ゴブリンスレイヤー:ブランニュー・デイ 1巻 (デジタル版ビッグガンガンコミックス)
ゴブリンスレイヤー:ブランニュー・デイ 2巻 (デジタル版ビッグガンガンコミックス)
ゴブリンスレイヤー原作小説版の4巻に該当する短編エピソード集。時系列としては水の都での戦いが終わってから、収穫祭が始まる前の頃のお話です。
『ゴブリンスレイヤー:ブランニュー・デイ』1巻、2巻の感想です。
ゴブリンスレイヤー周囲の日常をいつもと別の視点、別の角度から
上でも書いた通りのショートストーリー集ですが、ゴブリンスレイヤー以外が主役のエピソードや、彼以外の視点で描かれる物語が多かったのが新鮮でした。
1つの短い物語ごとに起承転結があり、漫画表現もシンプルであっさりとした感じだったので、良くも悪くもライトな読み心地でした。
戦闘描写・ゴブリン関係の描写は画面が見やすく、何が起きているのかは理解しやすい一方で、本編やイヤーワンに比べるとやや勢い不足で、もの足りなさも感じました。
特にゴブリンスレイヤーの迫力や、ゴブリンの群れの醜悪さ、絶望感の表現といったおどろおどろしさや、負の迫真性とでもいうべきものが不足している様に思われます。
物語としてはいつものメンバーの本編ではあまり描かれない部分が描かれたり、作中に登場しているものの、あまり内面や背景の掘り下げがなかった人のエピソードもあったりと面白かったです。
獣人女給は本編の他にイヤーワンにも登場していましたが、こんなに面白い性格をしていたのですね。これまで読んだストーリーではわからなかったので、なんだか得をした気になりました。
以下のタイトル群は、特にお気に入りのエピソードの感想です。
第2話 ある男の子のお話
辺境の田舎の村に住むある男の子のお話。
両親とは死別。頭がよく教養のある姉がいて、幼なじみの女の子がいて、冒険者に憧れるそんな男の子。はい。完全にどこかの誰かの子供時代と被っていますね。
その日の食事がシチューだったり、幼なじみの女の子が街に出かけているという話をしていたりと、徹底的なまでにどこかの誰かと被せてきます。
しかし、この男の子は、彼にとって非日常のちょっとした冒険はするものの、無事、姉の元に帰ります。姉も村も無事です。
村の近くに巣を作っていたゴブリンは冒険者(ゴブリンスレイヤー)がやっつけたので。
男の子視点でのこのエピソードは、ちょっと非日常な冒険をしたというだけのお話なのですが、ゴブリンスレイヤーの過去を知っている読者目線では共通点の多さにすわ本人かと思い、そうでなくとも村全滅への伏線が積みあがっていく様でハラハラしました。
だからこそ、ゴブリンスレイヤーの姿が現れた時の安心感が凄かったですね。
4話でこの時のゴブリン退治の内容が描かれていますが、通常ゴブリン退治をするはずの新人冒険者には分が悪いホブゴブリンのいる巣で、既に女の冒険者が犠牲になり、繁殖が始まっていたことがわかります。
男の子自身にとっては冒険の思い出となりましたが、ゴブリンスレイヤーが来なければ村が滅んでいてもおかしくなかった状況でした。
ゴブリンスレイヤーは少年と昔の自分が似ていることには気が付きません。少年を自身に重ねる様な場面もありません。読者だけが気付けます。
ただ、彼のゴブリン退治が、いつかの彼自身を彷彿とさせる少年を助けるという構図には何とも言えない味がありました。
5話 彼がいない日のお話
ゴブリンスレイヤーがいない日に自分を見つめ直す牛飼娘のお話。
彼女は達観しているというか、何処か超然とした所がありますが、別に悟っているわけでも、自分の在り方に絶対の自信があるわけでもないのですよね。むしろ自分に対しては自信がない様子。
ゴブリンスレイヤー特化型の青春を送っていると言いますか、彼女の謎の落ち着き様はそこで培ったものと言いますか、その産物とでも言いますか。
自分にやれる事は自分の力でできる事だけなのだから、落ち込んでも仕方がない。地に足を付けて一歩一歩進んでいくしかない。そういった諦観と紙一重の覚悟をしているとでも言いましょうか。
