タイトル:だんドーン
作者:泰三子
年代:2023~
巻数:既刊4巻
あらすじ・概要
時は幕末、激動の時代。
薩摩藩主・島津斉彬(しまづなりあきら)公に使える川路正之進(かわじしょうのしん)。太鼓の達人で身分的にはギリギリ武士。いろいろ細かいこと、黒いことを考えてしまう武士らしくない自分の性格がコンプレックス。
彼が主君から仰せつかった仕事は、藩で浮いている純粋でクセ強めの男・西郷吉之助(さいごうきちのすけ)を新しい時代の旗印としてプロデュースすることでした。
後の川路利良(かわじとしよし)と西郷隆盛(さいごうたかもり)。日本警察の父と呼ばれる男と、誰もが知る幕末の偉人との出会いでした。
『ハコヅメ~交番女子の逆襲~』の泰三子先生が描く、本格幕末コメディーです。
彼らは激動の時代を舞台に、どんな狂騒曲を奏でるのでしょうか。
日本警察の父が西郷隆盛をプロデュース
『ハコヅメ~交番女子の逆襲~』で社会派のお仕事漫画と笑えるコメディーを見事両立させた泰三子先生の新作。今度は歴史コメディーです。
歴史上の偉人たちが泰三子先生独自のフィルターを通して描かれることで、大いに面白いことになっています。
歴史上の人物を題材に漫画を描く場合、その人物のどの様な面を掘り下げてキャラクターを作るかは作者それぞれだと思いますが、泰三子先生の描くそれは、とても人間的魅力があり、かつ、突っ込まずにはいられない面白キャラに仕上がっています。と言うよりも面白すぎます。
こんな大胆に解釈していいのかを疑問に思いそこに笑いつつも、妙に納得してしまう絶妙な塩梅。泰三子先生の驚異のバランス感覚には流石の一言。
歴史漫画として本格派で、郷土史家の方が監修するどころか、「ベテラン刑事かってくらいの勢い」で聞き込み・調査などをしたそうです。
その上で、本格派の歴史漫画としてだけでは終わりません。
癖の強めの解釈の仕方に加えて、インパクトのある表現で笑えるコメディーとして読者に届ける手腕は相変わらずです。
ハコヅメで読者を大いに笑わせたハイセンスなセリフ回しや、独特のテンポはむしろパワーアップしています。
歴史モノとして本格派であり、同時にコメディーとしてもハイクオリティーな一級品。
主人公の川路正之進は、自分の主君である薩摩藩主・島津斉彬に命じられて、西郷吉之助を新しい時代の旗印にするために動き出すわけですが、この2人のコンビが面白いです。
真っ直ぐでかつ独特な西郷吉之助に振り回される川路正之進。西郷吉之助への突っ込みは的確で表情系のリアクションも表現力抜群。
一方で目端が利く切れ者である川路正之進にも、周囲との認識がズレている部分があり、ボケ役も兼ねます。自分自身のボケには気づかず、大きな黒目の西郷吉之助にじっと見つめられる川路正之進の図には何とも言えない可笑しさがありました。
時と場合によってはこの2人がそろってボケに回るなんて展開もありえます。
心優しき藩主にして、有能無茶ぶり人たらしウェーイ系カリスマ上司である島津斉彬も魅力的に描かれています。
薩摩×泰三子先生のコラボが反則的に面白いです。
当時の生活や情勢についても、さりげなくかつ分かりやすくかつ笑えるように描かれているので、日本史に詳しくない読者でも楽しめます。
なお、単行本のおまけページにはこの漫画の制作秘話やら何やらがエッセイ風に書かれています。
そこでも言及がありましたが、もしかしたらこの漫画は『ハコヅメ~交番女子の逆襲~』に対して「ハコヅメゼロ」とでも評すべき漫画なのかもしれません。※違うかもしれません。
こんな人にオススメです。
- 『ハコヅメ』が大好きな人。
- 近代警察の父と誰もが知る幕末の偉人の物語に興味がある人。
こんな人にはオススメできません。
- 歴史モノというジャンルに興味がわかない人。※拒絶反応があるレベルの歴史嫌いでないのなら一度読んでみることをお勧めします。
- 近代警察の成り立ちに全く興味がない人。