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魔女の下僕と魔王のツノ14巻 感想


魔女の下僕と魔王のツノ 14巻 (デジタル版ガンガンコミックス)

 

 文字通り身を削った魔王の献身により、ビビアンを救うための薬の材料集めは一気に進みました。最後の難題である「幻想の羽根」を求め、ベティ達は魔女の集会・ベルテインへと向かいます。魔女の下僕と魔王のツノ14巻の感想です。

 

「もう一生女の子でいてほしい」※アルセニオの騎士2人の心の叫び

 事前準備の通りに、アルマのままベルテインに参加することになったアルセニオ。

 前の巻でも言及されていた肉体的・精神的な感覚の変化についての話も出てきましたね。

 魔物だった時と、人間に戻ってからでは、女性化した時の様子が違ったことにも、すっきりと説明がつきました。

 元々、エリックが使っている魔法よりも効果の強い「冥王の毒針」で女性化していたわけですが、魔物だった時は魔法に抵抗力があったと。それが人間に戻ってなくなり、魔法による心身の女性化がより進んだと。

 魔物女子から人間女子に戻ったタイミングで感覚の変化が起こったため、魔物と人間の違いなのではという説明にもそれなりの説得力がありましたが、明らかにそれだけではない様子でした。

 魔法による心身の女性化と、魔物と人間の身体の違いという要素が組み合わさった読者には予想が難しく、それでいて説明されれば納得できるという素晴らしい塩梅の説明。

 男女の違いに戸惑うアルセニオも2段階でより長く楽しめるという流石のもち先生。丁寧かつ工夫を凝らした素晴らしい仕事ぶりです。

 アルマ本人はもちろん、周囲のリアクションも面白かったですね。「ロイドかっこいい…」と思わず零してしまった際のエリックの反応など特に。

  そして、天然でやらかすアルマを見た2人の心の叫びにももちろん笑いました。見せ方・表現の仕方も面白かったです。

 

魔女の集会・ベルテイン

 空の上で開催されるベルテインへ向かうベティ達。一行の移動手段は、魔女の箒、ペガサス、空飛ぶ絨毯、羽衣というファンタジーな欲張りセット。

 さらに、空に浮かぶ島へと集まっていく魔女たちの様々な乗り物が入り乱れたビジュアルは、いい意味でまとまりがないと言いますか、ファンタジー感と、お祭り感の両方が良く出ている場面でした。

 幻想的な味があって好きです。もっと大ゴマか、いっそ見開きで見たかったと思うのは贅沢でしょうか。

 作中では語られていませんでしたが、ベルテインの参加資格とかはどうなっているのですかね。少し気になりました。会場に来ることができればフリーパスなのでしょうか。

 エリックも言っていましたが、想像していたよりも大規模なイベントだったもので。森の中に設営した会場に数十人~百数十人集まるというようなのを想像していました。

 知らない内に魔法をかけられてトラブルになることもあるので、「診察室」というどこで誰に魔法をかけられたのかを診てくれる部屋があったり、運営に関わっている魔女の下僕たちが情報共有をしていたりと、最低限の防犯対策はしている様ですが、基本的には各自で自衛するというスタンスなのかもしれません。

 

魔女アマンダ

 魔女アマンダはビビアンの親友で、61話でもビビアンの家に訪ねて来ています。

 今巻79話でビビアンを呪った魔女の後ろ姿が出てきて、ビビアンの自作自演の線が消えた段階で、私は真犯人がアマンダではないかと疑っていました。

 推理というほどの話でもなく、作中で他にビビアンを呪えそうな魔女・実力のありそうな魔女が登場していないからです。

 真犯人の後ろ姿はアマンダの印象とはかけ離れていましたが、ベルテインでいざアマンダを探そうとなった時に「ベルテインのアマンダは普段と雰囲気が違うわ」等という新情報まで出てきたので、もうこれはアマンダしかありえないのではとまで思いました。

 まあ、真犯人は別にいたわけですが。

 アマンダは登場シーンからしインパクトがありました。

 シリアスに睦み合うロイドとエリックのやり取りが盛り上がったところで、1ページ丸ごと使った決めゴマの背景に、巨大な火の鳥が写り込んでいるという登場シーン。真面目な絵面なのですがハプニング映像的な面白さがあります。

