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奇才が描く、猫と石鹸を巡る物語 : シャボンと猫売り レビュー

 

タイトル:シャボンと猫売り

  作者:高津マコト

  年代:2017年~

  巻数:全3巻

 

あらすじ・概要

 どこかレトロで、幻想的な景色のある街・猫迫(ねこはざま)。

 以前は野良猫が大繁殖していた猫迫では、「防疫局」が保護とは名ばかりの野良猫の駆除を大々的に行い、猫の姿を見かけることも少なくなりました。

 そんな猫迫で暮らす女子高生の渋沢なつめと、立花ちひろ

 2人はある黄昏時に、神社で怪我をした野良猫を拾ったことで、猫を探し続ける異形の怪人・「猫売り」と関わってしまいます。

 猫売りに渡された石鹸を使ったちひろは猫の姿になってしまい、2人は元に戻す方法を求めて猫売りを探しますが、そこに猫を狙う防疫局の魔の手が迫ります。

 独自の世界観、多彩な演出と表現。コメディーとシリアスの切り替えに、ホラー・アクション・サスペンスと物語の表情が次々に変わる不思議な魅力の漫画です。

 

 

キャラクターも、物語も、コロコロと表情を変える不思議な漫画

 この漫画は、物語の世界観という意味でも、漫画としての演出や表現といった意味でも、独特な部分が多く、風変わりで個性的な味があります。

 にも拘らず、奇をてらった作品にありがちな分かり辛さはなく、少し変わった表現や演出が使われている場面でも、その意味が分からなくなるということはありませんでした。

 次から次へと新たな展開が畳み掛け、そのたびに現実と非現実の比率が変わり、シリアスとコメディーが入れ替わり、果てはホラー・アクション・サスペンスといった物語のジャンルそのものまでもが、場面ごとに切り替わっているかのような印象を受けます。それだけ「物語の表情」が変わります。

 物語の展開、雰囲気の変化はアクロバティックですが、絶妙なバランス感覚で世界観が破綻することもなく進み続けます。

 登場人物の喜怒哀楽の表情もコロコロ変わりますが、勢いだけではなく、その感情の変化はしっかりと共感のできるもので、人間味のある主人公に好感が持てました。

 上に書いた通りに、ジャンルの区分が困難な作品なのですが、強いて言うのならば、「ホラーな世界観の中で繰り広げられる笑いあり涙ありの冒険活劇」といったところでしょうか。

 黄昏時や早朝といった時間特有の雰囲気のある景色や、どことなくレトロな街並みだったり、異様なまでの巨大建造物だったりといった、猫迫の街の見せる幻想的な表情も魅力です。

 

こんな人にオススメです。

  • 主人公の表情や、物語の雰囲気が変わり続け、新たな展開が次々に押し寄せるアクロバティックな勢いのある漫画が読みたい人。
  • 独特の世界観を舞台に、個性的な漫画表現で彩られる、不思議な物語を見たい人。一風変わった漫画を読みたい人

 

こんな人にはオススメできません。

  • 猫がひどい目に遭うのを見たくない人。※直接的な描写は控えめですが、防疫局が猫を虐殺していることがわかる程度の表現はあります。
  • 現実味よりも感性的なものを重視した漫画表現が苦手な人。
  • 一部の説明・描写の不足を想像力で補うことが苦手な人。