コミックコーナーのモニュメント

「感想【ネタバレを含みます】」カテゴリーの記事はネタバレありの感想です。 「漫画紹介」カテゴリーの記事は、ネタバレなし、もしくはネタバレを最小限にした漫画を紹介する形のレビューとなっています。

ダンジョン飯ワールドガイド冒険者バイブル完全版 感想その②


ダンジョン飯 ワールドガイド 冒険者バイブル 完全版 (HARTA COMIX)

 

www.iiisibumi.com

 

 ここからは完全版ワールドガイドで追加・改訂された部分についての感想となります。『ダンジョン飯 ワールドガイド冒険者バイブル 完全版』感想その②です。

 『ダンジョン飯』本編の物語完結までのネタバレも含みますのでご注意ください。

 

シュローの恋の行方、ライオスと家族、イヅツミの秘密、他にも…

 2021年に出版された旧冒険者バイブルをベースにしつつも、全体的に追記・改訂が行われていて、おまけ漫画もさらに充実。

 旧冒険者バイブルを買っていて、今回再購入することになった私にも大満足の内容でした。

 既に感想その①でも書きましたが、「第一章 人物」でのキャラクター紹介に物語完結後のその人物の動向が追記されていて、漫画では描かれなかったライオス一行以外の主要人物たちのその後も知ることができたのは満足感が大きかったですね。

 悪魔・翼獅子についてのまとめや、追加情報、彼がライオスにかけた呪いの正確な正体がわかったのも面白かった部分ですね。

 他にも、故郷へ旅立つ前にファリンへ思いを伝えるシュローの恋の行方を描いた漫画「シュローとファリン」や、そこで描かれたファリンの今後の人生に対してのスタンス、リシオンと違い常時獣人の姿であるイヅツミの秘密、カナリア隊のメンバーのより詳しい資料に追加情報、ライオスと両親の不和のより詳しい事情、ライオスとファリンと両親のその後の関係。更に他にもいろいろと。

 漫画という表現で物語を描くうえで、細かく描写しすぎるとどうしてもテンポが悪くなりがちで取捨選択せざるを得ない部分、それでも知りたい背景やその後の話。

 それを教えてくれるこの手の副読本的ガイドブックの鑑とでも言うべき内容でした。

 ダンジョン飯はただでさえその世界観が魅力的過ぎますからね。ダンジョン飯14巻読了時の「まだこの世界に触れていたい欲」がだいぶ解消されました。※完全に解消されたとは言っていません。

 

以下は今回の完全版で追加された内容で特に私のお気に入りの部分です。

 

ライオスの願い・ライオスとファリンと両親。

 物語を通して魅力的な変人で、終盤ではさらにその人間性の深みと味わいを見せてくれたライオスですが、今回もいろいろ面白かったですね。

 悪魔がかけた「お前の今一番の願いは決して叶わぬものとなるだろう」という呪い。ライオスにかけられた呪いについては物語終了時にどの様なものであったか明かされましたが、さらにその裏側といいますか、あんなオチがあったとは。

 ダンジョン飯らしく、ライオスらしく、この物語のオチにふさわしすぎる呪いの正体。九井先生の発想力とセンスに脱帽です。

 外部の人間に知られたら大変なため即国家機密になるその内容に大笑いしました。

 本編や旧冒険者バイブルでも言及されていたライオスの両親についてもすっきりしました。ライオスが王になったことについて知っているのかどうか等も含めて、気になっていたもので。

 ライオスと両親の不仲。物語終了後・ファリン視点でのさらに詳しい事情が語られましたが、ライオスの父は、ライオスとは立場も年齢も性格も何もかも違いますが、その不器用さとコミュ障ぶりは流石ライオスの父親という印象でしたね。

 ライオスの母は何かしなくてはという思いが迷走していた感じですね。家族の愛を感じていたからこそだとしても、この状況で笑っていられるファリンのメンタルは強すぎます。

 ライオスと両親の関係改善はマルシルに期待ですね。彼らの関係改善のためにライオスの故郷へ旅立ったマルシルの物語も読んでみたいです。

 

最強の魔物ライオスと「メリニ緑化計画」

 ダンジョンの崩壊後、ライオスの戴冠と時を同じくして浮上した黄金郷・メリニの大地。

 海中から浮上したせいで塩分たっぷりの不毛の地が、いかにして緑あふれる大地になったのかが描かれたのが完全版で追加された漫画「メリニ緑化計画」。

 塩害を回避していかにして国を復興したのかを疑問に思っていた読者も多いのではないでしょうか。その回答ですね。

 ライオスは「最強の魔物」の姿で悪魔・翼獅子に勝利した後、人間の姿に戻りましたが、姿が人間に戻っても、しばらくは「最強の魔物」としての能力が残っていたみたいです。

 そして、メリニを救ったのは最強の魔物の能力の1つ、「うんちから森ができる」。

 トイレを作るたびにライオスが用を足し、そこから森が生え、またトイレを作り直す図は面白すぎますね。

 しかし、最強の魔物の設定を書いたライオスも、それを読み上げたマルシルも真相には気が付かず。気が付いたのはイヅツミだけでした。真相に気が付いたコマで妙に目をキラキラさせていたのが面白かったです。

