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ゴブリンスレイヤー外伝:イヤーワン5巻 感想


ゴブリンスレイヤー外伝:イヤーワン 5巻 (デジタル版ヤングガンガンコミックス)

 

 孤電の術士(アークメイジ)と共に、ゴブリンの生態調査も兼ねたゴブリン退治に赴いたゴブリンスレイヤーゴブリンスレイヤー外伝:イヤーワン5巻の感想です。

 

ゴブリンスレイヤーと孤電の術士(アークメイジ)

 何処かお道化ている様な、人を喰った様な孤電の術士。そんな彼女の態度は、やはり彼女なりの処世術の様に思えました。

 巻末のオマケ小説では、彼女の胸中が窺えます。本編での剣の乙女の時もそうでしたが、外面から地の性格がわかりづらいキャラクターの内面描写は助かります。

 他人の批評などに興味はなくとも、自分に引け目があるわけではなくとも、それでも笑われれば気分は悪いものです。だから、何処まで本気かわからない様な、何処かお道化た胡散臭い態度で振る舞うのが癖になっているのではないでしょうか。

 処世術と言いますか、一種の防衛機制ですかね。本気の自分を笑われると傷つくので、何処までが本気か、何処からが本気かわからない様な態度を取っているという事ではないかと。

 27話での野営中、彼女とゴブリンスレイヤーとの会話がゴブリンは何処から来るのかという話になります。

 「緑の月」からやってくると教わったという彼に、「それは作り話。子供のしつけ話。笑い話の類……だろう?」と、それこそ笑いながら言った直後に、「俺は笑わん」と返されて真顔になっているのですよね。

 その直前に呟いた「界渡り(プレインズウォーク)、ね」の1コマも前後の間が意味深長です。

 オマケ小説の方で書かれていた「理解を求めたつもりはないにせよ、語った夢を馬鹿にしてくれなどと頼んだ覚えも――……」とやらの事情に関わってくるのでしょう。

 何気に孤電の術士はゴブリンスレイヤーと相性いいですよね。ゴブリンの話題でここまで盛り上がれる人は希少でしょう。ゴブリンスレイヤーゴブリンスレイヤーで人を笑いませんし、意外と知的好奇心も旺盛なので。

 まあ、孤電の術士は、ゴブリンスレイヤーがもうどうしようもないほどに自分の生き方を決めてしまっていることも、それ故に自分の志す道とはどうしたって別の道になるだろうということも、この時点で十分すぎる程に理解している様ですが。

 

新人戦士のその後と武闘家の少女

 岩喰怪虫(ロックイーター)に仲間の1人を食い殺され、パーティーは解散。その後自分なりのけじめはつけたものの、立ち直ったとは言い難い状態の新人戦士。

 駆け出し冒険者パーティーの危なっかしい冒険計画を耳にしてしまった彼は、思わず口をはさんでしまいます。

 そして、その内の一人の少女に、かつての仲間だった半森人の少女を重ねてしまった彼は駆け出し冒険者パーティーの依頼に同行することになりました。

 新人戦士本人も言っていましたが、彼もついこの間まで駆け出しであったわけです。第1話で登場した時の彼を思い出すと感慨深いものがあります。

 登場人物のちょっとした変化や、日々の成長の描き方に、ゴブリンスレイヤーシリーズ独特の味を感じます。

 この新人冒険者の1人・武闘家の少女ですが、外見の特徴や、戦い方、装備の方向性から見て同一人物らしき女性が、本編の小鬼の王(ゴブリンロード)の軍勢との闘いで登場しています。

 その戦いの後半戦、作中の言葉で言う所の「ベテランの戦場」でも勇ましく戦っていました。

 この自信のなさそうな少女が、経験を積んでああなるのか等と思って読んでいたら、戦いぶりそのものは現状でも十分勇ましかったりします。そういう所もおもしろかったですね。

 こういう何気ない本編とのつながりが好きです。

 新人戦士のその後のエピソードは28話から始まったのですが、この28話の扉絵が素晴らしかったです。

 新人戦士のパーティーが描かれているわけですが、在りし日の一行の様に見えて、表情から察すると悲劇の後・解散後の様子。全員立っている向きも、視線の方向も別々ですし。

 一目見ると無事な一行の様に見えますが、俯くドワーフの戦士は、五体満足の様に見えて、喰いちぎられた側の腕が見えないアングルで立っています。

 死んでしまった半森人の少女は表情のわからない後ろ姿で、よく見ると色合いも他の三人と違います。

 それに気が付くと、正面を向いて俯きがちに目を閉じている新人戦士は黙祷を捧げているように見えてきます。

 シンプルな構成の絵ですが、31話冒頭から至高神の司祭でもある職員・監督官とのやり取りが楽しい受付嬢。冒頭から至高神の司祭でもある職員・監督官とのやり取りが楽しい受付嬢。

 

受付嬢と監督官そして牛飼娘

 31話冒頭から至高神の司祭でもある職員・監督官とのやり取りが楽しい受付嬢。

 受付嬢がむくれている理由に気付いた監督官の「ああ、それかぁ」の1コマに、続く受付嬢の「致命的な失敗(ファンブル)…!」の1コマ。2人ともいい表情していますね。

 受付嬢がむくれている理由に気付いた監督官の「ああ、それかぁ」の1コマに、続く  受付嬢の「致命的な失敗(ファンブル)…!」の1コマ。2人ともいい表情していますね。

 画力で描き分ける精密な表情描写ではなく、漫画的表現を多用した表情表現。これはこれで好きですね。大事なのは場面・タイミングに応じた使い分けだと思います。

 この2人は本編で監督官が初登場した辺りでも似たようなやり取りをしていました。

 一方、ゴブリンスレイヤーとのコミュニケーションがうまくいかず、落ち込む牛飼娘。

 叔父に、ゴブリンスレイヤーに恋人ができたのではとか、娼婦に入れ込んでいるのではとか言われたことを思い出して動揺したり、ゴブリンスレイヤーと「お似合い」な孤電の術士の噂話に聞き耳を立てて落ち込んだり、こちらもいい表情をしていました。

 前の巻で本編の牛飼娘に近づいてきた印象でしたが、やはりまだ本編の牛飼娘の様な余裕は無いようです。

 受付嬢は仕事ぶりの成長過程が想像しやすいのですけれど、牛飼娘は、イヤーワンの牛飼娘と本編の牛飼娘で通じる部分もあるものの、現状からいかにしてあの牛飼娘に行きつくのか想像がつきません。

 

 

 ゴブリンとの戦闘経験を積み、切り札である「«転移»の巻物」を手に入れ、夕方がゴブリンにとっての「明け方」であることに気付き、順調に「ゴブリンスレイヤー」になってきているゴブリンスレイヤー。こちらも順当な成長ぶりです。

 やはり、一番気になるのは牛飼娘がいかにしてあの境地に至るのかですね。