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ゴブリンスレイヤー14巻 感想


ゴブリンスレイヤー 14巻 (デジタル版ビッグガンガンコミックス)

 

 冒険者訓練場と少年魔術師に纏わるエピソードもクライマックス。そして、新章では一行は森人の森を目指します。ゴブリンスレイヤー14巻の感想です。

 

池の水を抜くゴブリンスレイヤー

 ゴブリンの地下坑道の上にある池。その底を《隧道(トンネル)》の呪文で抜いて、坑道を水攻めにするゴブリンスレイヤー

 11巻で《転移(ゲート)》の巻物(スクロール)を使ってゴブリンの巣を水攻めにした時は、水の供給は《転移(ゲート)》で、《隧道(トンネル)》は地上へのショートカットを作るために使っていました。

 同じ呪文を使った水攻めでもバリエーションを作ってきますね。

 さらに、ただの水攻めではなく、水を凍らせて膨張させることで坑道を崩すことまで算段に含んでいると。

 読者の予想の斜め上を行く発想は相変わらずです。

 そして、この池は、冒険者の訓練場の建設が始まるはるか以前、ゴブリンの群れに襲われて壊滅し、打ち捨てられて風化してしまった故郷の村の情景を呼びさますものでした。

 11巻のこの章の導入の場面で描かれていますが、彼がかつて姉とともに歩いた道に重なる景色。牛飼娘にとっても水遊びをした思い出の場所だった様です。

 失われてしまった情景を今の景色に重ねるための最後の部品。

 それを壊すことを彼自身の決断で行ったと。

 元々ゴブリン退治をするためなら、大概のことはしてしまうゴブリンスレイヤー

 しかし、村の跡地に訓練場ができる事を寂しく思っていたことを牛飼娘に見破られている場面もありました。

 彼自身の心の中である種の区切りがついたからこそ、できたことなのではないかと思っています。

 

少年魔術師の旅立ちとゴブリンスレイヤー大笑い

 ゴブリンスレイヤー達との冒険や、訓練場での経験、ゴブリン達の襲撃を潜り抜けて成長した少年魔術師。

 ゴブリンに殺された姉へと向けられた誹謗中傷に傷つき、自身もその誹謗中傷した連中と同じだろう顔で、女神官に心無い言葉を投げかけたりしていた彼でしたが、憑き物が落ちた様です。

 吹っ切った様子で「たぶんオレが何しようと連中は馬鹿にしたままだろうから、別に良いや。一生そうしてろって感じ」と言う彼に「そうだな」と端的に返すゴブリンスレイヤー

 周りの評価を気にしないことにかけては一日の長どころではありませんからね。彼は物語開始時からずっとそんな感じですし。

 この場面でイヤーワンの孤電の術師(アークメイジ)の顔が頭をよぎりました。彼女も人の話を聞かない人間や、自分と違う視点を理解しようとしない人間に辟易していた様でしたので。

 ただ、この少年魔術師はもっと前向きに、本当に吹っ切った感じなのが良かったです。

 そしてドラゴンスレイヤーになってやると言う少年魔術師と、それに強引についていく圃人の少女。

 彼らの姿に声を上げて笑うゴブリンスレイヤーが印象的でした。とても印象的でした。あのゴブリンスレイヤーが声を上げて笑う日が来るとは。

 その後の牛飼娘の良いことあったのという問いかけに、いつかドラゴンと激闘を繰り広げる冒険者たちの姿を想像し「とても良いことだ」と答えながら、また笑うゴブリンスレイヤー

 今の自分と同じ「ゴブリンスレイヤー」ではなく、かつて少年だった自分が夢見た様な「冒険者」を目指す少年魔術師に、本当に嬉しそうに上機嫌に笑うゴブリンスレイヤーの人間味が素敵に表現されていました。

 

女神官の昇給と《浄化(ピュアリファイ)》の奇跡

 ゴブリンの襲撃から新人達を逃がし、「鋼鉄級」冒険者に昇給した女神官。

 TRPG的にもレベルアップしたということなのか新たに授かったのは《浄化(ピュアリファイ)》の奇跡。

 女神官は冒険中に身体を清められる手段がほしかったようですが、ゴブリンの巣の不衛生さや、ゴブリン退治の血みどろさ、生存者の感染症リスク等を考えると、ゴブリンスレイヤーの活動のサポート用としてはかなり有用そうです。 

 ゴブリンスレイヤーからも使い出がある良い奇跡だとの評価ですが、「使い出がある」の部分が不穏ですね。意訳すると「悪用しがいがある」になりそうです。

 手っ取り早く確実に毒の後始末する方法が手に入ったので、毒や疫病をまき散らす戦術が使いやすくなったと思っていても不思議はありません。

 いえ、これまでのことを考えるなら、ゴブリンスレイヤーも、蝸牛くも先生も、もっと斜め上のアイディアを出して来そうですね。

 

牛飼娘と森人の結婚式

 妖精弓手に、その姉と従姉の結婚式に招待されたゴブリンスレイヤー一行。牛飼娘と受付嬢にもお誘いが来ます。

 異国情緒とロマンあふれる「森人の結婚式」という言葉への牛飼娘の反応がかわいかったですね。仕事の日程のことに悩みつつも憧れが止まらず、目が輝きだす感じが。

 キャラクターが大きく変わったわけではなく、物語が進むにつれていろいろな面が出てきただけですが、初期のどこか超然とした牛飼娘と比べると、やはりこういう姿もいいですね。面白かわいくて。いえ、超然とした部分があるからこそこういう部分も映えるのです。

 そして、夕暮れの牧場で、顔を赤らめつつも小さい頃の結婚の約束を捏造して、ゴブリンスレイヤーの反応を見る彼女。

 「そんな約束をした覚えはないぞ」とあっさりばれてしまいますが、笑顔でお道化た後に「しておけばよかったのにね」と独白が続きます。

 あったかもしれないもしもと、そうならなかった現実。大切な人が隣にいて、でもその人との間にはどうしようもない隔絶もあると。ゴブリンスレイヤーと牛飼娘を語る上でこの幸福と不幸の二律背反は外せない要素ですよね。

 夕暮れの空に流れる雲や、牧場の地面に並ぶ影、後ろ歩きでお道化た後に、身体の向きを変えての独白と、場面の描写も雰囲気が出ていました。

 

 

 森人の森へ向かうゴブリンスレイヤー一行。牛飼娘と受付嬢が一行の冒険に同行することも今までになかった展開でわくわくします。剣の乙女も久々にゴブリンスレイヤーと対面しました。

 牛飼娘は何処か超然としている様で、水の街の人込みにくらくらしたり、おしゃれな受付嬢と自分を比べてしまったりするところに、イヤーワンの牛飼娘の名残がある気がします。

 筏での川上りやそこで目にする景色、初めて目にするものに目をキラキラさせているのもかわいかったですね。