 狂乱の魔術師を打ち倒し、巨大な竜に変身し、世界を滅ぼさんとした悪魔を丸呑みにしたという悪食王ライオスの伝説。

 そこにさらなる逸話が増えそうで増えなかった点も面白かったですね。

 第二章のキメラ類の項に追加された「最強の魔物」の生息地が「ライオスの脳内」と表現されていたことにも笑いました。

 

チルチャックと娘達

 チルチャックの身の上話や、よもやま話に登場していたチルチャックの娘達。

 旧冒険者バイブルの時点で掲載されていた漫画「チルチャック①」でそれぞれの名前、外見、性格が描かれた長女メイジャック、次女フラートム、三女パックパティ。

 ダンジョン飯の最終巻の謝辞のページではおめかししてライオスたちの食事会を訪れる姿が描かれていました。

 「チルチャック①」で、次女と三女の結婚相手として、独身のドワーフ男性・センシが狙われそうだということが書いてあったので、謝辞のページを見たときに、てっきり次女と三女の狙いはセンシだと思っていました。

 ところが、今回の完全版で追加された漫画「チルチャックと娘達」で彼女たちの狙いが独身の王様・ライオスだったことが判明。笑いました。

 本編でははっきりした登場の機会がなかったチルチャックの娘たちが、旧冒険者バイブルで紹介されてマルシルに「いつか会ってみたいなあみんなでご飯食べたいね」と言われたことから始まって、本編終了時の謝辞のページで食事会がまさかの実現。

 さらにそこから遡る形で食事会の前日譚が今回の完全版に収録されました。こういうのはすごく楽しいですね。

 14巻を読んでいた時もまさかの最後の謝辞で彼女たちが登場するとは思っていませんでしたし、てっきりセンシ狙いだと思っていたら、予想外のライオス狙い。意外性が楽しいです。

 王様が独身だと気が付いてチルチャックに確認を取るコマの次女と三女、次女と三女の意図にハッと気が付くチルチャック。そしてオチのコマ。このやり取りのテンポが好きです。

 

ミスルンのその後とフラメラ

 カナリア隊の副長にして第2班長フラメラ。

 旧冒険者バイブルでのカナリア隊の人物紹介は、ミスルンが率いる第1班のメンバーと、カブルーの養母であるミルシリルだけでした。

 完全版ではフラメラと、彼女の班員である2人、エリケとミーシルが追記されました。

 物語終盤では魔物になったライオスが大暴れする中、優秀な指揮官ぶりを発揮していたフラメラ。その一方で、登場するたびに誰かと喧嘩していたり、怒鳴っていたり、妙に怒りっぽいというか、沸点の低い人だなと思っていたのですが、なるほど、彼女は自分を取り巻くその全てに怒っていたのですね。

 今回の漫画で彼女の半生がわかってすっきりとしました。

 他にもカナリア隊の資料や、ミスルンのその後が描かれた漫画も良かったですね。

 「魔物とは迷宮とは何だったのか生涯をかけて追い続ける」と「第二の人生」での目標を語り、「元迷宮の主交流会」でも仲間たちとの絆を語るミスルン。

 悪魔という人生の目標を失って、それでも、カブルーと仲間達に支えられて再び立ち上がり、センシの言葉で歩き出すことができた彼のその後の姿には感慨深いものがありました。

 刷り込み的な何かなのか、蕎麦打ちにもやる気を見せていたことには笑いました。

 

 

 ナマリが無事に借金返済できたこと等、他にもいろいろと気になっていた「その後」がわかってすっきりしました。

 同じ人工獣人であるはずのリシオンとイヅツミの体質の違いや、フラメラの背景、ダンジョンと外界の境目で蘇生術を使ったらどうなるかなど、読者が気になっていた疑問に面白おかしく答えようとするサービス精神は本当に凄いと思います。

 本編終了時に余韻を残す形で残っていた謎や、旧冒険者バイブルを読んだ時に気になっていたマルシル加入前のパーティーメンバーの人間関係のトラブルまでも今回描かれて、まさに至れり尽くせりの完全版でした。

 ライオスとその両親の中を取り持つために旅立ったマルシルや、世界を見て回ってまたメリニに戻るというファリンの新たな夢、その旅路も機会があれば、ぜひ漫画で読んでみたいです。