプレゼントをする魔王が三つのしもべ『第一のケモノ』ガルーダ。
ごろごろ喉を鳴らしてエイリスになつく『第二のケモノ』マンティ・コア。
そんな自分のしもべに不満たらたらなカルラ。
嫌味を言うカルラにそれに喧嘩腰で返すエイリス。黒百合会の跡目をめぐって争っているとされる2人。
クロムの解説と街中で睨み合う2人に「仁義なき争いが起こってるー!?」と夏目さん。
しかし、『三つのしもべ』はカルラと感覚を共有していて、敵意や好き嫌いまでも共有しているという話を聞いた夏目さんは気が付きます。彼女は人一倍ゴシップ好きだったので。
真相に気が付いた夏目さん視点でフィルターのかかったエイリスとカルラのイチャイチャに笑いました。赤面し羞恥と照れの表情で罵り合う2人の描写。
真相に気が付いてからだと、半年前に起こったという2人の戦争(イチャイチャ)で島が1つ消し飛んだという話も笑えますね。どれだけイチャイチャしたのでしょうか。
1990年没の夏目さんを指しての「彼女の生きた時代にはツンデレも百合という言葉もなかったが彼女は実体験からソレを知っていた」というモノローグもなんだか面白かったです。言葉の表現ならそれこそケンカップルなんて言い方もあるみたいですね。
しかし、この場面で一番私を笑わせたのが『シスター フォース』の犬養さん。
超鈍感なヒナコをはじめ、エイリスとカルラの関係性に気が付かない【シスターフッド・オブ・ブラッド】の姉妹たち。
その中で唯一真相にたどり着いている彼が、何も言わず何もしない理由が「(百合に)挟まらないようにしてる」からだと。
常日頃から『百合の間』に挟まりたくないと言っていたのを何かのジンクスだと理解して嫌がらせでクロムと2人で挟んでいたウェンディ。
彼女たちとのそのやり取りがこの場面につながることや、この場面での何をとは言わずの端的な「挟まらないようにしてる」という表現が面白かったですね。表現が絶妙といいますか、絶妙に面白い表現でした。
第22話は戦争(イチャイチャ)を始めたエイリスとカルラに、止めようとするトルガナーナ、大笑いするウェンディ、逃げ惑う他の姉妹たちを扉絵と同じ百合のレリーフで飾って話を締める演出も面白かったですね。
今巻は、異世界人が元の世界で死んだタイミングと、転生してくるタイミングがバラバラであるという特大の爆弾情報が投げ込まれましたし、それ以外にも魔族がこの世界の原生人で、亜人は人間によって品種改良された種族であること等もさりげなく語られていました。
新しい姉妹と、ヒナコ達の4年間の成果のお披露目や、特大の爆弾情報があった一方で、いつもテンポがいいこの漫画にしては、物語が進まなかったなと思って読んでいたら、あとがきにしっかりとそのことが書いてありました。
どうやらBe-con先生の意図したものだった様です。次回から「またえげつなくなってくよ」とのことで、楽しみな反面、不安です。
おまけ漫画でジュンコもなんだか凄いことになっていましたし。