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お姉さまと巨人(わたし) お嬢さまが異世界転生4巻 感想その①


お姉さまと巨人 お嬢さまが異世界転生 (4) (青騎士コミックス)

 

 エイリスとウェンディの戦いが繰り広げられる中、ジュンコとの戦闘を開始するヒナコ達。

 その影で教会勢力も動き出します。

 今回は感想が長くなってしまったので、2つに分けてあります。『お姉さまと巨人(わたし) お嬢様が異世界転生』4巻 感想その①です。

 

ジュンコのチートとヒナコの覚悟

 自身への攻撃を無効化する『絶対領域』。どんなものをも貫き通す攻撃を繰り出す『絶界攻撃』。2つのチートを使ってヒナコとカルラを追い詰めるジュンコ。

 ジュンコのチート能力は、てっきりチートシステムの設計者も想定していなかったような2つのチートの反則コンボみたいなのを想像していたのですが、シンプルに最強の矛と盾で来ましたね。いえ、十分に凶悪な組み合わせですが。

 異世界人との戦いのノウハウを持つカルラのマンイーター戦法も通用しません。この場面、マンイーターが対異世界人用の生物兵器であったことが『異世界人喰らい(マン・イーター)』という呼称で強調される演出は好きですね。

 コマの枠という境界を越えて、上のコマのマンイーターごと、下のコマのカルラの腕を両断する絶界攻撃。漫画ならではのこういう演出も好きです。

 圧倒的な力で2人を追い詰めるジュンコに対して、無茶に無茶を重ねても時間稼ぎしかできないヒナコ。

 にもかかわらず、精神面ではジュンコを圧倒。

 へらへらと笑みを浮かべて強者の余裕を演じていたジュンコが、ヒナコの冷静さと、覚悟の決まりきった彼女の気迫に演技を暴かれていく展開が、見ていて気持ち良かったです。

 傷だらけのヒナコの下に駆け付けたエイリスは見開きで登場。

 見開きの表現力が変な方向に振り切れていましたね。いえ、迫力は満点でしたが。

 ピンチの主人公の所へ、もう1人の主人公が駆け付ける熱い場面のはずなのに、熱いというより怖かったですね。エイリスが。

 地面に足をつけて戦っていた2人と、巨人のエイリスの顔が1つのコマというか、見開きの中に納まっています。

 あまり他の漫画では見たことのない構図。妖怪画とかでなら見たことありますけれど。

 光や影の使い方も印象的で、普通の人間から見た巨人のサイズの圧が的確に伝わってきました。

 次の次ページの13話扉絵に至っては、エイリスの表情とポーズのせいで、妖怪画みたいではなく、完全に妖怪画と化していましたが。

 

エイリスに隠された秘密。ヒナコとジュンコの格の違い。

 ウェンディゴの兵器としてのスペックと、エイリスの知恵と技と誇りがぶつかり合って白熱したウェンディ戦と比べて、ジュンコとの戦いはあっさりと決着しました。

 ただ、巨体と巨体がぶつかり合った大迫力のあちらとは別の方向でちゃんと盛り上げてくれるのが流石です。

 「死に戻り」を繰り返してきたジュンコの口から語られるエイリスの秘密。

 それはジュンコのチートならば、やり方によってはエイリスに勝てるのではないかという読者の疑問への解答であると同時に、衝撃の真実。

 この巻のおまけ漫画「幕間『一週目』」でも描かれていますが、一週目の時点でジュンコはエイリスを倒しているのですよね。

 ところが、エイリスを倒すと、もっととんでもないモノが出てくると。

 これまでの物語で、『白き巨神』とはてっきりエイリスのことを指すのだと思っていたところへ、エイリスは『白き巨神』の素体(アバター)に過ぎないという超特大の爆弾が投げ込まれました。

 人間サイズの少女のアバターにエイリス以上の巨体を隠していたウェンディ。ならば巨人サイズの素体から出てくるものはどんな存在なのか、その時エイリスの人格はどうなるのか、読者を揺さぶってきます。