 絵の構図としては、明らかに画面手前のロイドとエリックの場面であるのに、背景の火の鳥・アマンダの存在感が強すぎて突っ込まずにはいられないとでも言いましょうか。

 その後もベティが魔女の箒に乗って挨拶に行くと、燃え盛る火の鳥の身体で、木の箒に止まるという暴挙をのほほんと実行。

 大騒ぎするベティと、軽いアマンダのやり取りには笑いました。最初のインパクトのある登場からここまでのテンポの良い流れも素晴らしいです。

 

ビビアンの真実

 ビビアンが病気ではなく、他の魔女に呪いをかけられたという新事実がアマンダによって判明。

 何故ビビアンは自分が呪われた事を伏せ、病気であると説明したのかについても、サウロが納得のいく予想をしていました。

 この漫画はやはりこの辺りの心情面がしっかり描かれていていいですね。

 行動理由の説明も納得できるものですし、キャラクターがそういう事をするであろうことに納得できるだけの人物描写もしっかり積み上げてきています。

 今回の場合も、ベティを気遣ったビビアンの思いやりにも、ビビアンが何を懸念したのかに気付けるだけの経験をしてきただろうサウロの半生にも、すっきり納得できますから。

 

レイの真実?と呪いの犯人

 そして、ビビアンが呪われた以上、「犯人」がいるという話になり、出てきたのが「診察室」です。

 どこで誰にどんな魔法をかけられたかを診てくれる施設で、失敗した魔法の原因なども探ってくれるらしいです。

 そこで、レイも診てもらうという話になりますが、直前になって、怯えるレイ。

 男になったらアルセニオに嫌われるのではないかではなく、女の自分が消えたのなら、今の自分はどのくらい残るのか、アルセニオを好きな気持ちが消えてしまったらどうしようと悩むレイ。

 流石のもち先生。こういった変身物語・性転換モノの醍醐味・趣というものをよくわかっていらっしゃる。

 そして、診断を受けて判明する驚愕の真実。レイは本来女性であり、「死ぬまで解けない魔法で男の姿になっていた」とのこと。生まれる前から呪いで性別を変えられていたと。

 自分は男なのか女なのか、性別に由来するあれこれで、今までさんざん悩んで乗り越えてきたと思ったら、ここに来て、前提からひっくり返してきました。

 ヒュペルボレアは魔女たちにとっても辺境の地。少なくとも、その土地の魔女がベルテインへ来たとなれば珍しくて質問攻めにあうほどです。魔女の魔法である呪いが使われたというならば、必然的に犯人は限られてしまいます。

 独学で魔女の魔法を習得した極北の魔女・エリック。魔女の魔法に通じる技法を持つサムの様な霊媒師。状況的に考えても身内が犯人・依頼人という線が濃厚。まあ、エリック犯人説は年齢と魔女の魔法の習得時期で疑問が生じますが。

 しかし、この診察室の魔女の言葉を信じてしまってもいいものでしょうか。何を隠そうこの魔女こそが、ビビアンを呪っていた犯人だったわけですから。

 魔法でレイの記憶を読みながら診察をしていたので、レイがビビアンの関係者であると知った時点で、悪意のある嘘をついている可能性もあります。

 そこで少し気になって、レイが湖に落ちて「死んだ」場面を読み直してみたのですが、9話の時点で「死ぬまで解けぬ変化の魔法」と「呪い」の話が出ていたのですね。こんなに前から、しっかりと伏線が張られていました。

 ここから先の物語も、骨太な筋の通った展開が期待できそうです。

 

 

 まだ素顔も明らかになっていませんが、ついにビビアンを呪った魔女が登場しました。

 気になるのはその動機です。魔法による封印が施された扉の前で何やら悔しそうにしていたり、「10年呪ってやっと死んだと思ったのに!!」と叫んでいたり、思わせぶりな伏線が張られています。

 前者はビビアンが危険な黒魔術を管理する立場にある大魔女であることが絡んでいそうですね。

 後者はビビアンがベティを引き取っただいたいの時期と符合します。

 両方が絡んでくるとなると、この犯人の目的も見えてきます。

 何やらもう一波乱ありそうなベルテイン。レイの真実はやはり気になります。

 そして、それはそれとして、今巻のアルセニオ・アルマの様子を見ていて、エリックが今後どうなっていくのかも気になって仕方ありません。

 エリックはもはや「性別:エリック」という感じですが、女性化の影響がどう出るのか正直予想できないので気になります。

 どう転んでも面白いことになりそうなのは確信しているので、とても楽しみにしているのですが。