これらのイメージは、あくまでこれまでのゴブリンスレイヤーの物語を読んだ私が勝手に抱いたものですが、このエピソードを通して感じた印象もそれに合致するものでした。
一般的に言う恋に生きるというものとも少し違う感じですが、彼女とゴブリンスレイヤーの関係にはもっと尊いものを感じます。
現実的で地に足がついている一方で、別の面では自分の全てを擲っているとでも言えばいいのですかね。
共依存に近いものも感じるのですが、相手にもたれかかっているのではなく、覚悟を持って自分にできる精一杯をやっている強さも感じます。
幸福と不幸、人間の心の光と闇に強さと弱さ。そういった色々な面で二律背反然とした所に魅力があります。
街で1日を過ごして、自分の知らなかった冒険者の世界を垣間見て、自分を取り巻く人との繋がりを再認識して、少しだけ前向きになれました。
女神官を巻き込んでいわゆる下着鎧(ビキニアーマー)を着た場面の展開が面白かったですね。
ゴブリンスレイヤーが使っている兜と同じものを試着して、思っていた以上に狭い彼の視界に驚いた彼女。
自分がそれまで知らなかった世界を体感したわけですが、そこから下着鎧も試着してみようという所に発想が飛ぶのが笑えました。
思考の流れは追えるのです。ただ、それまで緩やかな川だったものが、いきなり滝になっている様なぶっ飛び具合が笑えました。
超然としている様で、後ろ向きな所もあり、かと思えば、妙に思い切りのいい所もある牛飼娘。
着ている場面を直接は描写せず、店から出てくるまでの時間の経過と、店から出てきた時の女神官の様子で試着の有無を演出する漫画表現も面白かったですね。
6話 悪魔に魅せられし魔宮の滅亡するお話
重戦士、槍使い、そしてゴブリンスレイヤーという珍しい組み合わせでタワー型ダンジョンにアタック。いえ、ゴブリンスレイヤーがゴブリン退治以外のクエストを受けている時点で割と珍しいですね。
ゴブリン退治に行った先で別の怪物と戦うことになることや、ゴブリン退治に協力してもらった報酬として別のクエストを受けたりならばこれまでもありましたが。
怪物と罠を用意して待ち受ける推定60階層のダンジョンを塔の外壁を登ることで素通り。
さらには、「言葉を持つ者の手により殺されることはない」という能力を持つ敵を塔の上から突き落とすことを提案する等、ゴブリン相手でなくともいつものゴブリンスレイヤーでした。
本編3巻の終わりでも神々がドン引きする描写がありましたが、TRPGでゲームマスターが頭を抱えるやつですね。
私は実際にプレイしたことはありませんが、ルールに則りつつ、ゲームマスターの想定外の挙動をする人がいるという話は聞いたことがあります。
というよりも、そういったある種の様式美の様なものを突き詰めたものが、ゴブリンスレイヤーの戦い方なのですよね。
臨時のメンバーですが、何時もの一党とも違う何処か気安いやり取りが良かったですね。
普段別行動の性格が全然違うトリオながらも、お互いのことを認め合っている事が窺えて楽しげな雰囲気が良く出ていました。
宝箱の内側からの視点で3人の顔が映る最後の1コマの構図も面白かったです。
第7話はタイトルが酷くてその時点で笑えました。「死人占い師(ネクロマンサー)さんが手番二回くらいでずんばらりされた後のお話」。
最後のエピソードはゴブリンスレイヤーがゴブリン退治から帰ってきて、冒険者ギルドに顔を出し、牛飼娘のいる牧場に帰った所で綺麗に終わりました。
これまでの短編で登場した人物と話したり、助けた村からのお礼の品を救出した女冒険者が届けてくれたという話がでたり、ゴブリンスレイヤー自身が人との繋がりに思いを馳せた場面もありました。
ゴブリンスレイヤーを取り巻く周囲の物語の断片が少しずつ集約して、ゴブリンスレイヤーの日常の一部になるという感じの終わり方がとても良かったですね。
5話で牛飼娘が感じたように、最後のエピソードでゴブリンスレイヤーが感じたように、人と人の繋がりや縁といったものの味を感じられる終わり方でした。
だからこそ、その直後のゴブリンスレイヤーと牛飼娘のやり取りを描いたおまけ小説「追章 彼と彼女のちょっと後のお話」もとても染みました。