魔女の下僕と魔王のツノ 5巻 (デジタル版ガンガンコミックス)
守りたい人たちのために、魔物の力を取り戻そうと走るアルセニオ。エリックから事情を聞いたロイドたちもアルセニオを助けるために動き出します。魔女の下僕と魔王のツノ5巻の感想です。
何を抱えているかよりも、それとどう向き合い、どう生きるかが大事※意訳です
アルセニオから摘出した精霊に対して、サムが何らかの儀式を強行する現場に乱入するエリック達。アルセニオは既にダウン。状況から察するに、精霊を完全に封印するか、滅ぼすかする儀式でしょうか。
人間の心があっても、魔物の体が抱える衝動は心ひとつでどうにかできるものではないと譲らないサム。力を求めて人間をやめる奴のことなど信用できないと言い、「持ち前の体(人間の体)を運命と思って受け入れろ」と締めくくりますが、この言葉にエリックが反論します。
エリックは自分自身の心臓疾患を生まれつきだと諦めず、治療のため独学で魔女の魔法の研究を続けてきました。
レイの心が男なのか女なのかはまだわかりませんが、本来の肉体の性別から見て同性のアルセニオに好意を持っていることにも気が付いています。
アルセニオが自分の意地を通して、魔物の体の衝動に抗ってきたのも見てきました。
「肉体にどんな性質や衝動を抱えたとしても、抱えなかったとしても!何を制し何を行うかは人の意思!」とはエリックの反論の言葉ですが、この辺りがこの漫画のシリアスな部分のテーマな気がします。
私の中では、「体や心に何を抱えているかということよりも、それとどう向き合い、どう生きるかかが大事」と意訳しました。
サムから精霊を取り戻したものの、アルセニオが再び魔物の体に戻ることに難色を示すエリック。普段の余裕のある態度とは違い感情が前面に出ているエリックと、エリックとアルセニオのやり取りにいちいち茶々を入れる周囲が面白かったです。
自分ではどうしようもない生まれつきの体のことで世間の悪意にさらされ、自分のせいで家族が不幸になるという思いを抱え続けてきたエリック。
そんなトラウマもさらけ出しアルセニオを止めようとするエリックに、自分が他に選択肢のない理不尽な状況で魔物になった事情を語り、今度こそ自分の意志で魔物になると話すアルセニオ。
自分の心の中に抱えていた重たいものと向き合い、自分自身の意思で選択したアルセニオの笑顔がまぶしいエピソードでした。
サラマンダーのサラ
除霊のときは胸から出てきたサラマンダーが、アルセニオの頭、というよりも顔に張り付いた状態から戻っていく様子がシュール。
ただ、この場面で思い出すのは4巻の酒の席での魔法談義で出てきた「守護霊とかいい精霊は頭に宿って、乗っ取りを企む悪い精霊は胸に宿るんだ」というセリフです。
アルセニオが自身の魔物の体を受け入れたこと、サラマンダーにサラと名前をつけたことといい、今後の展開の伏線めいたものを感じました。
エリック再び
ヒュペルボレアでの一件を乗り越え、改めて「友達」になったアルセニオとエリック。
ある日、庭でカモミールを採取するアルセニオの下へ、何やら思い悩んだ様子のエリックが相談に訪れます。
エリックの真剣な様子に作業を中断し姿勢を正すアルセニオ。そんなアルセニオへエリックが持ち掛けた相談は「実は…ブラジャーしろとレイに言われてて」でした。
頬を染めつつもマイペースに相談を持ち掛けるエリックと、いきなりずっこけて頭を強打するアルセニオ。出だしから笑いました。3巻での2人のやり取りを彷彿とさせます。
ヒュペルボレアを離れ、心臓が治るまで女性の体で過ごすことにしたエリックですが、そのことで想定外の問題が出てきた様子。
恥じらいつつも真面目な話をする調子で、乳首という単語を連呼するエリックと、相変わらず突っ込みの止まらないアルセニオ。
かと思えば、途中で急にしおらしくなって、伏し目になったり、上目遣いになったりしながら、女装をするけど笑わないでくれと話すエリックと、そんなエリックに調子が狂いっぱなしのアルセニオが面白かわいいです。
しかし、ここで疑問が出てきます。すでに女性用の服を着ることを決めているならば、エリックは何を相談に来たのでしょうか。
答えはアルセニオの好み(※異性が身に着ける下着のデザインの好み)が知りたいということでした。
自分たちは友達だろと言うアルセニオですが、キラキラワクワクした笑顔のエリックに「友愛と性愛は両立すると思うんだ」と言い切られてしまいます。しおらしく見えても、やっぱりエリックはエリックでした。
コミカルなやり取りが面白いこの漫画の中でも、ボケとツッコミ的な意味ではエリックとアルセニオの組み合わせが一番だと思います。
思春期なイケメン、ロイド
エリックの襲来による動揺も収まらぬうちに、今度はロイドから相談を持ち掛けられるアルセニオ。※刃物を持ったロイドに背後から襲われ拉致されました。
ロイドの相談は、レイやエリックを性的な目で見ないようにするにはどうすればいいのかということ。ここでのやり取りを見る限り、アルセニオもロイドもやはり2人のことを女性として見ている様です。
思春期に自分の性欲が疎ましくなるという感覚には覚えがある男性も多いと思いますが、ロイドの場合本気で落ち込んでいる様子。
エリックとレイのことを大切に思いながら、小さなことでイライラして、エロいことばかり考えて、大事にしたくてもうまくできないと真剣に悩むロイド。
真剣に悩んで、頭まで下げるロイドに対して、保身を捨てて腹を割って話すアルセニオと真面目な場面なわけですが、会話のやり取りのテンポや面白さといったコミカル要素も損なわれていません。もち先生のセンスとバランス感覚には脱帽します。
「つい腹が立って、カッとなって揉んだ」や「揉まぬなら寄せて上げるぞホトトギス」辺りのセリフには、セリフ自体に強いパワーを感じます。
子供の頃は、女性的な外見をからかわれて怒っていたのに、女の体に変化していることにサムが気付かないことに怒り、服まではだけて女だということを見せつけようとしたエリック。
ようやくアルセニオへの恋心を自覚したかと思えば、アルセニオをお嫁さんにしたい等と宣うレイ。
周りどころか当人たちの中でもいろいろ拗れているのが面白くて仕方ありません。