 そして、自害して「死に戻り」をしようとするジュンコ。

 慌てるカルラとエイリス。迷いなく飛び出して激痛を伴う秘薬『神酒(ソーマ)』をジュンコに口移しで飲ませるヒナコ。

 ジュンコは自害を阻止されただけでなく、神酒の副作用の激痛に泣き喚き、涙と涎まみれで気絶します。

 一方、ジュンコとの戦いで神酒を使用し、口移しで飲ませる際も飲んでしまったヒナコは平然としています。2人の覚悟と精神的な格の違いが見せつけられた場面でした。

 いつも新しい巻を読むたびに思うのですが、この漫画は、物語の展開の仕方や、情報の見せ方、絵での表現の仕方等も含めて、漫画の組み立て方が凄いですよね。

 エイリス合流前の戦いでヒナコの覚悟の表現として使われた神酒が、まさかそのままジュンコ攻略の決定打になるとは思いませんでした。

 ウェンディの少女の姿から巨大な生体兵器ウェンディゴが出てくる場面もインパクトがありましたが、それはエイリスが白き巨神の素体であるという更なる衝撃への伏線でした。

 ヒナコからジュンコへの口付けでの決着もインパクトがありました。『死に戻り』への攻略法として合理的であり、百合ジャンルとしての需要も満たし、意外性も十分。

 本当にこの漫画には驚かされます。そのクオリティーの高さに。漫画としての盛り上げ方のうまさに。ありきたりな表現になってしまうのですが、毎回ワクワクドキドキさせられます。

 

ジュンコの慟哭:幕間『一週目』

 ジュンコは間違いなくクズなのですが、やはり、キャラクターとしてはとても味があります。

 彼女がどうして今の様になってしまったのかは、この巻で、おおよそわかった気がします。ヒナコへの想いと執着が本物であったこともはっきりとしました。

 母親に学校をやめて身体を売れとまで言われていたジュンコ。

 自分の努力や、ヒナコとの絆を親と生まれのせいで台無しにされそうになった彼女。「アンタは持っているからこっちの立場がわかっていない」等のセリフは、事情を知ってから読み直すと、最初から「持っている者」であったヒナコを「卑怯者」呼ばわりしたくなる気持ちがわかってしまう気がします。

 ただ、ヒナコの側の家庭の事情はいまだに伏せられたままなのですよね。絶対に何かありそうですが。下手をしたらジュンコの境遇よりも重たいものが出てきそうな気がします。

 ヒナコとジュンコの違いは彼女の言う様な「持っている者」と「持たざる者」ではなく、「強い人間」と「弱い人間」だったのだと思います。

 ジュンコはヒナコへ心無い言葉を浴びせる一方で、援助交際事件には巻き込まないようにしていました。無理心中直前の姉妹関係の解消も、身を引くつもりだったのではないのでしょうか。

 「いたらない姉」として思い悩んだ様子は、エイリスに対するヒナコのそれとよく似ています。

 しかし、その結果行き着いたのが、自分から目を逸らし全てを他人のせいにして目を逸らし続けるために他人を犠牲にする『自己肯定の化け物』。

 自分の無力に嘆きながらも、常にエイリスのために正しくあろうとし、片腕を失おうと、足が折れようと、立ち止まらないヒナコとは対照的です。

 おまけ漫画・幕間『一週目』のジュンコの描写はすごく味がありました。

 ヒナコを連れていく『白き巨神』を「化け物」呼ばわりし、ヒナコの隣にふさわしくないと口汚く罵る彼女。彼女の繰り返す「化け物」という言葉は全て彼女自身へと返り、醜く顔を歪めて罵る彼女と対照的に、窓の鏡面に映った彼女は顔を覆って泣いています。

 そして、顔を歪めていた現実のジュンコが振り返り、鏡の中で泣く自分に気が付いた瞬間に『一週目』が終わると。

 1話の時点では薄っぺらい裏切り者にしか見えなかった彼女が、ここまで味わい深いキャラクターに化けるとは思っていませんでした。

 あの時のヒナコへ向けられた心無い言葉が、こうも裏の意味を考えさせられるものになるとも思いませんでした。

 

 

 エイリスとジュンコの戦いに乱入してきて、完全にギャグなやられ方をした教会騎士精鋭4名。

 完全に眼中にない2人の横で、必死に解説するカルラと、名乗りを上げようとする教会騎士たち。彼らの死亡フラグでバランスゲームでもしているかのような場面に笑いました。

 ジュンコの攻撃の流れ弾でやられた2人はともかく、エイリスの魔法の余波でやられた2人は、絶対領域でダメージを負わないジュンコの代わりに、エイリスの呪文のえげつない威力を描写するのに貢献してくれていました。

 

 今回は長くなってしまったため感想その②へ続きます。

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