
お姉さまと巨人 お嬢さまが異世界転生 (9) (青騎士コミックス)
この記事は感想その③となっています。
その①はこちら
その②はこちらです。
新王国の働きかけにより、法国で頻発する五大カルテルによるテロ行為。
ついに一線を越えた相手と決着をつけるべく動くヒナコたち。
『お姉さまと巨人(わたし) お嬢さまが異世界転生』9巻の感想その③です。
仁義なきもの滅ぶべし
以前、Be-con先生がこの漫画のコンセプトに挙げていたキーワード群の中に「極道」がありましたが、ついにカルテル間での抗争パートが始まりました。
そして、一瞬で終わりました。
相手の目的がかく乱だからこそ、後顧の憂いを断つために一晩で滅ぼしてしまえという電撃作戦。
一線を越えてきた五大カルテル一角の長・ブルーノ・ソロッツォ。
自分に賛同しなかった酒場のマスターを爆弾で吹き飛ばしていましたが、この場面はマスターが異世界人だから、戦力としてチート持ちを手に入れるために動いていた感じですかね。
だとするならば、5大カルテルは、他にもチート持ちの異世界人を抱えていそうなものですが、そもそもヒナコたち黒百合会(ブラックサレナ)の参謀が魔王・カルラ。
対異世界人・対チート戦闘のノウハウ・知識でおそらく世界最高峰。
事前調査もした上で、チート対応策の周知徹底等してそうですし、単純な戦力差での話ならもはや語るまでもなし。
五大カルテルの内4つ+孤児院襲撃部隊のナレ死ならぬ1コマ死も、やむなしという納得の結末です。※エイリスが担当したクオネ一派はこの時点では無事でしたが。
ブルーノはヒナコのことを恐れる他の五大カルテルの面々に、いろいろと偉そうなことを言っていましたが、ブルーノの言動の根底にあるのは、ヒナコに対する浅はかな妬心ですよね。「なんの能力もないのに魔族や巨人を利用してうまくやりやがって気に入らねえ」という侮りと嫉妬。
むしろ、何の能力もない人間に、なぜ巨人たちや、魔王が従っているのかという部分を考えれば、ヒナコの特異性や、恐ろしさの想像がつきそうなものですが、それもなし。
この31話は、物語開始時からずっと謎だったヒナコが時おり纏う「影」の正体と、転生チートとも違うヒナコの特殊能力について、明かされた回でもありました。
読者目線ではヒナコから溢れて蠢く「影」の傍らで、ブルーノが何度も「なんの能力も持ってない」と負け惜しみを言うのは滑稽ですらありました。
これらの場面は、どちらかというと、ヒナコから溢れて蠢いている物の方が気になって仕方なかったのですけれど。どんどん増えていましたし。
自分に従わないものを殺すことを何とも思っておらず、妊婦や、子供、赤子を巻き込むどころか、積極的に傷つけようとする残虐な外道。
尊大で、他のカルテルの長たちを臆病者あつかいした挙句、ヒナコたちの反応を読み違えて、五大カルテル壊滅の引き金を引いたと。
どこまでも悪い意味で、ギャングという感じのキャラクターでした。※誉め言葉です。
ヒナコの『影』の正体
1つ前の巻で、異世界がはるか未来の地球であったことや、異世界転生の真実が明かされ、残っていた最大の謎であったヒナコの『影』。
ついに明かされたその正体は『呪い』でした。
ヒナコは異世界に来る前から、物心ついた頃から、余人の眼には見えない『呪い』を見ることが出来たということです。
7巻・24話ではヒナコに呪いの言葉を吐く母親の顔が凄いことになっていましたが、これは単なる漫画的表現ではなく、ヒナコには本当にこう見えていたということですね。
ヒナコの言葉によると、『呪い』は『魂』がエネルギー転化される過程で出る『廃棄物』。
『生』を生じるための対比概念で、「生を否定するもの転生(ころぶ)ことも許さない」ものであるらしいですが、この説明だけだと正直何が何やらわかりません。
ただ、ヒナコはこの『呪い』のことをただ見ることが出来るだけではない様なのですよね。
過去の描写でもヒナコの体から呪いが溢れ出している描写はありましたし、今回も溢れ出して蠢いていましたし。
そして、ヒナコの怒りを買ったブルーノは死の瞬間、この『呪い』に絡め捕られて、ヒナコに飲み込まれました。凄い表現でしたね。ヒナコの顔がブラックホールになっています。
果たしてブルーノはどうなったのでしょう。彼の末期の視点では、父と母のいる『天国(ちきゅう)』には行けなかったようです。
ヒナコのブラックホールを通して彼の魂は「地獄(うちゅう)」へ放り出されたのでしょうか。
それとも『天国(ちきゅう)』でも『地獄(うちゅう)』でもない場所へ行ったのでしょうか。
とにもかくにも、インパクトのある展開と表現でした。
『呪い』
前の巻の時点で、異世界や、転生といったSF関係の設定は明かされ、世界設定に対する考察ができる要素は粗方説明されつくしていた気がしたのですが、一拍置いて、とんでもないものが来ました。
一般的に、異世界や、転生はファンタジーカテゴリ―だと思うのですが、この漫画だとSF要素になっています。
この世界観において、ヒナコの『呪い』は、ファンタジーなのか、SFなのか、オカルトに分類するべきなのか混乱します。
ですが、『魂』の存在は科学的に証明されたそうですし、ヒナコの言葉を信じるなら『呪い』はその『廃棄物』である様なので、どうしたって、『呪い』は『魂』関連の話に絡んできますよね。
2巻・5話で『最も思慮深き巨人』が『影』についてわずかにふれていましたが、彼は過去の歴史で『影』=『呪い』が何かをしたことを知っている様子。
ミミナシ卿に至っては、どうも『呪い』が見えている気がするのですよね。過去にヒナコと会話している時に『呪い』の方に視線が行っている場面が複数ありました。
7巻・24話の扉絵を見返すと、ヒナコに『呪い』が見えるというよりも、ヒナコ自身が『呪い』であるかのような印象も受けます。
設定を読み解くというよりも、漠然としたイメージの話になるのですが、ハイ・エルフのやりたい放題から始まった未来地球の歴史は理不尽と悪意が積み重なった歴史です。
ならば、そこに積もった『呪い』の総量はどんなことになっているのでしょう。
転生システムのチート付与によるエラーで、『魂』は『地獄(うちゅう)』へどんどん排出されている現状でも、『魂』でない『呪い(はいきぶつ)』はどんどん地上に積もり続けていることになるのではないでしょうか。
万物にある『魂(マナ)』が集合したものが『神』ならば、『魂(マナ)』ではなくその廃棄物である『呪い』が集まったら何になるのでしょう。
裁けない悪人が落ちる『地獄』があることを望むヒナコの願いは『呪い』にどう関係するのでしょうか。
おまけ漫画での『呪い』の自律的な反応や、ブルーノを飲み込んだ際のヒナコの意図を汲んだ動きは、エイリスと『巨神』の関係を連想しました。
妄想が止まりません。この感じもこの漫画の醍醐味ですね。
ヒナコの『呪い』や、カルラの思いつめた発言に驚いていたら、そこから始まった怒涛の三大勢力大乱闘展開にもっと驚きました。
次の巻ではお姉ちゃんのことが大好きなハルラが、エイリスとカルラを前にして、どんな表情を見せてくれるのかとても楽しみです。
『呪い』関連で言えば、ヒナコの眼には、かつてのジュンコがどのように見えていたのか、今のジュンコがどのように見えているのか、それも気になります。